無口な奴ほど何考えてるかわからなくて恐い
奴が来た…。
いや、涼二じゃないです。
ちなみに、今日は雨降りで…、今回の“奴”と言うのは……、そう! 奴です。
(クソッ! てるてる坊主め! へのへのもへじに書いたヒゲが気に入らなかったか…?)
と、軒先のてるてる坊主を恨めしく睨みながら、俺は表へ出た…。
駄目だ…、二度と奴を家にあげるまいと思っていたのに、雨混じりに吹きすさぶ北風は骨身にしみる(骨は嫌いじゃないが…)。
仕方なく奴を中に招き入れてやった。
どうやら、冬眠に入る前の挨拶に来たらしい。
毎年毎年面倒くさい奴だ。冬眠でも永眠でも、勝手にして頂いて結構だ。
「そうか…、寂しくなるなぁ…。又、春に会えるのを楽しみにしてるよ」
我ながら感心する。
思ってもない事を、よくもまあいけしゃあしゃあと…。
でも…、実はこういうの得意ですぅ、何なら仰向けに寝て腹も見せちゃう?
へへ…、世渡り上手って言うのかなぁ…、違うかっっ!?
と、言って目を離した隙に、奴はあの忌ま忌ましい顎を膨らませ始めた。
「またかよ…、いい加減にしてくれよ…、もう帰れ、春に又来いな…」
俺は、奴を追い返すべくドアを開けた、その時。
「コケーーッ! コッ…」
又、ややこしい奴が来た。ニワトリのケンタだ。
ケンタと言っても、フライドチキンではない…、もう少し前の段階の生きたニワトリだ。
もちろん、ケンタの前でフライドチキンの話題はタブーだから、お気を付け下さい。
鋭い爪とくちばしでつかみ掛かり、無駄に羽根をバタバタさせて、ウザイ事この上ないから…。
ケンタが首をカクカクさせながら入って来ると、途端に牛蛙の奴は顎を膨らませるのを止めた。
のんびり屋の奴は、せわしないケンタが大の苦手なのだ。
一方のケンタは、奴の事など気にも留めずに、部屋の中をうろつき回る。
「おーい、やめろやめろ 」
クッションを突いて、綿を引っ張り出そうとしやがった…、こいつからも目が離せない、トホホ…。
しかし、ふと目をやると、牛蛙の奴がのそっと動き出していた。
「そうかそうか、もう帰るか…、いやぁ、本当に寂しいよ…。春、目が覚めたらすぐ来いよな…、何かご馳走するからさ…」
俺は、口をついて出る出まかせをつらつらと並べつつ、内心ケンタに感謝していた。
(ケンタ様様だ)
そして、重そうな牛蛙の後ろ姿に満面の笑みで手を振った俺は、部屋に戻って姿の見当たらないケンタを捜した。
「ケンタ? どこだ? ケ…ンタ…、お前…、一体そこで何を…?」
ケンタは、クッションから引っ張り出した綿を、ソファの下の暗がりに山積みにして、そこに鎮座ましましていた。
「クッ…」
ケ、ケンタ…、お前が力んでいる様に見えるのは気のせいか? 嘘だろ…、嘘だと言ってくれ!
ホッと力を抜いてから、ケンタが立ち去った後には、うっすら湯気の昇る産みたての卵が一個あった。
ケンタ……、お前…、雌だったのか!?