招かざる友あり、遠方より来たる…。何のために?
遠~い遠~い、ほとんど赤の他人に近い親戚のハスキー犬、バウワウフン・ウルフガネッガーJr.が何を思ってか突然、はるばるシベリアから遊びに来た。
奴はとにかく目が恐い。
「そんな目付きじゃ友達出来ねえぞ」
俺が注意すると、奴はキュッと眉を上げて、器用にパッチリ二重を作って見せる。
それが又、何とも気持ち悪い。
二重を維持する為に、瞼に力を込めているらしく、色素の薄いグレーの瞳が爛々と輝いて見えるのだ。
もちろん瞬きすらしない。
「よけい恐え~よ…、やめろ」
おぉっと、意外に気にしてたのかなぁ…?
途端に肩落としてしょげ返っちまったょ。
「いや…、自然体が一番お前らしくていいって事だ…、凛々しくて、うん、いいよ」
「そ、そう? 本当にそう思う?」
単純な奴、アハハ…ハ。
奴はパッと笑顔を見せて、少し頬を…、赤くした様…な、ん?
んんーー!?
なにゆえ、お姉言葉!?
奴はもじもじ俯いて言った。
「茂吉さ…、まだ美沙子さんと…?」
この野郎! 狙いは美沙子かっ?
「俺さ…、前に美沙子さん紹介されてから、気になって気になって…」
やっぱり! 美沙子をシベリアに連れて帰ろうって腹かっ!?
「気付いたの! あたし茂吉が好き!」
「はいぃぃぃぃ!?」
俺は一回り大柄な奴に抱き着かれ、勢い余って押し倒された。
目眩がする…、奴はどさくさ紛れに俺の顔中を舐めまくってやが…、くっさぁ! くっせぇ、くせーよ、お前! 何食ったんだ?
俺は先日のケンタの一件を思い出してハッとした。
雄だとばかり思い込んでいたケンタは、雌だったじゃねえか…!
「バウワウフン・ウルフガネッガーJr.…、お、お前も…、もしかして雌なのか?」
「やぁだ~! あたしはれっきとした雄ですぅ~。それに、バッフィーって呼・ん・でっ」
そこに“れっきとした”と言う言葉が適切かどうかは分からない…、とにかく…、
「どけぇーー!!!!」
俺は奴を押しどけた。
「あ~~れ~~!」
ムカつく!
奴は大袈裟によろめいて、上目使いに何度も瞬きして俺を見てやがる。
そこへ、
「ひど~い! モッキー、バウちゃんが可哀相じゃん!」
「美沙ちゃ~ん」
美沙子は俺を睨み付けながら、奴に駆け寄って手を貸している。
何なんだ! こいつら!
俺一人悪者か?
その時! 奴が小さく舌を出してほくそ笑んだ。
しまった! ハメられた!? 作戦だったのかぁっっっ!?
奴は、美沙子が来る時間を知っていてわざと!?
案の定、美沙子は俺を乱暴者と言い、口を利いてくれなくなった。
奴は俺と二人きりになるとベタベタしてきて女房気取りだ。
「やめろよ! ケツの臭い嗅ぐのだけはやめてくれ! いっやだよ…、お前のケツの臭いなんて嗅ぎたかねぇよ! やめろ…、やめろって言ってんだろうがよ!! ケツをどけろぉぉ!!!!」
バッフィー頼む…、美沙子を連れてシベリアへ帰れ…。