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断罪の皇女  作者: ちさめす
本編
1/2

断罪される皇女


テーマは断罪です。



※注意※

このパートはただ悪役令嬢が悪事をするだけです。(ざまあ要素は後編です)


本編は前編と後編の二部、最後におまけをいれての三部作構成で考えています。



 




「シエラ伯爵令嬢チタニア、私はあなたとの婚約を破棄する。そして皇女セナナと結婚する」


 ベルマーチ王立学園が主催する舞踏会で第四王子ルシアンはそういい放った。


 すると周りはざわつき始める。


 あざ笑う声が会場に響き、みんなの目がルシアンとその横にいるセナナに向けられた。


 ルシアンは小太りでまんまるの顔という容姿をしていてモテるという感じではない。また、セナナも愛らしい顔立ちではあるものの僻地の小さな国の皇女ということもあり、いわゆる田舎感というものを醸し出している。


 容姿や作法が物をいうベルマーチにおいて、ルシアンが壮麗なチタニアではなく田舎者のセナナを選んだということは、そのほうがかえってお似合いではないかと馬鹿にしているのだ。


「まあルシアン様! 唐突に婚姻を破棄されるなんておっしゃいまして、いったい私のどこに不満がございますの? まさかとは思いますが、私がそちらにいらっしゃるセナナ様に嫌がらせをしたなどとはおっしゃいませんわよね?」


 チタニアはそう尋ねる。婚約破棄の原因には様々な理由が考えられるが、色恋の多いベルマーチでは意外とその理由は少ない。だからチタニアは、突然告げられた婚約破棄の原因は自分『側』のセナナに対する嫌がらせなのだとわかっていた。


「チタニアは何もしていない」


 思った通りのルシアンの返答にチタニアはすかさず、「それならば私に何かの問題があるわけでもなくルシアン様が一方的に婚約を破棄されると? そういうことでよろしいのでしょうか?」


「話を勝手に進めるな! チタニアが裏で友人たちに嫌がらせをさせていたことはわかっている! そのせいでセナナはずっと……ずっと苦しい思いをしてきたのだぞ!」


「何か証拠はございまして?」


「そんなものはない! だけどわかるだろう!? 友人たちが嫌がらせをしている時はいつも側にいる。口では止めに入っていても、自分だけは安全な位置から恋敵のセナナが苦しむさまを見ているだけだった!」


「恋敵ですって? その容姿でよくもまあ……っと、これ以上はいけませんわね。とにかく、そういったありもしない妄言で婚約を破棄されるどころか、大勢の前で私に恥をかかせようとしたことは黙って見過ごすわけにはいきませんことよ。よろしくて? ルシアン様」


 チタニアはそういい残し、取り巻きを連れてそそくさとその場を後にした。


 ルシアンは、チタニアにやっといってやったぞという表情でセナナを見た。セナナも笑顔でこたえた。


 だけどそこら中からくすくすと笑う声が聞こえる。周りの生徒がルシアンとセナナを蔑む目で嘲笑っているのだ。


 ベルマーチの雰囲気は少し変わっている。一つの名門校として設立されてから、ここには各国から大小様々な子息令嬢が入園してくる。地位や名誉にあふれた場所に人が集まると、必ずといっていいほど人は家柄の大きさを競ったりするもので、ここでも同じように生徒たちは家柄の地位を一つの物差しとして自分はこの学園で誰と付きあうのかを決めたりしていた。


 そしてベルマーチにおいて、生徒の立場が決まる地位とは別のバロメーターとして、容姿と社交性が存在する。これら三つの要素があれば誰でも人気者になれるのだが、逆をいえばどれか一つでも欠けてしまうとこの学園では人気者になれないのだ


 もちろんこの国を治める女王の第四王子にあたるルシアンは、多少の地位による立場の補正はあれども容姿や社交性が乏しいために、身分は一介の伯爵令嬢だけどもその優れた容姿と社交性からくるずば抜けた交友関係を持つチタニアには敵わず、結果として生徒たちはチタニアになびいているのである。


 なので、チタニアは婚約破棄をされてそそくさと立ち去ったにも関わらず、周りは残されたルシアンとセナナを笑うのだった。


「ここにいると気分が悪くなる。いこう」と、ルシアンはセナナの手を引いてチタニアとは逆の出口に向かった。


 ◇


 セナナは僻地にある小さな国を治めているガロア国王の皇女として生まれた。決して裕福ではない国であったために、セナナはその地位にありながらも質素な暮らしをしていた。


 そんなある日、ルシアンは女王の命によりガロア国王との外交に立ち会うことになる。その時にルシアンは初めてセナナと出会った。


 ルシアンはこれまでに女性に優しくされるという経験があまりなかったために、ガロア王宮で迷子になった自分に優しく接してくれたセナナに恋をしてしまった。そして一週間の滞在中にセナナもまたルシアンの優しさに惹かれていったのである。


 帰国後、ルシアンは女王に自分の婚約者をセナナに指名したいと伝える。女王は初め、既にチタニアという婚約者がいることを示唆して了承しなかったが、懸命なルシアンの説得の末に、『セナナをベルマーチへ入学させる』ことで話は落ち着いた。


