空
「そういえば、この生き物はなんという生き物なのですか? ずっと不思議だったのですが、やはり実際に会っても見たことがない生き物です」
「ああ、俺も初めて見た。羽が生えているから鳥かな?」
「冒険者でも見たことがない生き物なんですね。鳥…… 私が知っている鳥とは見た目が違いますが…… そもそも毛も生えてなくないですか?」
「良い指摘だ。まあ、王都に行った際に調べてみるつもりだ。図書館で調べれば何かわかるかもしれない。ああ、業者に聞くのも良いかもな」
魔物については、ペットにしたいという人も一定数いるため、販売したり養殖したりする業者が存在する。有名ではない魔物ほど人気があったりもするため、下手をすると本よりも業者の方が詳しい可能性すらある。
「そうですね! それにしてもこの子すごい大人しいですね」
「ああ。名前はハクというんだ。と言ってもさっき付けたんだが。人の言葉もわかるようだぞ」
「キュい〜」
「な? そう言えば、名前はなんと言うんだ?」
「私ですか? ナズナです。貴方のお名前も聞いても良いでしょうか?」
「ナズナか、よろしく。俺はサンだ」
「サン様ですね、どうぞよろしくお願いします」
「堅苦しいからサン、でいいぞ」
「なるほど…… わかりました。では、サン。どうぞよろしく」
「よし、じゃあ早速出発するか。とりあえず王都に戻る、で問題ないか?」
「ええ、問題ないです。直近の大きな予言が3つあるのですが、場所もわかっておりません。王都で情報収集したいです」
「まあこの辺りで一番近くて大きい街だもんな。ちなみに予言は王国内に限定されるのか?」
「どうでしょう、関係ないと思いますが、この国から出たことがないので…… 他の国については知らないことばかりです。もし、王都で何も情報を得られなければ他国も視野に入れた方が良いのかもしれません。ただ……」
「ただ?」
「逆説的ですが、予言は直近、数ヶ月以内程度のものになっています。遠い場所であれば物理的に到着できないのでは、と思います。王国を出るだけで数ヶ月かかるのではないでしょうか?」
「移動か。確かにそれは考えていなかった。歩いて向かうとなると相当大変だな……」
多くの人にとって、国から出ることは選択肢にない。それは単純な話で移動が大変だからだ。大馬と呼ばれる魔物に乗って移動しても、王都から隣国である帝国や連邦に向かうのは、順調に休みなく進んだ場合でさえ数ヶ月かかる。話によると言語は大陸で統一されているため会話に困ることはないらしいが…… それにしても面倒だ。サンも王国の外に行ったのは1度だけ、興味本位で出かけたが、王国が恋しくなりすぐ戻ったので同じようなものである。
「そう考えると、一回間違った場所に行ったらおしまいだな……」
「ええ……」
「キューン」
その時、ハクが鳴きながら羽をばたつかせた。
「きゃっ、すごい風」
「そうか! ハクに乗っていけばいいか! どれくらいのスピードが出るかわからないが、空での移動なら大幅に早く移動できるんじゃないか? 確かグリフォンで…… 大馬の数倍の速さだと聞いたことがある。空なら障害物もないし坂もないから実際はもっと早いだろうな」
「良いですね! この子の背中なら二人乗れそう! ハクさん、乗っても大丈夫ですか?」
ナズナは目を輝かせ、任せてくれ、とばかりにハクは羽ばたいている。
現代において空を移動する手段は極めて少なく、グリフォンのような大きく羽が生えたごく一部の魔物に乗るかしかない。だがその有用性は極めて高く、急ぎの連絡や軍の攻撃部隊などに重宝されている。空を飛べる人材と魔物はすぐに誰かに囲われ活用されるため、サンでさえも空を飛んだことは全くない。一般人のナズナには機会は皆無だろう。興奮するのも無理はない。そういうサンも楽しみで仕方がない。
「とりあえずハクに乗って、王都を目指そう」
二人はハクにまたがる。背中は大きく二人で乗っても問題ないサイズだが、横になるのは難しそうだ。
「寝る場所は確保しないとな。しばらくは野宿になるかもな」
「ええ、まあ野宿に関しては大丈夫です。ここまで来る時も野宿してきたので。大変でしたが……」
「まあ空から見て良いところで止まれば良いだろう、とりあえず飛んでみよう」
ハクは翼をはためかせ、浮かび上がっていく。とてつもない速度で空に上がっていく。
「どこまで空高く飛ぶんですか!?」
「あまり高いと怖いな。おーいハク、ここら辺で良いぞ」
あまり低いと下を歩く一般人を怖がらせたり、野生の魔物と間違えられ兵士や冒険者に攻撃される可能性があるので、少し高さを取って飛ぶことにする。下には森や草原が広がっており、初めて見た景色に興奮を隠せない。
「すごい景色だな!」
「ええ、こんなに森が小さく見えるなんて! きゃっ、速い!」
ハクはすごい速度で飛んでいく。大馬の数倍なんてものではなさそうだ。
「振り落とされるなよ! 大丈夫か!?」
「大丈夫です! 鱗を掴んでいればなんとかなります!」




