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告白②

「お友達、あの子に背中を押されたって言いましたよね」


 言いにくそうに、言いにくそうに。

 うつむきながらの上目遣いで。


「わたしも、そのせいで車に轢かれて死んだんです」


 とんでもないことを告白した。


「そのせいでって」


「押されたんです、あの子に」


 今夜二度目の笑顔。

 そのやわらかい中に含まれる感情を、僕には想像することもできない。


「じゃあ」


 喉の奥では、様々な言葉が浮かんでは消えていく。


「なんで」


 何を言えば良いのか。

 どんな言葉をかければ良いのか。

 何を言えば幽霊さんのことを傷つけてしまうのか。


「どうして」


 僕はいったい、何を聞きたいのだろうか。


 結局僕は、幽霊さんの目をじっと見ていることしかできなかった。

 そうすれば何かは伝わるだろう、という考えがあった。

 助け船を欲しているだけなのかも知れなかった。


「だから、わたしはここにいるんです」


 言葉に詰まる僕を見かねたのだろう、幽霊さんのやわらかい声が、どこか寂しく、そのくせたくましさを感じさせる色を持って響いた。


「わたしみたいに死んじゃう人が出ないように、わたしはここに、あの子と一緒にいるんです。だから、あの子が悪いことをしようとしたなら、わたしが止めに行かないと」


「そんな。幽霊さんがそんなことしなくても……悪いのは全部、あの悪霊だ」


 幽霊さんは笑った。

 それまでどんな表情をしていたのかは思い出せないけれど、きっとそれまでも笑っていたのだろう。


「ああ、そうだ。思いつきましたよ」


 柄にもなく、僕は興奮している。

 客観的に自分を見下ろしている自分は、もしかするとそんな自分に酔っている。


 本当に、いいことを思いついたのだ。


「あの悪霊を退治できる人を、探してきますよ。それで全て解決だ」


 もともとあの幽霊を退治しようと考えていたのだし、幽霊さんにとっても彼女は自分を殺した憎むべき相手なのだ。

 同じ敵に立ち向かうとなれば、うまくすれば平行線のような幽霊さんとの関係にも変化があるかも知れない。


 そんな妙案に対して、幽霊さんはにこやかに首を振った。


「そんなこと、やめてください」


 自動販売機の明かりに照らされるその表情は、泣きそうな顔にも、怒っている顔にも見える。

 僕はそんな顔を見ているのが辛くなって、視線を落とした。


 足がある。

 今更意識するようなことでもないけれど、その事実は彼女のことを愛おしく感じさせる要因の一つになっていた。


「前にも言いましたけど、あの子、素直じゃないけどいい子なんですよ」


「だけど」


 続く言葉を、幽霊さんは待ってくれているようだった。

 それなのに、僕にはほんの少し顔を上げて、幽霊さんの困った顔にも見える表情を視界に入れることしかできなかった。


「あなたとカノジョさんの邪魔をしたのだって、きっと構って欲しかっただけなんです。わたしを車道に突き出したのだって……あの子、寂しかっただけなんです」


 僕とチヒロの間に割り込んだことと、生前の幽霊さんを殺したことと。

 そんなものが、そんな比べ物にならない二つが並列にされてしまっている。

 恋人との仲にちょっかいを出されただけの僕が、どうして命を奪われた彼女に我を通せるだろう。


「だから、わたし、あの子のことをーー」


 守ってあげたいんです。


 小さな声で、そう言った。


 あの子の保護者みたいなものなんです。

 つまり、そういうことなのか。


「ごめんなさい」


 それが幽霊さんの答え。


 どうして、謝られているのだろう。


 僕は、どうしようもなく居た堪れなくなって、とうとう何も言えずに車に乗った。

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