全て飲み込む不安
今日は一限から体育だった。
しかもマラソン。しかも夏。最悪な日だった。
僕は走り終わり木陰で休んでいたが、暑すぎて全くもって休みにならなかった。
だが、一つだけ良い事があった。マラソンを走り終わった人達の隙間から見える優ちゃんはいっそう美しく見えた。日に当たり白く輝く肌に紅く光を取り込む瞳。
これは僕の性癖なだけかもしれないが、人混みから少し見える優ちゃんをスマホで撮って一生残したかった。
「あ!憂〜!」
優ちゃんはこちらに気付いたようで汗だくで疲れているだろうに走ってこちらに向かってきてくれた。
「優ちゃん、足痛くならない?あんなに走ったのによくまだ走れるね」
「そりゃおばあちゃん家のバイトで力仕事いっぱいしたからね〜!多分それで筋肉が育った」
輝く笑顔が僕の心に突き刺さった。
とにかく、優ちゃんに笑顔が戻ってよかった。
……
学校が終わり、帰宅時間になった時1人のクラスメイトが僕に声をかけてきた。いや、あれは独り言か?とにかく、僕に聞こえるようには言っていたと思う。
「男と付き合うとか正気かよ。阿婆擦れ。」
名簿を見たところ、彼の名前には見覚えがあったので2年か1年には同じクラスになっていた人だろう。
彼の名前は「佐ヶ野夜縁」
うちのクラスの男の子の中では一番の問題児で学校もあまり来ない子だったと思う。
ていうか僕は男だから阿婆擦れという言葉は意味的に合わないし、そもそもクラスの誰一人にも優ちゃんと付き合っていることは言っていない。優ちゃんも多分言ってないはず。
何故知ってるんだろう。
とりあえず優ちゃんが待ってたので早く帰る事にした。
優ちゃんは今日も僕の部屋で寝る事になった。
お母さんと顔を合わせる勇気がないらしい。僕なら一生会いたくないって言ってしまうかもしれない。優ちゃんの「まだ」会えないと言っているところが優しすぎる。だから傷付きやすく病みやすいのかもしれない。
「憂、ちょっとこっちに」
急にお父さんが僕を父の部屋に押し込んできた。
「優輝くん、まだ家に帰られなさそうなんだろう?優輝くんのお母さんに俺が会って長めのお泊まりって言って当分はうちで過ごすってのはどうかな?それなら優輝くんも少し心が軽くなるだろう?」
父さんのナイス提案は僕も考えていた事だ。
「一旦優ちゃんに相談してみる」
僕はそう言って父の部屋を出て自分の部屋に行った。
「優ちゃん、僕の父さんから提案があるんだけどさ……」
そう言ってさっき父と話したことをそのまま優ちゃんに伝えた。
そうすると優ちゃんの顔は明るくなり凄く嬉しそうだった。
「本当??俺ここにいていいの??」
「うん。父さんからの提案だし、僕は優ちゃんがいてくれた方が嬉しいしこの家に断る人なんていないよ。」
そう言うと優ちゃんはだだだっと階段を駆け降りて父さんに感謝をして、僕のところにまた戻って僕にも大きな声でありがとうと言ってきた。
また優ちゃんが犬に見えた。
その後優ちゃんから住所を教えてもらい、父が優ちゃんのお母さんに説明しに行った。
荷物はいいの?と優ちゃんに聞くと特に持ってくるものないからと父と一緒に行かなかった。
……
「憂? どうしたの?」
静かな部屋の中で無言になった僕に異変を感じて優ちゃんが話しかけてきた。
心の中で ぶくぶく、 ぶくぶくと何かが湧き上がってきて。 、 。。
丁度父がいなかったので僕は優ちゃんにキスをした。
何故か死ぬほど心が乾いていて、優ちゃんに触れると満たされる。そんな気がして。
キスをした。じゃなくて、襲った。だったかもしれない。
急に溢れた感情だった、父がいない家で静かな2人だけの空間。それが僕の感情を刺激したのかもしれない。
優ちゃんはそんな僕も受け入れてくれた。
優ちゃんといると僕が何かに飲み込まれていく。
どんどん変わっていく。
幼い何も知らないあの僕から黒ずんでも飾られた額縁から大きな忘れ物まで全て知っている僕に。
優ちゃん
優ちゃん
愛しているよ。
※優ちゃん愛してるよ