美しい作品
僕の背中には昔から奇妙な怪我があった。
父からは「事故の怪我」と言われていたが触った感触では事故で出来るような怪我ではなかった。でも、記憶が無い僕には証拠も何も無いから事故の怪我で終わらせるしか無かった。父が阻止したりして、鏡で見ることも出来なかったから。
前までは。
記憶を取り戻した今では全てのことが思い出せた。多分、そこら辺の同年代の人より小さい頃の記憶が鮮明にあると思う。
時刻は午後1時。全身黒でパーカーのフードを被った「彼」が僕の母を殺した。
まずは小さめのハンマーで頭を殴った。ダラダラと流れる血を靴下に染み込ませながら包丁を持って首に"作品"を彫った。
もう既にそこで母は息絶えていたと思う。こちらを見つめながら。僕はずっと逃げろと叫ぶあの眼から逃げられなかった。目が離せなかった。足がすくんで動けもしなかった。
その時「彼」は僕が動けない事をいい事にそのまま服を脱がせてまた"作品"を作り始めた。
その時彫られたのは、翼を切られた天使の背中だった。肩甲骨の部分に切り込みを入れられ僕は絶叫していた。その時間は家の外に人がいることを知っていながら絶叫を抑えようとせず、むしろ気分が良さそうに僕の絶叫を録音していた。血の溢れる音がよく聴こえるように、近くにスマホを置いて。
その後僕の叫び声を聞いた近所のおばさんが通報をした。
警察が近くに来ていても逃げようとしない「彼」は呆気なく捕まった。すぐに捕まったから他に被害は出ないと周りの警察や家庭が安堵していたが、僕だけはそうじゃなかった。
「あの時あいつが逃げていれば、他の奴らも母さんや僕と同じ苦しみを味わえただろうか。そうなれば良かったのに。なんで母さんだけが。なんで僕の家族がこんなに苦しまなきゃいけないんだ。もっと酷いやつならそこら中にいるのに。」
そう怒りが溢れた。
色々あったあと、暗い暗い部屋の中で何かがプツンと切れた。そこから多分記憶が無くなったのだろう。
そして今も暗い暗い部屋の中で蹲っていた。
スマホが振動しても父に扉を叩かれても何も聞こえないみたいに音が膨張して何がどの音か分からなくなっていった。
その後すぐに僕は眠った。
起きると横に優ちゃんがいた。同じように囚人座りをして窓から空を眺めていた。いつの間にか翌日になっていたらしく、優ちゃんはベットで寝ず僕と一緒に床で座ったまま寝たみたいだ。
「あ、おはよう。お尻痛くない?座ったまま寝てたから痛むでしょ。」
昨日置いて行ってしまったのに優ちゃんは何も無かったかのように接してくれた。そのおかげか少し心が晴れた。
※この物語はフィクションです。




