反省会part2①
気づかないようにしていたことがある。
気づかないようにしていたということは、つまり本当は気づいていたということなのだろうか。
気づいた上で、その事実を見ないようにしていたということなのだろうか。
だとしたら、僕は相当に愚かだ。
ただ言い訳をするならば、チヒロに幽霊にそして自分自身に言い訳をするならば、本当に僕は気づいていなかった。
気づきたくないことがあるような気はしていたけれど、その正体までは分かっていなかったのだ。
幽霊が「泣いた赤鬼作戦」の再決行を提案したとき、僕には気づかないようにしていたことがあった。
それは、二度目の作戦を決行することによって生ずるリスクについて。
そして何より、それに気づこうとしなかったそもそもの理由についてである。
僕には、もはや幽霊の力を借りる必要などなかったのだ。
なにしろ僕とチヒロとの仲は、一度目の作戦にてチヒロを車に乗せたときから既に元の状態へ戻りつつあったのだから。
だったらなぜ、断らなかったのか。
おかげで、僕とチヒロとの距離は再び遠ざかってしまったというのに。
「ごめんなさい」
幽霊は、本当に済まないという風に頭を下げた。
その頭は、なかなか上がろうとはしなかった。
色素の薄い髪が、自動販売機の明かりに照らされて幻想的に輝いている。
「本当に、ごめんなさい。わたしが余計なことをしたせいでーー」
結局のところ、作戦は失敗した。
今回は邪魔も入らず、計画どおりの行動が取れたのに、である。
もともと「泣いた赤鬼作戦」というのは、僕が幽霊を追い払うことによってチヒロが僕のことを見なおし、僕とチヒロとの仲が今までよりも更に良くなるというシナリオを描いたものだったのだけれど、今回の作戦では結果だけが欠けてしまったのだ。
僕が幽霊を追い払うとチヒロは、どうして何度も幽霊が出るところに連れて来るの、と聞いた。
僕が答えられずにいると、チヒロは距離を置こうと提案した。
僕は、それにも応えられなかった。
チヒロを彼女の自宅の前で降ろしても、僕らの距離が近づくことはなかった。
不思議と悲しくはなかった。
虚しかったのは、こうなることが予想外ではなかったからなのだろう。
思ったことはと言えば、これも仕方ないのかな、と、それだけである。
「いいんですよ。僕も、引き際が分かっていなかったんです」
僕はできるだけ優しい声で、とても落胆しているというような態度でそう言った。
バックミラーの中で頭を下げ続ける彼女は、そういう態度しか予想していなかっただろうから。




