女は予言する
「私には未来が見えるんです」
「ほう、未来視か。たまにそういうことを言う冒険者を見かけるな。じゃあ俺の攻撃を避けることは出来るか?生き残ったらお前は初めての未来視能力持ちとして認めてやろう」
「ちょっと待ってください…… そういうことではなくて、ふとした時に頭の中に未来のある瞬間のイメージが湧いてくるんです。災害や魔物の襲撃など良くない未来が大半なのですが、こんなことが起きるよということがイメージできるんです。直近の未来は具体的で鮮明に、先の未来はボヤけて見えます」
「災害予知か。ベルジャミンと一緒じゃないか」
「違います。現に今私がここにいる理由を考えてみてください。黒い髪の光を放つ男が白き魔物を従えさせる、そして私はその者と旅に出る。そういう予言を得ました。しかもいつもとは違い、良いことであるという感覚付きです。私はそれを信じてここまで歩いてきたんです。ベルジャミンのようにこの出会いを意図的に引き起こすことができると思いますか?」
「確かにそうか。そもそもどこから一人で来たんだ?」
「色々あって最近は様々な村を転々としていましたので…… で、冷静に考えてください。こんな一般人がこの場所まで一人で来られると思いますか? 私は武力がゼロです」
「こんな魔物だらけの場所でよく生きてこられたな……」
「それは予言の力だと思います。ここまで魔物と遭遇することは全くありませんでした。私が道半ばで倒れれば予言が実現しなくなるからでしょう。これも証拠ではありませんか?」
確かにどこからやってくるにしても魔物と合わずにここまで来ることは常識では考えられない。人がいない場所には魔物が多数存在している。それはこの世界の常識だ。そして、その魔物を退治して人の地を切り開いていくのが冒険者の役割である。こんな未開の地で強力な冒険者なしで活動できる人間はいないだろう。
「面白いな。他の予言についても話せるか?」
「ええ、わかりました。直近の予言については、3つあります。ちょっと待ってくださいね。メモを出すので。えーっと
「冒険者ギルドで片目の大男に絡まれる」、「龍を盗もうとする貴族が現れ、逆鱗に触れる」
「エルフの女の子と旅の途中で一緒になる」
これがこれからの私達の旅で発生する出来事です」
「えらく具体的な予言だな。ちょっと待て、私達の旅?」
「ええ、私達は一緒に旅をすることになります。この後のほとんどの予言で、私と貴方の姿が映っていますので間違い無いかと」
サンは旅することは嫌いではない。むしろ今までは喜んで辺境の地まで向かっていた。だが、それは目的があるからである。例えば今回のハクとの戦いのような、目的がなければ浮浪者と変わらないではないか。
「なぜ旅をする必要があるんだ?」
「それは…… 私の予言には特徴があります。それは、予測された未来を変えることができるということです。そして予言の中で、ボヤけてはいるのですが繰り返し警告を発せられるものがあります。予言によるとこの国、いや世界が戦乱の渦に巻き込まれるようです。その予言の阻止、これが旅の目的です」
「どんな予言なんだ?」
「まだはっきりとは見えていませんが、「一人の女が多くの屍のある玉座に座っている。街には死体が溢れ、炎が燃え盛っている。死体で溢れかえる街が無数に存在する」という予言です。この予言を見る際には必ず頭が痛くなります。極めて強い警告であると考えています」
「世界の破滅か。なるほどな。それは俺も無関係とは言えないな。面白いじゃないか」
「面白い、ですか?」
「ああ、興味深い、と言った方が正しいか。生まれてきてから25年、初めて予言というものに出会ったよ。しかも俺が世界の重要人物になるんだろ?」
「そのはずです。多くの予言に貴方の姿が映っています」
「いいね、そういう物語は大好きだ。話に乗ろうじゃないか」
「本当ですか!? ありがとうございます。信じてくれるのか、話を聞いてくれるのか不安でしたが…… 良かったです」
「まだ信じたわけではないぞ。ベルジャミンの話を知っていればわかるだろ?」
「ええ、もちろんです。しかし、私と旅をしていただければ必ず予言の力に驚くと思います。私も初めて自覚した時には衝撃だったので」
後にこの出会いを振り返ったサンは、どうして自分がこんなにもすぐ面白いと感じたのかがわからなかった。異様な環境がそうさせたのか、ハクとの戦いで興奮していたからか。そしてどうしてナズナはこれほど一緒に旅をしたがったのかもよくわからない。しかし「これも予言の仕業」ということが、非合理的ではあるが正しいだろうと直感的に思うのである。




