灰の思い出
「…………!!」
「……?……!」
……誰かが言い争っている声が聞こえる。
重い瞼をあげるとやよと優ちゃんが言い争っていた。
「!憂……良かった……起きた……」
泣きそうな顔で
何故こちらを見るんだろうか。
「ごめん弟切。俺があの時のこと話そうとしたから」
やよの言葉で思い出した。
"あの時"のことを無理に思い出した反動からか倒れたんだった。
「ごめん。僕やよの事忘れてた。優ちゃんも、心配かけてごめんね。たぶん僕どうかしてた。全部忘れるなんて」
「ごめん、俺のせいで辛かったよな。俺昔その事について弟切の父さんから言われてたんだ。お前が解離性健忘だって。無理に思い出させると危ないって。でもその名前の意味全く分からなくて何を思い出させるのがいけないのかも分からんくて、干渉しすぎた。お前が倒れたあと調べてみたんだよ。大きなストレスを受けた時記憶を消してしまう病気らしいんだ。それで多分お前は忘れてた。抵抗出来なかったことだからお前は悪くない。仕方ねぇよ」
昔、あった"あの出来事"。それは母さんが快楽犯に殺され、僕はそいつの"作品"として傷をつけられた。そんな出来事だった。
父さんは僕が辛い出来事を思い出さないように母さんは出て行ったと教えこんだ。
これ以上辛くならないように。
でも、このことを思い出すと多分だけれど事件の直後記憶を取り戻すより辛い。だって、僕はそんなことを忘れて母さんを恨み続けてた。父さんと共に僕をこよなく愛してくれた母さんを僕はずっと恨んでしまっていたんだ。
そう思い出すと大粒の涙で目の前が見えなくなった。
喧嘩して出ていったと思い込んだのは幸せな思い出が歪んだ記憶となっていただけだった。
暴言を吐き散らし、言い争いをしていた母さんと父さんがいるその記憶は元々は今日はどちらが僕と散歩をするかの言い争いだった。些細な出来事の記憶だけれど歪んででも生き残ったその記憶はずっと心の底では大切な記憶だったのだろう。
「……大丈夫?」
「馬鹿、大丈夫なわけないだろこんな状態で」
そう言い争う2人が平和で今、なんで僕がこんなに平和な空間にいるのかこの世に生きているべきなのは母さんなのに。僕が生きていることが恨めしくて。苦しい。
息をすることが難しくなるほどに無いてごめんなさいと謝っても母さんは戻ってこないし、母さんを恨み続けた時間も無くすことは出来ない。
また世界がモノクロになっていった。
あぁ、やっと色付いたのに。
やっと感情が芽生えたのに。
またこうなってしまう。
生きる意味が分からない。無い。
そんな状態になった。
やよと優ちゃんを置いて僕はぼーっとしたまま横に置いてあったバックを取って帰った。
歩くほどに地面に飲み込まれるようで、歩くのが難しかった。