友人①
幽霊さん。
彼女のことをそう呼ぶようになって、僕の気持ちは更に深くなったらしかった。
僕は、彼女に呼びかけることができるのだ。
僕はそれから、しばしば幽霊さんのもとへ通うようになっていった。
もともとよく通る場所の一つであったということもあり、我ながらしつこいのではないかというほど、毎日とは言わないまでも足しげく。
それでも彼女は僕がやって来るたびにやわらかい笑顔で迎えてくれる。
幽霊さんは話し好きであるらしかった。
喋っているときの顔、聞き役に回っているときの表情を見ていれば分かる。
そんな彼女が他人と話すのは久しぶりだと言えば、僕は舞い上がった。
幽霊さんは僕とチヒロとの仲をいつも気にかけていた。
それに対して僕は、がんばって関係を修復しようとしている、ということにして通していた。
実際には幽霊さんへの気持ちが後ろめたくて、チヒロとはろくに口をきけないでいた。
幽霊さんは僕に名前を聞こうとはしなかった。
何度か彼女と触れ合ううちに、僕はついに名乗るタイミングを逃したらしいということに気がついた。
だから、僕は彼女に名前で呼ばれることはなかった。
僕は焦りはじめていた。
話していて楽しい友人以上には、恋人との仲を心配してくれている友人以上にはなりそうもない平行線のような幽霊さんとの関係に。
だから僕は幽霊さんの気を引くにはどうすればいいか、気がつくといつも考えるようになっていた。
そんなときに、何の妙案も浮かんでこないそんなときに、障害はやってきた。




