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魔性の獣

「ん?」


 巴が目を覚ますとそこはリビングだった。

 おかしい巴は庭で気絶して眠っている筈なのにリビングで目を覚ますとはどう言う事か全く分からなかった。

 体がある実感がない。

 よく見てみると巴の肉体は透明である事に気づいた。

 

「声は出る」


 巴は声が出ることを確認してから歩き出した。


「ありがとうアウラ俺、唱独術を覚える事ができたよ!」


「ああ、それはよかった」


「え?」


 目を疑った。

 なんと巴がアウラから唱独術の手解きを受けて、笑っているのだった。


「な、何が一体どうなってんだ?」


 巴はひとまず巴の肉体とアウラの観察を始めた。


「ありがとうアウラ俺これからもたくさん勉強していこうと思ってるよ」


「そうかそれは嬉しい」


 目の前の巴がアウラに笑顔を向けている。

 その事実がなんだか巴は涙が出そうになっていた。


「なんだよ……これ」


 生まれて六日。

 巴は生まれて初めて本当の絶望を知ることになった。



「おい、アウラ! クロナ! 気づいてくれ! それは俺じゃない!」


「お昼は何が食べたい?」


「うーんカレーがいいかな? クロナお願いできるか?」


「分かりました。 私、頑張って作りますね?」


「おうありがとな!」


 誰も巴に目を向けてくれない。

 ただ目の前にいる巴の顔を被った誰かに対してアウラもクロナも笑顔を向けている事実に巴は悲しくなった。


「あ……れ?」


 右目から一筋の涙が出てきた。


「お、俺、一生このままのか?」


  ずっと巴はこのままなのかと絶望してもう何も見たくなくて巴は家から出て行った。

 その時に何故かアウラが巴が飛んでいく所をちらりと見ていたことに巴は気づかなかった。







「ふ、絶望したようだね三百号」


 巴が外に出るのを見届けた者がいた。

 その声は浅儀トモエのものだった。

 実はトモエは三百号の魂を追い出して肉体を乗っ取っていたのだ。


「バカだな三百号この体は僕に一番近い肉体なんだ。 そして大川に殺された恨みも僕にはある」


 実はトモエは肉体と魂を実験素材に使われて死んでいるが魂の一部を肉体に馴染ませる事で生まれたのが仲条巴という人造人間三百号であった。


「君が幸せになる事なんてないんだよ三百号」


 その目は憎悪に染まっていた。





 巴が消えて一週間が経った。


「ありがとうアウラ俺完全に唱独術を身につけたよ」


「いや巴が優秀だからだ。 すごいと思う」


「それはありがとう」


 トモエは三百号の声でアウラに向けて笑う。

 こんな美少女と一緒に暮らせている三百号はなんて幸せなんだろうかと思う。

 だからこそ憎い何故母浅儀葵と父六夜翔太が死ななければならなかったのか。

 なんなら目の前にいる少女も殺したくなった。


「なぁ巴」


「なんだアウラ?」


 するとアウラが巴を見て凍りついた笑みを浮かべた。


「いい加減に芝居はやめてくれないか?」


「え?」


 ゾッとする声だった。

 トモエ自身が刀で斬られて死ぬ残像すら見えてしまった。


「……お前からは巴の魂の匂いがしない。 お前の血が美味しそうに私は感じない」


「……な、何を言ってんだよアウラお、俺は俺だぜ?」


 何をばかな事を言っているんだと思う。

 魂に匂いなんてあるわけないだろうとトモエは思った。


「……お前の魂を喰ってやろうか?」


「は?」


「言っていなかったな? シフォルの民は魂を食べる事によってより魔力や力を増すんだ」


「……え?」


 目の前にいるアウラが今にでも自身を喰らおうとする狼にトモエは感じた。


「お前は不味そうだが喰ってやりたい」


 目が赤く染まり犬歯を見せて舌を舐めてアウラが笑った。


 今にでもトモエを食べたい。

 そう言わんばかりの表情だった。 


「ひっ!?」


 悍ましかった。

 トモエは誤算していた。

 ここは人間の住む家ではないシフォルの民という獣という魔女の棲家であることを今思い知った。


「うぁ」


 自身がこの女を手玉に取れると考えていた。

 無理であった。

 シフォルの民の魔性の本能を恐ろしさを知った。

 こんな狂った女から愛される三百号が恐ろしいとすら思った。


「く、狂ってる! あ、愛している者をた、食べたいと思うか! 普通!」


「うん? 本物の巴も食べたいと思っているぞ?」


「あ?」


 意味がわからなかった。


「な、何を言ってる? お、お前は!?」


「ふふ、欲しい欲しい。 血と子と魂が」


「うぁ!?」


 妖艶で悍ましい。

 本当に六歳の子供なのか。


「すると声がした」


「おいやめてけよ」


「……巴」


 背後を振り返ると巴がおり、アウラの目が緑に戻った。




 



 


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