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偽物と魔性の民  作者: 宅間晋作
誕生編
25/37

襲撃と抱擁と涙

「へへ、やっと帝国の領地になりそうな土地を見つけたぜ!」


「デルザボスさん! この土地はやく蹂躙しましょうよ!」


 ドミエラとアウラが戦っている時間帯に一つの一団が人工島に来ていた。


「俺ら帝国特使がいりゃあこんなのは楽勝だぜ!」


 右目に眼帯、左手が大きな義手である男デルザボスクルードが人工島楽園に来ていた。

 彼はヴァレスト帝国の特別幹部である帝国特使と言われる八人の幹部の一人である。

 彼らは船で人工島楽園に辿り着き今にも人工島を破壊尽そうとしていた。


「……破壊する権利があなた達にあると思います?」


 そう言いながら一人の女の子がデルザボスの目の前に立っていた。


「あん? この国のガキか? まぁいいはやくやっちま……え?」


 デルザボスが部下に指示を出すと同時に三十はいた部下達が血を流して倒れていた。


「あっ、もう終わりましたよ?」


 よく見てみると部下達の体にはナイフが刺さっていた。

 気配を感じなかった。

 音も匂いもしない。

 ただナイフの投擲だけで部下が死んだのだという事実だけは悟った。


「あっ?」


 いきなり左手がキュインキュインと音を立てている事にデルザボスは気づいた。


「ガキが何を?」


「だから言う必要あります?」


 目の前に来るとようやく目の前の少女の顔が分かった。

 おかっぱの髪にジト目背が本当に小さくてこんな少女が今自身の部下と左腕を壊そうとしている奴なのかと内心デルザボスは戦慄した。


「が、ガキがぁ! ソニックブームメント!」


 デルザボスは左手にある風の魔法を高速の球として放つソニックブームメントを発動しようとしたが放とうとした左手は既にチェンソーによって切り落とされたのだと今頃気づいた。


「こんなガキに俺がぁ!?」


「終わって下さい」


 そう言って少女はどこからか出したのか分からない日本刀でデルザボスを体を袈裟斬りにしてデルザボス・クルードの命を奪った。


「がふぇ」


 そんなデルザボスの断末魔は風に消えていった。




「……なかなかに強敵でした」


 そう言いながらテキパキと死体を処理していくクロナ。


「……迷彩のシステムがなければ私は壊れていたでしょうね」


 相手は言うまでもなく手練れだった。

 真正面からバカの一つ覚えに突撃して戦っていたら自身の敗北は確実であったであろうとクロナは考えた。


「……あに様達は大丈夫でしょうか?」


 愛する人と散歩に出掛けて行った兄貴分を思いながらクロナは思いを馳せた。



「……とりあえずこの子を家に運ぶか?」


「ああ、ミエルを家で休ませてやりたい」


 そう言ってアウラがミエルを抱き抱える。


「ふっ、相変わらず重いのか軽いのか分からないな」


 アウラの顔が笑顔になる。

 どこまでもその顔は親愛に満ちていて優しい。


「巴はやく家に帰ろう」


「お、おう!」


 巴はそんないつもクールな表情ではないギャップに心奪われながらも家に帰った。


「クロナただいま」


「……お帰りなさいあに様」


 家に帰るといつも通りに割烹着姿のクロナがいた。


「アウラその胸に抱いている女の子は誰ですか?」


「私の義理の妹のミエルだ」


「義理の妹ですか」


 目をパチパチ と瞬きしながらクロナがミエルを見た。


「クロナ悪いな人が一人増えて」


「何を言っているんですかアウラ。 大切な家族なのでしょう? これぐらい任せて下さい」


「ありがとう」


 アウラが冷静な声でクロナと喋るが声は震えていて涙がポロポロと溢れていた。


「とはいえ姉妹と再会出来てよかったなアウラ」


「ああ」


「とりあえずご飯でも食べて落ち着こうぜ」


「そうだな」


 そう言って巴とアウラはご飯を食べて眠った。




「……ふぁ」


 巴が起きてリビングに行くととんでもないです光景を見た。


「……何をしてらっしゃるのですか? お客様? 勝手に人様の果物全部食べる馬鹿がいますか?」


「な、何よ! お、お腹減っていたんだからしょうがないじゃない!」


「へー? お腹が空いていれば人様の食糧の二割食べ切っていいと?」


「そ、それについてはわ、悪かったって言っているじゃない! ああもう! 他に人はいないのかしら!」


 顔を赤面しながらぷりぷりと金髪に青い瞳の少女は恥ずかしながりながらクロナと喋っている。

 テンガロンハットを被り、黒いコートを着ているので一目見たら厨二病とカウガール混ざったヘンテコ衣装なのに巨乳ロリという事でとんでもない属性てんこ盛りで巴はびっくりした。


「おいクロナどうした?」


「ああ、あに様。 このお客様が勝手にうちの食料の二割を食べ切ってしまったので怒っていたところです」


 クロナが金髪少女確かミエルと言っていた少女を指差しながら静かに怒っていた。


「あ、あんた家の奴? あ、アタシはミエル・ホイッパー! アタシを見つけてくれてありがとうけ、けれどか、勝手にご飯を食べてしまったのはご、ごめんなさい」


 そう言ってミエルは頭を下げた。


「ふぁどうした朝から騒々しいな。 これでは鍛錬も静かに出来ない」


 そう言いながらアウラがリビングにやって来た。


「お、お姉ちゃん!?」


「……ミエル起きたのか!」


 ミエルがアウラを見るなり、全身を硬直させ、アウラは目覚めたミエルに感激してそのまま抱きしめた。


「ミエルすまないな。 九年間ひとりぼっちにして」


「う、うぁぁぁぁぁん。 お姉ちゃん!」


 アウラは静かに泣いてミエルの背中を撫で、ミエルはただ子供のように泣いていた。


「……すごい無粋な事を私はしてしまったようですね」


「そんな事ないさしばらく二人だけにしとこう」


 そう言いながら巴はクロナの頭を撫でた。


「そうですね」


 そう言って巴とクロナはリビングから出て行った。




「巴、ミエルに貴様達の事を紹介したい」


「いいぜ」


 リビングを出た十分後にアウラが巴の寝室に来てそのまま二人はリビングに向かった。


「……あ、改めてお、お姉ちゃんアウラ・プライズマンの義理の妹のミエル・ホイッパーよ。 よ、よろしく」


「俺は仲条巴。 こっちの小さいのはアンドロイドのクロナだ」


「小さいは余計ですあに様」


 巴の雑な紹介にクロナがやや不貞腐れた声を出した。


「お姉ちゃんこの人達と九年間暮らしてたの?」


「ああそうだ」


 そう言いながらアウラはミエルの頬を挟んで撫でた。


「ミエル。 お前に会えて嬉しい」


「うん私もだよお姉ちゃん」


 アウラとミエルは抱きしめて笑い合った。

 そこには確かな絆があると巴は思う。


「……あに様?」


 やや悲しんだ表情をする巴の顔を見てクロナが顔を覗き込んできた。


「お辛いのですか?」


「いや、二人が再会出来て良かったって思ってんだよ」


 巴は気づかなかったがその目には涙が溢れていた。


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