知らぬが仏!? 嗚呼、徒花(あだばな)に終わった恋。
俺は担当医に叱られ、絶対安静をきつく言い渡された。
前回『アチョー!』と叫んでいたのはどこかよそのガキで、俺はまさに“骨折り損のくたびれ儲け”。我ながらウマいっ!
どうやら美沙子は、ただ単に見舞いに来てくれただけの様だ。
「今、幸せなのかい?」
美沙子はため息をついて首を横に振った。
「別れたのよ。彼…、ギャンブル狂でアル中で借金まみれだった…。あたしって男を見る目が無いのよね〜、昔から」
うぉ〜い! 今、何気に俺まで否定したな!?
まぁ確かに俺はいい彼氏だったとは言えないかも知れない。
しかし、この頃になってようやく美沙子の幸せを心から願える様になったと言うのに…、この展開は俺にとっても複雑な心境だ。
少し痩せた様にも見えるし、笑顔にも覇気が無い様な…。実は俺とよりを戻したいとか!?
いやいや、それは困る! 今の俺は瞳ちゃんとの新しい愛に向かって既に走り出してしまっている! 俺は過去を振り返らない男なのだよ!!
と、その時ドアがノックされ、瞳ちゃんが顔を覗かせた。
「茂吉しゃ〜ん、点滴のお時間で〜しゅ」
「それじゃあ、私これで…」
気を遣って立ち上がろうとする美沙子に、瞳ちゃんが笑顔で言った。
「大丈夫でしゅよ〜。しゅぐしゅみましゅからお話ししてて下しゃい」
そして手際良く点滴の針を刺しながら、今度は俺に天使の微笑みを向ける。
「茂吉しゃんの彼女しゃんでしゅかぁ? 綺麗な方でしゅねぇ」
「違うよ、ただの友達さ…」
美沙子は俺の様子から何かを察したのか、ニヤリと不気味に笑った。
「そうよ、看護婦さんこそ可愛くてモッキーのタイプよねぇ…。看護婦さん、フリーだったらお付き合いしてあげてよ」
オォ! 美沙子、ナイスセンタリング!
とは言っても、一度はスルーしとくかな。
「おいおい…」
俺と瞳ちゃんが口を開いたのは、ほぼ同時だった。
「残念でしゅう…。私、春に結婚しゅるんでしゅよぉ」
えっ!? えぇぇっ!?
聞いてないよ~!!
俺は言葉を失った。しかし美沙子は尚もニヤついて俺をチラ見しつつのたまう。
「へぇ、そうなんですかぁ? おめでとうございますぅ…、お相手は? ひょっとしてドクターとか!?」
瞳ちゃんは頬を染めて頷いた。
「高橋しぇんしぇいでしゅ」
ガビ~ン! 俺の担当医じゃねえか!? あのヤブ、職場を何だと思ってんだ!? ちょっとイケメンだと思いやがって、ムカつく~!!
お前の下半身の暴れん坊将軍を絶対安静にしろっ!! 麻酔で眠らせとけ!! 隔離だ隔離しろ!
俺はやけくそついでに言ってやった。
「看護婦さん! 浣腸して下さい!!」
「ブッ!」
美沙子が吹き出した。
かくして薄氷の様な俺の恋は、春を待たずして儚くも消え去ったのであった。
…ウマいっ!