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助手席のゆうれいさん②
走りだすと、件の信号機まではあっという間だった。
最初に幽霊さんを乗せて逆方向へ走ったときには、とても長く感じたというのに。
目的地に到着して、幽霊さんに別れを告げた。
ちらほらと歩行者もいたけれど、彼らに幽霊さんが見えているのかは分からない。
幽霊さんが去った後、後部座席を覗き込むと、オレンジジュースの空き缶が残されていた。
まったく、ゴミを置いていくなんて、と缶をつかんでーー
助手席に置いた。
今後また、幽霊さんに会えるのかは分からない。
近いうちにまた出会うのかも知れないし、死んだ後にすら会えないのかも知れない。
幽霊さんが霧のように消えていくのを見届けた後、僕はゆっくりと車を走らせた。
オレンジジュースの匂いが、微かに漂ってくる。
助手席に、座ったことすらない幽霊さんの面影が残っているような気がした。
――了――




