修羅場
ところで人工島楽園について話そう。
小原明の異世界の知識と河原一族の物作りの才能の叡智を結晶化した島国は千年の時を経て、高度な科学文明を築いた。
それぞれ三区域に分かれており、一区が高級住宅、二区が買い物の施設や異能力者ではない者が暮らす地域になってるのに対し三区はほぼ無法地帯と言っていいほど異能力を使って悪さをする悪人どもの巣窟だが何故そこに人工島唯一の学校があるかと言うと生徒達や人間の交流を深める為である。
異能を使って悪さをする大人や子供の抑止力と安全施設の面を担っているのが十五歳の成人の歳まで勉強に鍛錬、知識を深め研究出来る学校月明学院である。
「来たな月灯学院」
「六歳の年から九年間学ぶ施設なのだろう?」
そう言って隣にアウラが立っている。
ちなみに服はアウラがセーラー服で巴は学ランだ。
「……は、恥ずかしいな」
するとアウラが赤面している。
「……別にいいじゃねぇかよ。 お前も学校とか行く年齢だったんだろうし」
巴は鞄を肩に担ぎながら言う。
ちなみにクロナは家で留守番だ。
アンドロイドは学校には来れない規則になっているので家事をやって貰っている。
ここは六歳の少年少女達が大人になるまで学び、切磋琢磨しあう学院なのだから。
「……帝国は基本的に軍学校だ。 五歳から入学し、十六歳で戦場に出たりする者が多い」
「……戦争しているのか?」
「戦争……というか反乱軍との内乱が起こっている。 国王アザイアの政策のせいでみんな腹が減って飢えているんだ。 民の幸せを考えない政治で私はイライラする」
「……六歳の子供が政治について考えるとかやばくないか?」
「……富国強兵を謳い、孤児も多いんだ。 食糧は与えられず教育のお金もないから孤児院のシスターに私は勉強と魔法を教わっていたんだ」
「そうなのか」
アウラの発言に巴は頷いた。
「おっ、見えたぜ! クラス表だ!」
巴はクラスの振り分けが書かれた紙を見つけて指差した。
「さてと俺は……あった一組だ! アウラは?」
「私も一組だ」
「じゃあ一緒だな!」
こうして巴とアウラは月灯学院の門を叩くのだった。
「……よし挨拶肝心だよな?」
「はやく入るぞ」
緊張する巴をよそにアウラはずけずけと一組の教室の中に入ってしまった。
「おい待てよ待てって・・・」
「えっ?」
中に入ると恐ろしい光景があった。
金髪で銀の羽を纏った少年が生徒達を軒並み倒していたのだから。
「おいこのクラスで強い奴は他にいるのか?」
光景を見ている巴を無視して少年は巴とアウラを睨んでくる。
「……あれ? クラス間違えたかな? 俺やばい感じ?」
冷や汗が全身から溢れ出た。
「……雑魚そうな見た目だなぁ? おい」
「名を名乗れ」
するとアウラがいつの間にかナイフを持っていた。
「……あのぅアウラさん? 何で学校にナイフ持ってきてんの?」
「……護身用だ」
「絶対違うよね。 敵をザシュっと暗殺する用ですよねそれ」
視線だけを巴に向けながらアウラは真剣な表情を向けてきた。
「まぁいい。 冥土の土産に名乗ってやるよ俺は鳥根帝。 よろしくなぁお前とおんなじクラスだ」
「とりねみかど? 新しい焼き鳥屋の名前ですか?」
「殺す!」
「うぁ!? ご、ごめんなさい! 本当にそんな風に聞こえるんですって!」
巴が思わずボケると鳥根は銀の羽を巴達の方へ飛ばしてきた。
「させるか!」
するとアウラが前に出てナイフ一本だけで銀の羽を全て粉々に斬り砕いた。
「……速くて見えねぇ」
巴はそんな呑気な声をあげた。
「チッ、テメェを切り刻んで!」
「やめなさいミカド。 私が戦闘の許可を出したかしら?」
「あん? お嬢! 今いい所なんだから邪魔すんじゃねぇよ!」
「静かにして、今小説がいい所なの」
「ちっ」
薄ピンク紫髪の少女に鳥根が声を掛けられると鳥根が銀の羽を解除して頭を乱暴に掻いた。
「ごめんなさい。 うちのミカドが粗相をしたわ」
そう言いながら少女が本を閉じてそのままアウラと巴の方へ歩いてきた。
「……貴様は?」
「ご機嫌よう皆様。 私は精霊国アラディスの第二王女サラ・レイクと申します」
そう言いながらサラはカーテンシーをした。
「……何故精霊国の第二王女がこんな所にいる!?」
するとアウラが汗を流してナイフを強く握り警戒心を強めて吠えた。
「ちょっアウラ?」
アウラの狼狽ぶりに巴はついていけず、あたふたした。
「ふふ。 見た感じエルフね? しかもなんて珍しいシフォルの民ね。 綺麗な銀のメッシュ」
そうケラケラ笑いながらサラが後ろで手を組みながらアウラの周りを歩く。
「な、何が目的でこの人工島にいる!? サラ・レイク王女」
「私の目的は戦力の確保。 それとあなた達と友達なりたいから」
「触れるな!」
六歳の子供とは思えないぐらい妖艶に笑いながらサラがアウラを抱きしめて耳元で囁く。
アウラは反射神経でサラの手を払った。
「つれないのねあなた。 けれどいいわ。 面白い。 そんな骨のある子は大好きだから!」
「遅いな王女様」
するとサラの足に水を纏ってまるでスケートのエッジのような鋭い刃をアウラに向けて蹴り下ろしていたが、それをアウラは器用にナイフで受け止めていた。
「いい、いいわあなた。 ここの人工島の連中とは一味違う感じがいい。 でもこの身のこなしの速さ……あなた帝国人?」
「あっ?」
サラの帝国人と言う発言にアウラがキレた。
恐らく父の亡くなった瞬間を思い出して激怒しているのだろう。
「私を帝国人と呼ぶな! 私はアウラ・プライズマン! 偉大なエルフの父親ディア・プライズマンの娘だ!」
「そう。 アウラっていうの? 素敵な名前ね? ぜひお友達になりましょう?」
パンっとサラが両手を叩いて笑う。
そしてすぐさまアウラの手を取ってにこやかに和やかに笑う。
「……初対面だが私は貴様が嫌いだ」
「あら私はアウラの事が大好きよ?」
アウラとサラは笑っているがどこか剣呑な雰囲気を纏っていた。
「……マジで勘弁してくれよ」
巴は入学初日で精霊王国の王女様と修羅場を体験する事になってしまったのだった。