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海月を突き刺すフォーク

最近は優ちゃんは元気がなかった。

僕と付き合い始めて、多少笑顔は増えたがから回る笑顔が多かった。でも僕と付き合ったことは優ちゃんにとっても嬉しかった事らしく元気が無い理由では無いらしい。

きっと優ちゃんの家の事情だろう。毒の父親と鬱の母親。僕の家は父親はまともで優しかったから家にいるのは別に苦ではなかった。でも優ちゃんは家には居づらく、学校では人の目を気にしすぎてしまう。そんな状態で、どこにいても苦しみが絶えなかっただろう。


「優ちゃん、大丈夫?」


ぼーっとしすぎているような気がしたので話しかけた。


「あぁ、憂か。どしたの?」


やはり、もう限界なのかもしれない。


「いや、なんでもないよ。ねぇ、今度また夜に海にでも行こうか?」


こんな時は気持ちを切り替えるためにお出かけが1番。お出かけとは言っても海だけれど、心を落ち着かせるには最高の場所だろう。


「あ〜、そうだな。時間あったら、今度行こう。」


やはり優ちゃんはぼーっとしていて、言葉の返しすらも気が抜けているようだった。


その後話しかけることが出来ず家に帰った。

夜、急に優ちゃんは僕の家に来た。


「憂、憂…」


玄関に出ると大雨なのに傘をさしてこなかったのかびしょ濡れで、転んだような泥汚れの跡がある優ちゃんが立っていた。

優ちゃんは大泣きしながら僕の名前をずっと呼んで抱きしめてきた。


「え、ちょっ、どうしたの?びしょ濡れじゃん。大丈夫?」


大慌てしながらも玄関の段差に優ちゃんを座らせた。

優ちゃんの家の事情を父にも少し話していたので父は大急ぎでタオルを持ってきてくれた。


父「優輝くん大丈夫かい?その感じだと…あれかな。うちに泊まってくかい?」


優ちゃんはずっと無言で顔をタオルで覆っていた。


「優ちゃん、ここら辺とか傷だらけだからちょっと救急箱とってくるね。」


僕はそう言って立ち上がった。

その時優ちゃんはタオルを投げ出して僕の手を掴んだ。


「憂、ごめん。ここにいてくれない?手掴んでて欲しい。凄くからだ震えて、ここからちょっと動けなくて」


確かに優ちゃんの手は冷たく凄く震えていた。

僕は優ちゃんの横に座って背中をさすって、救急箱は父に取ってきてもらうことにした。


タオルとティッシュで足の泥汚れや雨を拭き取ると傷がどんどん出てきた。来ていたパーカーを脱がせると背中にもたくさんのアザがあった。

優ちゃんの父親は最低の父親だ。

僕は無言でクリームをあざに塗ったり、傷の部分を消毒したりした。


「憂、ごめん。あと、憂のお父さんも、迷惑かけてすみません。こんな時間に。」


優ちゃんはずっと申し訳なさそうにしていた。


父「全然大丈夫だよ。苦しくなったらいつでも来なさい。憂樹も君が来るのを楽しみにしているようだしね。」


父は少し微笑みながらそう言った。

父の温かみが伝わったのか、優ちゃんは少し安心したようだった。


「よしこれで傷は全部消毒出来た。優ちゃんご飯は?」


「まだ食べてないけど……」


優ちゃんの冷たく細々とした腕を眺めながら僕は心を痛めた。

父は優ちゃんの言葉を聞いてそそくさと優ちゃんの分の夕ご飯を用意し始めた。


「今父さんが準備し始めたみたいだから一緒に食べよう。だけど……先に服着替えるか」


幸い優ちゃんと僕の体格は身長以外ほぼ同じだったので僕の服を着せた。


「ごめん、なんも持ってきてなくて」


何度も謝る事に怒りが込み上げた。最近怒りやすくなっている気がする。


「謝らないでくれない?僕はしたくてやってる。優ちゃんは僕に助けを求められるって判断したからここに来たんでしょ?だったら謝らずただ助けを受け入れて。」


