巡る希望
「なんだよ。 あいつ」
三百号は落ち込みながらもずっと少女の事を考えていた。
「何かしらの事情があるだよなぁ絶対」
そう言って口元を歪めて笑う。
「ぜってぇあの冷めた目を辞めさせてやる」
そう心に三百号は誓った。
朝目が覚めた時見えたのは少女ではなく小さな子供だった。
「こんにちは三百号。 私はお前を監視するアンドロイドクロナだ。 はやく成長して異能を発言させろ実験動物」
「……うわぁ。 めっちゃ生意気な子供キタァ」
「……スクラップにしますよ? 三百号」
そう言って三百号はクロナに監視されながらいつも通り狼やライオン鷲やカラスと戦った。
「……おいあの少女はどうしたんだよ?」
「……あなたに言う必要あります?」
冷めた目で三百号を見るクロナ。
「……お前はなんかねぇのかよ。 面白いとか楽しいとか」
「……そんなの私にあるわけないじゃないですか?」
淡々ととした目つきで三百号を見るクロナ。
見た目が八歳ぐらいの子供ぐらいの大きさでおかっぱの髪型をしているので人が見れば座敷童だと叫んで笑うだろうその見た目。
そんな見た目のせいか三百号は可愛い家族が出来たかのような錯覚を覚えた。
「……何か勘違いしていません? 別にあなたは死ぬまでこの施設で生きて死ぬ動物なんです。 あなたが生きて成し遂げる事なんて何もない。 ただ搾取されるだけです」
「……そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ?」
「……愚か極まりない」
そう言ってクロナは監視から外れた。
「……ここを出てやる」
密かに三百号はそう決意した。
「出て下さい」
そうクロナに言われて三百号は部屋を出た。
「あれ? 人がたくさんいる」
いつも通りの広い空間に行くと様々な人がいた。
『今からお前達には戦って貰う』
「えっ?」
『いいから始めろ人造人間ども』
「うぉぉぉぉ!!」
「成果を! 成果を出さなきゃ!!」
「俺達はどうせ死ぬんだ!!」
「は、はやく! はやく終わらせてくれぇ!」
三百号は目の前の光景が悍ましく見えた。
叫ぶ、殴る、異能が吹き荒れる。
そして人が地面に倒れて血を流す。
倒れた人造人間は息をしていなかった。
生まれて初めての血と死を見た。
それも人間の血、生きている証拠である。
血と他の人造人間達を見て三百号は思い知った。
自分達に生きる権利などない事を。
「あぁぁぁぁぁ」
発狂する。
死にたくない。
死にたくない。
かと言って殺したくもない。
三百号はひたすら逃げて、逃げて、その日の戦闘を回避した。
「うぁ」
怖いという感情だけが心を支配した。
死にたくない。
生きたい。
ただ、生きて死にたい。
この命が寿命という概念によって死にたいと三百号は思っていた。
「もう寝よう」
そう言って三百号は意識を眠らせた。
「うぁ?」
白い空間だ。
白い空間にいる。
「ま、まさかまた戦うのか? 嫌だ! 嫌だぁぁぁぁぁ」
あんな悲鳴と阿鼻叫喚な地獄にいたくない。
悍ましい。
「お、俺は生きたい生きていたいんだぁ!」
それは三百号に生まれて初めて生まれたプライドのようなものかも知れなかった。
「うぐうぁぁぁぁうぅぅぅ」
恐怖で気が狂った。
ただ子供のように子供三百号は泣いた。
「……誰?」
声がする。
凛として優しい声。
「……なんだよ? ウゼェんだよ! あっち行け!」
目の前にいる女性が怖くって三百号は声を荒げる。
同時に見惚れてもいた。
灰色の髪に黄金の瞳なんて美しいのだろうと思った。
「……なんだよその目は? あっ? 俺をおちょくってんのか!?」
初めて向けられる感情に三百号は戸惑い声を荒げる事しか出来なかった。
「……えっとあなた名前は?」
「……あっ? 三百号っていう実験動物だよ!」
そんな事しか言えない。
実質三百号はそういう人生しか歩めない。
「……名前ないの?」
何故か目の前の女性が戸惑ったように首を傾げた。
「……名前なんて上等な物持ってねーよ!」
そんな態度にむかついて三百号は怒号しか上げれない。
「……じゃあ私がつけてもいいかな?」
「……はっ?」
名前だと。
そんな上等な物を彼女はくれるのだというのか。
何を言っているのか三百号には意味が分からなかった。
「巴なんてどうかな?」
「……なんで名前なんかつけるんだよ?」
ただ困惑して意味を聞いた。
「うーん。 私も何もなかったからかな?」
「何もねぇだ? お前はいい見た目してるし、裕福で家族もいたんだろ? いい身分だな!? おい!」
見た目がまず裕福そうな女性の不幸自慢にむかついて三百号はひがみを爆発させた。
「……ううん。 違うよ。 私は捨て子だったんだ。 雪山に捨てられて死にかけた所を仲間に救われて今の私にして貰っただけだから」
「はっ? なんだよそれ」
三百号はどうせ作り話だと思った。
「……それで名乗ってくれる? これから三百号じゃなくて巴だって」
「……なんでお前の決めた事に俺が従わなくちゃなんねーんだんよ!」
女性のあっけらかんとした態度に心底ムカつく。
なんでそんな事を言ってくれるのか分からなかった。
「……あれ? もしかして友達いない感じ?」
「う、うるせぇ!」
友達はいると思う。
言葉を教えてくれた少女とクロナだ。
「よしよし。 大丈夫大丈夫」
すると女性はいきなり三百号を抱きしめて来た。
「なんだよいきなり?」
暖かさに驚く。
優しく、甘い匂いもする。
「辛かったんだね?」
「何がかっんだ?」
声が震える。
「頑張っているんだね?」
「……う、うぅぅぅぁぁぁぁ」
「よしよし」
泣いた。
少年が泣いてしまった。
年相応の子供のように泣いてしまった。
「……ぐす。 グビ」
もう強がっている事が出来ない。
ただ年相応の少年のように泣く事しか出来ない。
「……たとえ今は一人でもいつか君は大きくなって色んな人に出会えるよ」
「……本当か?」
「うん。 本当」
そう言って女性は笑った。
「……名前なんて言うんだよ」
急に名前を聞きたくなった。
「オルレイ・アースって言うんだよろしね」
「じゃあオルレイまた会えるか?」
「うーん多分会えないと思う。 だから忘れないでいて生きていれば必ずいい事があるって心の中で思って生きてね巴」
「分かった」
そう言って三百号は巴は指切りをした。
「じゃあ幸せにね巴」
「……分かった」
こうしてオルレイ・アースは粒子となって消滅した。
巴はその姿に感動を覚えた。