策士、策に溺れる!? 掘った墓穴は深すぎた!?
瞳ちゃんの結婚。
その告知は、まるで余命宣告の様に俺から全ての気力を奪い去った。もはやここに居る意味すら感じられない。
『まぁ、元気出しなさいよ。又来てあげるから』
美沙子はそう言った。
これからは美沙子とは友人として付き合っていくのだろう。
男女間の友情…、それは一通りの関係を経た男女間のみに存在するのだと俺は思う。ドロドロの愛の燃えカスこそが男女間の友情たり得ると。
そう言う意味で、美沙子と俺の間には確固たるドロドロがある。
ドキドキもワクワクも胸キュンも新鮮味のカケラも無く、あるのは使い古した感と今更感…。
何だかぼろくそに言ってる様だが、裏を反せば気取らず有りのままを受け入れ合える、楽で心地よい緩〜い関係なのだ。
その美沙子が帰り際に言った。
『あたし…、バウちゃんから電話貰って来たのよ。モッキーに会ってあげてって…。そうでなきゃあたし、合わせる顔がなくて来れなかった』
俺はバッフィーの気持ちを素直に嬉しく思った。しかし、それと同時に未だ顔を見せないバッフィーが腹立たしくもあった。
『気にするな、お前はいい奴だ』
その一言を早く言ってやりたいのに…。
そこで俺は、事情知ったる美沙子の協力を得て強行手段に出る決意をした。
美沙子がバッフィーを訪ね、俺の容態が急変しうわごとでバッフィーを呼んでいると告げるのだ。奴は血相変えてと飛んで来るに違いない。そして元気な俺を見て、『本気で心配したじゃない! バカァ!』と…、胸に飛び込まれても困るので握手にしとこう。そして、取って置きのあの言葉を言ってやるのだ。
名付けて…“バッフィー、おびき出し大作戦!!”ヒューヒュードンドンパフパフ〜!
何を隠そう、この作戦は至ってシンプルかつ古い! しかし、テレビドラマや映画でも散々使われた、そんなバカげた手法…、と誰もが思う、その盲点こそを突いた画期的な作戦と言えるのだ!!
決行は明日、ひとよんまるまるじ、つまり午後2時かっきりに遂行される。
俺はその夜夢を見た。
作戦は大成功、バッフィーは涙ながらに俺の寛大さに感謝していた。美沙子も俺とよりを戻したいと必死に訴える。たまたま見ていた瞳ちゃんも感激のあまり、
『高橋しぇんしぇいとは別れましゅ! 茂吉しゃん、私とお付き合いして下しゃい!』
と右手を差し出す。
俺は窓の外に目を遣り唇を噛み締めてから、こう言うのだ。
『いけねぇよ、瞳ちゃん。俺みてぇなアウトローに女は必要ねえのさ…。美沙子も、俺の事は忘れてくれ…』
とは言っても、結局美沙子と瞳ちゃんに押し切られ、
『しょうがない困ったお嬢さん方だ…、俺も初めてだが3人で仲良くしちゃう? ん? ん? よいではないか、よいではないかぁ~!』
『『あ~れ~~!』』
と渋々二人ともに付き合わされちゃう…、そんな夢だ。
翌朝、よだれを垂らして目覚めた俺は、何だ夢か…と気落ちしつつも、心穏やかにして決行の時を待った。
そして、午後2時を15分程過ぎた頃、いよいよ奴がやって来た。
ドタバタと大袈裟なスリッパの足音を廊下に響かせ、久しぶりに聞くダミた低音のお姉言葉で叫びながら。
「茂吉ぃ~ん! 今行くわ~! 死んじゃやだぁ~!」
そして足音が止まった次の瞬間、病室のドアがやや乱暴に開けられた。
バッフィーの気配が眠った振りをする俺に近付く。
今だ! 目を開けたらきっと驚くぞ…と思った、その時だった。
「ひどい…、末期って言ったって、こんなの急過ぎるわ…。お別れも言えなかった…ワォ〜ン!」
バッフィーはへなへなと座り込み、遠吠え混じりに泣き叫んだ。
ぱっちり目を開けても気付いて貰えない俺は、真っ白な天井を見つめて何度も瞬きしている。
確か俺って骨折で入院したんだよね?
“末期”って…、“末期”って何のぉぉ!?