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第一話 小さな村

 周宇は村のはずれ、小さな古びた家にひとりで暮らしていた。壁はひび割れ、屋根の隙間からは雨が染みこむ。床板は軋み、風が吹くたびに、窓枠の隙間から木々のざわめきと冷たい空気が忍び込んできた。それでも、この家は彼にとって唯一の居場所だった。


 村の中心までは坂を一つ越えなければならず、人の気配は少ない。周宇は子供のころから、村人と深く関わることがなかった。人と話す機会も少なく、彼のまわりにはいつも、ひとりきりの静けさがあった。


けれど、その静けさの中で、彼の胸にはいつも一つの渇きがあった。


「霊脈さえあれば……」


それは、何度も心の中で繰り返した言葉だった。


 この世界で修仙を志す者には、霊脈と呼ばれる特別な資質が必要とされる。霊脈を持つ者は、自然の霊力とつながることができ、修行を通じて強大な力を得る。空を舞い、炎を操り、雷を呼ぶことさえできる。


 だが、周宇にはそれがなかった。幼いころ、村の占術師に「霊脈は見つからなかった」と宣言された瞬間から、彼の世界は閉ざされた。


 どんなに努力しても、霊力を得る術はない。そう信じて生きてきた。


――けれど、あきらめきれなかった。


ある春の午後。空は高く晴れわたり、鳥の声が遠くで聞こえていた。畑で草を引きながら、周宇はふと手を止める。


向こうの広場では、村の若者たちが霊術の修行をしていた。ひとりは空中を浮かび、もうひとりは土塊を自在に操っている。風が渦巻き、光がきらめく。彼らの周囲には、明らかに異なる「力」の気配があった。


「……俺には、やっぱり無理なのか?」


 太陽の光がまぶしくて、視線をそらす。胸の奥に、焼けつくような感情が湧いた。羨望と、悔しさ。そして、どうしようもない無力感。


そんなときだった。


 足元で、カタン、と何かが土に当たる音がした。目をやると、雑草の影から、土に半ば埋もれた木箱が顔をのぞかせていた。古びた木の表面はひび割れ、長い間そこにあったことがうかがえる。


「……なんだ、これ?」


 しゃがみこみ、慎重に掘り出すと、箱のふたはかすかに開いていた。中には、すりきれて色あせた一冊の本。革の表紙は古文のような文字で書かれているが、ところどころかすれて読めない。


不思議だった。なぜか、その本に目が離せなかった。


手に取った瞬間――風が変わった。


 さっきまで穏やかだった空気が、重く、冷たくなる。本の中心がかすかに光り始め、ページが自動的にめくれはじめた。そして、見えない力が空間に波を生み出す。


「な……なんだ?」


 ページの文字が、ひとつ、またひとつと浮かび上がり、金色の粒となって周宇のまわりを舞う。光はまるで生き物のように脈動し、彼を囲むように渦を描いた。


 体が動かない。まるで重力とは逆に引っ張られているようだった。手も足も、地面を踏む感覚さえ失われる。


「やめろ! 俺はこんな……っ!」


 叫んでも、声は風にかき消された。次の瞬間、本の中心から放たれた強烈な光が、彼の体を空へと引き上げる。


 視界が白く染まり、音が遠のく。まるで水の底に引きずり込まれるように、彼はゆっくりと、しかし確実に、光の裂け目へと吸い込まれていった。


……そして静寂が訪れた。


その場には、本だけが取り残されていた。風が一陣吹き、ページがめくれる。


その下には、見たこともない奇妙な地図と、中央に浮かぶ金色の古文字。


そして、うっすらと浮かび上がる影――それは、人の姿をしていたが、どこか人とは違う、異形の存在。


「まさか……」


 周宇は感じていた。あの本には、自分のように霊脈を持たない者でも修行できる何かが書かれている。そう、直感でわかったのだ。


この本こそが、失われた「もう一つの修仙の道」なのだと。


――こうして、誰にも知られぬ場所から、ひとりの少年の異端の修行が始まった。



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これは趣味で描き始めたものでありいつ失踪するかわかりません。それまで応援お願いします

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