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異常①

 電話が鳴っている。


 ズボンのポケットに入れておいたスマートフォン。

 それが、鳴っている。


 ハルヒコを家に送り届けた帰り。

 帰宅路を走る車の中である。


 正確に表現するのならば、鳴っているのではなく振るえている。

 僕の運転を中断させるべく、意固地になって振るえ続けている。


 この振るえかたは、メッセージの類ではなく明らかに電話の着信だろう。

 運転を中断し、早く電話を取ってやるのが良いのかも知れない。


 ならば、と僕は車を減速させ、道の脇に寄せた。

 そのとき、それまでやかましいほどに続いていたバイブレーションがぷつりと止んだ。


 止んでしまった。

 せっかく停まったというのに。


 少しだけ悔しい気分になりながら、それまでの暴れ具合が嘘のように静まり返ったスマートフォンを引っ張り出し、着信履歴を確認する。


 ハルヒコだった。

 時間は既に午前三時を回っている。

 こんな時間に電話をかけてくるような人物は、なるほど十数分前まで一緒にいたハルヒコぐらいのものだ。


 僕はエンジンを切り、ハルヒコに電話を入れた。

 直前までコールしていただけあって、受話器はすぐに取られた。


「何か用だった?」


「すまないなこんな時間に。もう家か?」


 友人の軽い口ぶりが、僅かなノイズをともない耳に流れ込む。


「いいや、まだだけど」


「そうか。じゃあ、家に着いてからでいいよ」


「大丈夫さ。運転中じゃあないからね」


 僕の言葉を吸い込んだ後、電話機は黙り込んだ。


「もしもし」


 どうかしたのかと思い声をかけると、向こう側でハルヒコの声が浅く呼吸する。


「どうしたんだい、黙っちゃって」


「ああ、なんでもない。じゃあ、また後でかけなおすよ」


「いや、だから大丈夫さ」


 電話を切られそうになり、僕は少し慌てた。


 せっかく電話に出るために車を停め、その上わざわざ、切れた電話にこちらからかけなおしたのだ。

 ここで電話を切られてしまっては、それまでの手間が全て無駄になってしまうような気がしたのである。


「だけどこの話は、絶対に帰ってからの方が良いって」


「そんな言われ方をすると、余計に聞きたくなるだろう。それに、そのことが気になって安全運転ができなくなったら、どうしてくれるんだい」


「そうだな、安全なほうが良いもんな。じゃあ、話すよ。後悔するなよ」


 ハルヒコのやつ、やけにあっさり折れるじゃないか。

 僕はなんだか拍子抜けした気分で次の言葉を待った。


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