 女王は、「僻地の皇女では今後の自国にもたらす恩恵は少なく、それは敗戦後に即位した私の改革に反するところである。ベルマーチに入園し、そこで多くの繋がりを得ることができればその婚約を認めよう」といったのだ。


 そうした流れで入園したセナナはベルマーチでの新しい生活が始まった。


 ところが、ガロア王宮でまったりと過ごしてきたセナナにとってベルマーチでの生活は過酷となるものだった。ガロア王宮の外で人との交流をあまりしてこなかった箱入り娘のセナナに、社交的とは名ばかりのすぐにマウントをとりたがる一部の生徒が『田舎者』というレッテルを張ってしまったのだ。


 セナナはいつも独りぼっちだった。


 そんなセナナを見てルシアンは時間の許す限りはセナナの横にいるように努めた。これはルシアンの、『自分が傍にいない時のセナナはすぐに嫌がらせの対象となる』ことへの対策でもあった。


 そうすることでセナナは安心し、またゆっくりと自分のペースでベルマーチに馴染んでいくことができた。


 だが、これをよく思わない人物がいた――。


「チタニア様、また例の二人が庭園を歩いていますわ」


「あら、本当ね……」


 取り巻きの言葉にチタニアがこたえた。


「ルシアン様を愛しているのはチタニア様だというのに、あの田舎者ときたら!」


「いい方を間違えないでほしいわ。私があんな肉団子に想いを寄せるはずがありませんもの。私のお目当ては初めから肉団子の地位と財産だけなのよ」


「チ、チタニア様……申し訳ございません」


「まあいいわ。……それにしても、あの肉団子は本当にわかっていないのね。この私を差し置いてこのベルマーチで過ごすことが何を意味するのかを……」


 チタニアは遠くで手をとり合っているルシアンとセナナを見つめながら企みのある笑みを浮かべた。


 その翌日、チタニアはベルマーチ中にある噂を流した。


「チタニア様の婚約者であるルシアン様は他の者にうつつを抜かしている」だとか、「死地からやってきた没落の皇女は全てをのみ込んでいく」などの噂はすぐにルシアンの耳に入った。


 そして、ルシアンは庭園でティータイムを楽しむチタニアに迫る。


「よからぬ噂を流したのはお前か? チタニア!」


「あら、そんな証拠がどこにあるのかしら? ところで、そのようないいがかりをなさるということはこの噂はやはり本当なのかしら?」


 煽るような笑みを浮かべながらチタニアは紅茶を啜った。


 取り巻きの作る『チタニアが可哀想』というムードは周りに広がっていき、騒ぎを聞きつけて集まる生徒たちへと伝染していく。「ルシアン様はやりすぎている」なんて小言も聞こえてきた。


 分が悪いと判断したルシアンは、「次にセナナに何かをしてみろ? 私は絶対にお前を許さないからな!」と吐き捨ててこの場を去った。


 チタニアと取り巻きは笑っていた。


「さすがはルシアン様ですわ。私たちに『これが負け犬の遠吠え』なのだと教えてくださったのですから」


 ◇


 その一件以降もルシアンとセナナの居心地は悪くなる一方だった。


 ルシアンは地位こそあれど容姿と社交性の無さで人気はなく、またセナナも田舎者というレッテルとチタニアの悪評でほとんどの生徒が関わろうとはしなかった。時折起こるチタニアとのいざこざも、結局は顔の広いチタニアに周りは正しいと評価していった。


 そんな状況の中、ベルマーチにちょっとした出来事が起こる。


 女王の第一王子ハイジがベルマーチに編入してきたのだ。ハイジは容姿端麗で頭脳明晰。背も高く、ルシアンと比べても同じ王子だとは思えないほど理想的な容姿をしていた。


 ベルマーチ中どこを見てもその話題で持ち切りで、庭園でティータイムをとるチタニアたちもハイジについて話し合っていた。


「どうしてハイジ様はベルマーチへお越しになったのかしら?」


「きっと婚約者を探しにいらっしゃったのですわ! ハイジ様は十七歳。一つ年下の第二王子フィブリル様も先月に身を固めていますもの。きっとそうに違いありませんわ!」


「でも噂ではハイジ様には隣国のコレット王女と親密にしていると聞きますわ」


「そうかしら? 根も葉もない噂はよくあるものよ? ハイジ様がベルマーチに編入なされたということは、今もその身が空いているということではないかしら?」


「そうするとベルマーチにいる生徒でどなたが一番ハイジ様の婚約者に相応しいのかというお話になりますが……チタニア様の他にはいらっしゃいませんわね!」


「そんなことはありませんことよ」と、チタニアはまんざらでもない表情で断りをいれると、すぐさま「またまたご謙遜なされて、チタニア様は本当に人が出来ておられますわね」という具合に取り巻きはチタニアを持ち上げた。


