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ありがちな転生日和

拝啓、神様へ。

一体私の何が悪かったのでしょうか。昨日お父さんのビールを勝手に飲んでしまったことですか。お姉ちゃんのアニメ録画を消して、今期アニメの録画に切り替えたことでしょうか。それとも、お母さんのライブTシャツを勝手にパジャマにしていたことでしょうか。


寒い冬の日、バイト終わりの帰り道で私のことを出迎えてくれたのは、ブレーキという概念を忘れ去ったトラックだった。

眩しい光とともに、強い衝撃がはしり、痛みはあったものの他人事のように私は自らの死を悟った。

1つ心残りがあるとするなら、明日家族でクリスマスパーティだったのに、ケーキ食べ損ねちゃったなぁなんて、取り留めのないことを考えながら、カンカンというサイレンの音をBGMに私の意識は薄れていった。


いつまで寝ていたのか、ふと瞼の裏で眩しい光がチラチラと差し込んでいるのを感じて目を開けた。白を基調とした部屋に柔らかいシーツ……。ここは病院なのか?そうなると散々死が……とか考えていた自分がとても恥ずかしく感じるんですが!

それにしても、見覚えの無さすぎる部屋だし、ナースコールなども見つからない。誰か来てくれると有難いのだけど、大声で人を呼ぶのも起床すぐの身体には少し難しそうだ。これは諦めて2度寝するしかない、といそいそシーツの中に潜りこもうとした時、ガチャっとドアの開く音とともに、水色の髪にメイド服を着こなした女性が入るなり、「お嬢様ー!」と泣き叫びながら抱きついてきた。いやいやいや、一旦落ち着いて下さい!?ツッコミどころが多すぎて追いつかないよ!?とりあえず、掠れた声で水を求めると水色メイドさんは直ぐに水を取りに行ってくれました。

帰ってくると、医者のような方を連れてきていて、体の調子について軽い問診を受けることになった。


一体、これはどういうタイプの夢なのか…。

ふと、水差しに写った自分の姿が目についた。

そこには、金髪紫眼の可愛らしい幼女の姿が写っていた。髪はサイドにまとめられて巻かれており、目元には厨二病全開の黒い蝶の痣がある。分かりやすい特徴に見覚えしか感じないのだが!何せ私の好きだった剣と魔法の乙女系RPG「幻花嵐戦記」のライバルキャラ、ミカエラ・アルデンツィにそっくりなんだもん!


この、ミカエラ・アルデンツィは物語の中盤学園編で登場するライバルキャラで、公爵家の権力と魔法の才能で、メインヒーローを射止めた主人公の前に立ち塞がり続ける結構厄介なキャラクターなのだ、

行動原理は婚約者を取られた嫉妬と分かりやすいが、何せ挑んでくる回数が多い。これは後のキャラクターブックで分かることだが、実はミカエラは優秀な兄と比較され続け王家の婚約者でいないと、家族に認められない。それは必死にもなりますよね。といったキャラなのだ。


余談はそこそこにして、今1番の問題はそんなミカエラに私が転生してしまったことである。現代的に言えばネグレクトや虐待のような扱いを受けることが確定しているこの子の人生、私に耐えることが出来るのできるのか。もう既に残っているミカエラの記憶だけでも心が折れそうだけどね。神様、もう少し慈悲をくれても良かったんですよ!


現実に意識を戻すと、水色メイドはまだ泣いていてまともな会話が出来るとは思えなかった。泣き声の合間に出てくる情報によると私は、流行病の高熱から1週間も目を覚まさなかったようだ。それは、身体の節々が痛いのも納得だね。

どうやら、こちらの世界の家族も流行病にかかっていたそうで3日までは誰も動けなくてお屋敷が大混乱だったそうです。


そうこうしてる間に、部屋にノック音が響きました。返事をする前に無造作に開けられたドアから入ってきたのは、きっちり整えられた銀髪に口髭、鋭い紫の眼、そして首筋に、これまた厨二病全開の氷の結晶のような痣がある威圧感マシマシのイケおじです。

そう、この人がミカエラのお父様、公爵家当主、通称(絶対零度の番人)グレン・アルデンツィなのです。鋭い眼光がギロリと私を睨む。まずい。考え事を優先したせいで挨拶さえ出来てなかった!このままでは罰せられるのでは?と急いで立ち上がって挨拶をしようとした身体が、地を這うような重低音の問いかけで止まる。

「名前は?」

パニックになっている私は絞り出したようなか弱い声で「安藤……」と言ってから後悔した。こんなところで初歩的なミスをしてしまうなんて!名も名乗れない娘なんて必要ない、とこれまでより酷い扱いを受ける可能性すら浮かんでくる。

初めての名乗りからハードすぎませんか!?静まり返った部屋の中で、お父様は手早くメイドや使用人を部屋から追い出し始めた。


緊張が張り詰める私達以外が居なくなった部屋で、お父様は深く息を吐くと、「いやぁ、ほんとに良かったぁ」と頭をかきながら、さっきまでとは打って変わって少し間延びしたような口調で笑いかけて来た。

その姿は私の前世のお父さんそっくりで、そんなわけないと思いながらも私は「お父さん?」と呟いていた。その瞬間強く抱きしめられ頭を撫でられて、私は涙が止まらなかった。

その時に気づいた。私はずっと目を逸らしていたのだ、自分が死んだこと、もう二度と家族に会えなくなってしまったことに。暫くして落ち着いてから、私達はお互いの状況について、情報交換をすることにした。


「いやぁ、実はさ、あの日隣の家の小火が燃え移ってそのまま死んじゃったんだよね〜。で、気付いたらこんなイケメンになっちゃって。これはお父さん第2のモテ期来るんじゃないか?で、こっちにはお母さんもお姉ちゃんも一緒に居たからさ、逆に1人で残してしまったんじゃないかって心配してたんだよ。」

いやいや、軽くないですか?死んじゃっんだよね〜じゃないよ!あれ、ということはお母さんとお姉ちゃんも?

「お母さんが変わらず、お嫁さんで良かったよね。ほんとに。修羅場になる所だったよ。お姉ちゃんはね、うーん、まぁ変わってないと言えば変わってないんじゃないかなぁ。」

少し歯切れの悪いお父さんの言葉に疑問を覚えつつも、家族みんなで、まだ居れる事実が嬉しすぎて私はまた、少し泣きそうになってしまった。

「そういう訳なんだけどね、そろそろお母さんとおに、お姉ちゃんも呼んでいいかい?記憶がない可能性もあったから先にお父さん1人で会いにきたけど、実はずっと部屋の前で待ってるんだよね。」

お父さんがまだ言いきらないタイミングで勢いよくドアが開き2人の人間が駆け込んできた。

1人は柔らかくウェーブした長い金髪に水色の瞳を持ったスタイル抜群の美女で手の甲に植物のような形の痣がある。ゲームの中では出て来なかったけど、きっとこの人がお母さんだ。だって、既に「うわーーん!ほんっっとうに良かったわ!!」泣きながら抱きついて来てるし、もうお母さんじゃなかったら怖い。

問題はもう1人、長めの銀髪を後ろでまとめた、水色の目つきの悪いイケメン…。左目の下に薔薇のような痣がある。私の家族構成的にこの人がお姉ちゃんのはず…なんだけど。イケメンはツカツカと近づいてきて風のような速さで私の後ろに回ると「わぁー!!ミカちゃんだぁ!今日も世界一可愛すぎるんだが!!」と言いながら頭を撫でてきた。あ、はい、間違いなくお姉ちゃんですね。嬉しい3割、恥ずかしい7割のこの時間はしばらく終わらないのだった。

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