魂の融合
「はぁどうしようかなぁ」
巴は途方に暮れていた。
一週間ふらふらしているが巴は何も楽しくなかった。
ただ時間が過ぎていった。
「よし、一回帰るかぁ」
特に何もなく、やる事もないので巴は家に帰った。
家に着くとアウラとトモエが仲良く会話していると思ったがアウラの魔力が爆発したのが分かったので思わず声を掛けた。
「おいやめとけよ」
するとアウラが緑の瞳を巴への方へ向けて来た。
「……巴なんでここに?」
「……て言うかアウラ俺の事見えてんの?」
「もちろんだ。 私はお前の体と魂に紋章をつけたのだから」
「……こぇぇぇ」
巴は思わず腰を抜かしそうになったが自身が今霊体であることに気づき気を保った。
「……よく帰って来れたね三百号。 僕の体に戻りたいのかな?」
トモエは挑発の笑みを浮かべる。
「……お前も見えてんのか?」
「ああそうだとも。 元々この体は君のなんだからね。 僕が無理やり乗っ取っているだけだ」
「……あに様の魂を返して下さいオリジナル。 でないと首をそこら辺の樹木のように切り落としますよ?」
背後からブォンブォンと音が響いて振り返るとクロナがジト目でチェンソーを鳴らしながら今にでもトモエに向かって切り刻みに行こうとしていた。
「……クロナさんそれ俺の体なんですが?」
「ええ分かっていますよ? あに様」
「えっ聞こえてんの!?」
ひとりごとのつもりで巴が喋っているとクロナが巴の方を向いて話しかけていた。
「えっ、分かるの? マジで?」
「……おおマジとだけ言っておきます。 私は一応魂の治療も出来るように作られたアンドロイドなので魂を捕捉することなど造作もないのです」
「……えっ? なんか怖い」
巴は淡々と言うクロナが恐ろしく感じた。
まるでどこにいようとも追いかけて来るとそう宣言されたように聞こえた。
「……茶番はいいかな?」
「……どうすんだよトモエさんよ」
トモエの行動を巴は無言で見つめた。
「まぁもう限界かな僕が」
「……どう言うことだ?」
「だから僕は消えるんだよ」
「……悪役気取ってたって事か?」
「それより答えてくれ。 何で帰って来た?」
「……そりゃあここしか帰って来る所がねぇからだよ」
「まぁそうだろうねえ。 僕と同じだ」
「……同じ?」
トモエの言い方が引っかかった。
「僕はね。 僕を殺した奴ら対して恨みがある。 けれどねそれは果たせそうにないんだ」
「どうして?」
「最初に言っただろう僕は魂のほんの一部でしかないと。 不完全な魂は現世に留まり続けることは難しいんだ」
「方法はないのか? 留まる為の」
「ないさ。 まぁ君の魂の一部になるならいいかな」
「一部に?」
「だから僕は一回君を体から追い出したんだ。 わざとアウラに対して俗物な感情を抱いたりしたしね」
「……本当か?」
巴は言い方が胡散臭いトモエを睨んだ。
「まぁこんな狼みたいな女は僕はごめんだな。 命がいくつあっても足りない」
「んな!?」
トモエの発言にアウラが赤面した。
「う、うるさい! わ、私こそお前みたいな未練がましい男は嫌いだ!」
「ふっ、嫌われてしまったね」
両手を広げて、やれやれと首を振りながらトモエは嘆息した。
「さぁ早く巴融合しよう」
「……俺は別に消滅していいんだぞ?」
巴は三百号の立場としてオリジナルであるトモエに向かってそう言った。
何故ならばオリジナルのトモエの方が無知で無力な三百号よりもいいと思ったからだ。
「……いやそれこそ出来ない。 魂と肉体はコインの表裏のようでねどちらかが違えば魔力や身体そして精神に悪影響が起きるんだよ」
「お前はなってないじゃん」
「それはこの体が浅儀トモエに一番近いからだ。 けれど本当の僕の体じゃないし、魂も弱いだから君の魂の一部に僕はなりたいんだ」
「……何でだ? このまま消えてもいいんじゃねぇーのか?」
「転生が出来ないし、本当に僕という個人は抹消されているんだよ大川手塚の存在によってね」
そう言ってトモエが悲しそうな顔をした。
「……分かったお前を俺の魂の一部として取り込むよ」
「ありがとう」
そう言うと巴の体が倒れて、青白い小さな玉が現れた。
『さぁ僕を食べてくれ』
「……いただきます」
『ありがとう。 僕のクローン。 幸せに生きてくれ』
巴はトモエの魂を手に取って咀嚼し、飲み込んだ。
「……何も起きない?」
「巴とりあえず自身の体に戻ってくれ」
「おお分かった」
巴はそう言ってから巴自身の肉体へと戻った。
「ん?」
体が軽く感じた。
それと同時に体が大きくなっている感じがした。
「あれ?」
「……巴お前背が大きくなっているぞ? 五歳ぐらいの大きさに」
「えっ?」
そうアウラに言われてから風呂場の鏡を見た。
「……あっ」
本当に大きくなっていた。
筋肉も脆弱ではなくしっかりとある。
言うなれば人間に近い存在となっていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
巴は膝から崩れ落ちて涙を流した。
巴は理解した。
三百号と言うクローンは本物浅儀トモエの人生を奪ってしまったのだと。
「お、俺はどうしたらいいんだ?」
取り返しのつかない事をしてしまったと思った。
「……巴。 それがオリジナルである浅儀トモエの願いだ。 受け取ってやってくれ」
「……でも」
「今回はたまたま良かったが魂の捕食は危険だ。 何故ならば深く混じれば性格や感性、価値観や意識が混濁して自殺してしまう事もある。 これはおそらくもう一人の巴が肉体を乗っ取った事によって魂と肉体の拒絶反応及び反発がないからだ」
巴の肩を叩きながらアウラが真剣な顔をしながら言う。
「も、もしも反発していたら?」
「……巴は巴でなくなっている。 また魂の大きさも小さかったのも良かった。 もしも魂が大きれば,本当に命すら危なかったかもしれない」
「……そんなに魂とは重いものなのか?」
「ああ、シフォルの民が魂を喰えると言っても限度があるからな。 まずは魂弱らせてから食べるが本当に浅儀の方はよく考えてお前に食わせたよ」
「……生きなきゃな俺は」
巴は浅儀トモエに対して感謝をしながら涙を流した
「……あぁ生きなきゃないけない」
泣いている巴をアウラが背後から優しく抱きしめた。
「ありがとうアウラ」
「……心配するな巴一緒に生きよう」
この日巴とアウラは生きる覚悟をした。
一ヶ月後巴とアウラは三区にある学校前に来ていた。
「ここから俺達の物語は始まるんだな」
「ああ行こう」
そう言って巴とアウラは学校の門へ足を踏み入れた。