 そこから話は加速していった。


 すっかりその気になったチタニアは、「実は前々から考えていることがございますの」と切り出した。


 そしてチタニアは取り巻きに『ハイジと婚約するための作戦』を話し始めた――。


 ◇


 作戦その一。


『ルシアンとの婚約をルシアンの都合で破棄させる』


 そのためにチタニアはまず取り巻きにセナナへの嫌がらせを継続させた。そうすることでルシアンはますますセナナを守ろうとする。それからチタニアはあえてセナナが苦しむ様を取り巻きの近くで眺めた。その様子を見たルシアンは思惑通りにチタニアが裏で糸を引いているという疑念を抱いた。


 次にチタニアは比較的セナナに友好的な令嬢を一人見つけてその手中に収めた。そして善意のフリをして令嬢にこう焚きつけた。『ベルマーチは社会の縮図であり、ここで起こったことは社会に出ても起こりえる。それはつまり、ここで身を挺してセナナを守るルシアンこそこれからの人生においてもルシアンがセナナに相応しいお相手なのだと。そして、ルシアンは既に婚約をなされてはいるが、セナナがその想いをルシアンにぶつけることでルシアンは婚約を破棄しセナナをお選びになる』と。


 もちろんチタニアは言葉通りに自分とルシアンの婚約破棄を勧めたわけではない。言葉巧みに話すことでその令嬢にそういった考えを持つように誘導したのだ。


 作戦は上手くいった。


 その通りだと納得した令嬢はすぐさまセナナにその話をした。その後は案の定セナナはルシアンに話した。


 そしてルシアンはセナナの想いにこたえるべく、舞踏会でチタニアに婚約破棄を宣言したのだ――。


 ◇


「では次の作戦に移るわ」


 手ごたえを感じたチタニアは取り巻きに対して高らかにそう伝えた。


 作戦その二。


『王家に慰謝料を請求をする』


 チタニアとルシアンの婚約は既に決まっていることで、それはつまり両家がこの婚約に同意し話が進んでいることを意味する。ここでルシアンが一方的な自分の感情で婚約を破棄するとどうなるのか。それは相手方、ひいては女王への裏切りである。


 チタニアは王家の内情をある程度把握していた。既にルシアンはチタニアを見限っているため、ルシアンからはもう何の情報も手に入らないのだが、正式に婚約破棄の手続きをするまでは婚約者という立場で王家への出入りが可能なのだ。


 チタニアはルシアンの執事より、「ルシアン様の婚約は自由恋愛としつつも、女王様はシエラ家が持つ広大な土地を欲しているために婚約の許可をなされた。万が一婚約が白紙となってはルシアン様もただでは済まされないかもしれない。私は執事としてルシアン様の幸せを望んでおります。どうかチタニア様の御心が今もルシアン様のもとにあるのでしたら、もう一度ルシアン様をご説得してはいただけないでしょうか」といわれていることからも、この婚約破棄はルシアンの独断で決行できるようなものではなかった。


 尚、チタニアは表面上の対応として、「もちろんそのつもりでございます。精一杯ルシアン様に私お気持ちをお伝えしますわ」と執事に返している。いわずもがなチタニアには微塵もその気持ちはなかった。


 チタニアは周到に作戦を進めてく。


「懸念があるとすればあの肉団子が婚約の破棄を思いとどまることだわね。寸前で撤回されないよう念には念を入れておこうかしら」


 そう思ったチタニアは、翌日にルシアンを呼び出した。もちろんセナナもだ。


「昨晩、私はお父様にルシアン様から婚約破棄をいい渡された旨をお話しました。私はルシアン様のご決断を尊重するために、時間はかかりましたけども、何とか穏便に婚約破棄の申し入れを受ける許可をいただけました。……そう、今のルシアン様のご決断には何も遮るものはないのです。公然と私に婚約破棄を宣言された以上、ルシアン様はセナナ様と婚約をなさるのですわよね?」


 淡々と話すチタニアの前でルシアンとセナナは見つめ合った。


 ルシアンがセナナを前にしながら、やはりセナナとの婚約も取り下げるだなんていえるはずがないとチタニアは確信していた。


「当たり前だ。私はセナナとこれからを共に過ごすと決めたのだ」


 ルシアンはそういい切った。


 チタニアは思惑通りの展開にニヤッと笑った。


 ◇


 婚約破棄の手続きはすんなりと進んだ。


 そしてチタニアの目論見通り、シエラ家には小さな国なら買えるほどのお金が入った。


 女王はシエラ家の持つ広大な土地をその手中に収めたがっている。女王が目指すこの国のあり方にそれは必須の改革だった。だから女王はシエラ家とのよき関係を維持するためにルシアンに代わって誠意をみせようとする。


「――するとどうなるのか。払うことになるのよ。莫大なお金をね」


 チタニアはそう説明しながらテーブルに三つのブローチを置いた。協力してくれたお礼に取り巻きへプレゼントしたのだ。


 ブローチはとても高価で派手なものだった。


「こ、このようなものを本当にもらってもよいのでしょうか……」と動揺する取り巻きをチタニアは一蹴する。


「何のことはないわ。これはあの肉団子が私に遺した有り余る財のほんの一部なのですから」


 取り巻きはブローチを受け取り喜んだ。









今週中の完成を目指します。


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