この言葉を聞いて優ちゃんは少しだけ表情が緩んだ。

父がご飯だよ〜と言ってきたのでリビングに行った。


父「優輝くん、これも食べなさい。ご飯のおかわりはいるかい?味噌汁は飲むと身体が暖まるよ。」


優ちゃんが父の勢いに押されていたので父を止めに入った。


「父さん、優ちゃんのペースで食べさせてあげてよ。困ってるじゃん」


そう言うと父はしゅんとした顔をしてご飯を食べ始めた。

優ちゃんはあわあわしながら美味しそうに父から差し出されたおかずを食べた。

その後順番にお風呂に入ってリビングで話し合った。


「で、家で何があったの?優ちゃんのお父さん?それともお母さん?」


「……今日はあんまり無かったんだ。」


優ちゃんは泣きそうになっていた。


「あんまり無かったって?」


「その、父さんの暴力。今日はあんまりなかったんだ。でも今日は母さんだった。急に叫び出して、お前が生きてるのがいけないんだ。お前は死ぬべき。お前を産まなければよかった。お前が生きてるから私が殴られるんだ……」


優ちゃんは優ちゃんのお母さんから言われた言葉をずっと言いながらまた泣き出した。泣き出しても止まらない言葉に僕も悲しくなって優ちゃんを抱きしめた。もう言わなくていい。苦しいだろと言いながらぎゅっと抱きしめた。そうすると優ちゃんは嗚咽しながら話し出した。


「俺が悪いんだ全部、全部俺が生まれたから。俺が生まれなければ父さんと母さんは喧嘩しなかった。母さんは鬱病にならずに済んだ。俺が生きてるせいで。」


また、昔の自分と優ちゃんが重なって見えた。でも優ちゃんは昔の僕より少し、いや、もっとたくさんの苦しみを抱えているように見えた。

「うん」「そっか」「そうなんだね」と言い返しながら優ちゃんを抱きしめて頭を撫でた。


「ごめん。ごめん憂、俺、おれが、」


息もしずらそうにしていたので背中をトントンしながら息をするのを優先するよう促した。

優ちゃんはずっと泣きながら謝っていた。


「少し落ち着いた?あーあ、こんなに泣いて。明日は目ぱんっぱんだな」


そう茶化しながら涙を拭うと優ちゃんはキスをしてきた。

急で言葉も出なく顔が熱かったので多分真っ赤になっていた。

ギリギリ父が2階で既に寝ていたので見られはしなかった。


「憂、ありがとう。ここまで俺を助けてくれて。俺なんもできてなくて甘えてばっかでごめん」


僕は両手で優ちゃんの頬を挟んで今度は僕からキスをした。


「そんな事言わないでよ。さっき言ったよね。謝るなって。僕は優ちゃんがいるだけで良いんだ。それだけで幸せだと感じるから。」


そう言い返すと自分からしたくせに優ちゃんは顔を真っ赤にして顔を逸らした。


「その、僕はさ人と付き合った事なかったし恋もした事無かった。優ちゃんが初めてだったからその相手が喜ぶ言葉とか分かんないからこういう事しか出来ないんだけど」


あわあわしながらこういうと優ちゃんはふわっと笑った。


「憂は優しいから俺が初めてじゃないと思ってた。じゃあ憂の初めてのキスも俺なんだな。まぁ俺も付き合うのもキスも初めてだけど」


お互い初めてのキスと分かって驚いた。


「キスってどうするのか正直わかんないよね。こう、みんなが言うさ、濃厚キス?あれって歯当たりそうだよね」


そう言い返すと優ちゃんは真っ赤に染った。タコみたいに本当に真っ赤で面白かった。


「そんな細かく言わなくて良いよ〜……」


頼りなさそうな弱々しい声でそう言い返してきた優ちゃんは写真に残したくなるぐらいに可愛かった。


その後前と同じように優ちゃんをベッドに寝かせた。

一瞬で眠ったので、うちで眠るのは安心するようだった。

※この物語はフィクションでいて欲しくありません。

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