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怪我の功名!? 白衣の天使が舞い降りた! 惚れてまうやろ~!

俺の入院生活はバラ色だ。右足と肋骨(ろっこつ)を骨折しているが担当ナース・オコジョの瞳ちゃんがいるから!

彼女は白衣の上からもそのナイスなバディがうかがえる、ダイナマイツなハニー! なのだ。


「午後のおねちゅ測りましゅねぇ」


瞳ちゃんが長いまつげをパチパチしながら、少し舌足らずで言った。じゅうにぶんに大人な体つきと少女のままの表情と声が、何ともアンバランスで俺を萌えさせる。


「ハ~イ、喜んでぇ~」


俺は服従のポーズで彼女の差し出す体温計を受け入れた。


「脈とりましゅねぇ~」


瞳ちゃんのしなやかな手が俺の手首に触れる。


駄目だよぉ~、瞳ちゃ~ん。ドキドキしちゃって脈が早くなっちゃうかもよぉ~? 胸がときめいて、く…苦しい~~! なんちゃってぇ。


その時、カルテをパラッとめくった瞳ちゃんが、俺の顔を見つめて信じられない言葉を口にした。


「茂吉しゃん、入院してから一度もウンチ出てましぇんねぇ…、お腹苦しくないでしゅかぁ?」


「ウ…。いつもの事だから、大丈夫です」


俺は打ちのめされた様に茫然自失で嘘を答えた。

俺はガキの頃から毎朝快便だけが自慢の男だ。そんな俺の腹は入院してからの丸一週間分のブツでパンパンだった。おそらく環境なんかが変わったせいだろう。

俺はデリケートに出来ているからな…。

いいや! そんな事はどうでもいい!

ナースと患者と言う関係上、しびんでオシッコを取って貰うのは我慢してきた。でも俺は…、俺は瞳ちゃんの口から“ウンチ”なんて単語を聞きたくなかった! 俺の白衣の天使が…、ウンチと…。


しかし次の瞬間、白衣の天使は更なる試練をサラっと俺に与えた。


「浣腸してみましゅかぁ?」


「か、浣腸…」


バッフィーがいたら『あたしにやらせてぇ~!』と喜んで食いつきそうだ。そう、やるなら奴にやらせた方がまだマシだ。

瞳ちゃんにケツの穴を見られるのだけは何としても阻止せねばっ!


「もう少ししたら出ると思うんで…」


「そうでしゅかぁ? 苦しくなったらいちゅでも言って下しゃいねぇ」


瞳ちゃんは笑顔でそう言い残して出ていった。

やっぱりカワイイ!

俺はとろけそうな気持ちになって思わずニヤけた。

“ウンチ”だって“浣腸”だって、何だか愛おしく思えてきたぞ。

君とならどんな汚物も乗り越えられる! 乗り越えてみせるぜ、瞳ちゃん!!

俺はその瞬間を妄想せずにはいられなかった。


『フフ。茂吉しゃん…、もっと力を抜いてくれないと入らな〜い』


『瞳ちゃん、君って意外と大胆なんだね。嫌いじゃないよ、そう言うの…フフフ』


フフフフフ、ククククク、ブァーハッハッ…痛っっ!! 痛いっ! 肋骨がぁっ!! 又折れた! 又折れたよぉ! 何かポキッって言った!! あうぅっ!!


痛みに体がよじれるが動けばもっと痛い。俺がそのジレンマとの孤独な闘いを繰り広げていると、ふと懐かしささえ覚える二人の顔が目に入った。


「ケンタ、涼二。来てくれたのか」


俺は(ふる)い友人達の笑顔を見て、不覚にも涙ぐんでしまった。

涼二は何故かバッフィーと反りが合わない。犬と猫なのに“犬猿の仲”と言うやつだ。だからバッフィーが来てからは疎遠になっていた。

ケンタは草食動物とのコンパをセッティングして、美沙子の逆鱗に触れて以来ご無沙汰だった。

今にして思えば、彼らとの日常は不愉快ながらも何と穏やかで平和だった事か。


「テレビ見たニャ。俺にニャニか出来る事ニャイ?」


りょ、涼二ぃ! その言葉だけで十分だ。俺、頑張るよ!! って…、ケンタ?


「コッ、コッ、コッ…」


「痛、痛、痛ぁい!

ケンタ! ギブスをついばむなっ! 脳天に響…くっ…!? キャイキャイーン!!」


この野郎! ギブスに穴開けて中身をつつきやがった!

あまりの痛みに涙がちょちょぎれる。と、次の瞬間、まばゆいばかりの白い閃光が俺の目を射った。


「ぐっ! 何なんだ!?」


思わず目を閉じた俺の耳に涼二の笑い声が聞こえる。


「ニャハハハハ、悪い悪い、今の表情最高! 写真、ブログにアップしとくニャ」


「ブロ…グ?」


涼二が誇らしげにデジカメを見せる。


「お前の事書いた途端にアクセス数急上昇でニャ。えっ、知らニャいの? 今、(ちまた)じゃ、お前の写真を携帯の待ち受けにすると災難を全部持ってってくれるって噂ニャ…。俺のブログにもレアな写真の一枚もあった方がいいかニャと…」


「帰れぇーーっ!! 二度とその(つら)見せんなぁ! 痛たたた…」


思い出したぞ…、奴らの何が俺を不愉快にさせるのかを。あの果てしないマイペースさだ。しかも手ぶらかよ!?

いや……、まてまてまて。いつの間にこんな所に…、俺の股間に湯気の上がる卵がっ!? ケ、ケンタの置き土産…。

許せケンタ、今の俺は父親になる自信が無い!!


そうして俺が卵の扱いを思案している頃、病院の受付には一人の女が立っていた。


「あの…、茂吉さんの病室は? 私ですか? 私は……彼の恋人です」






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