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怒りの鉄拳と愛のムチは紙一重!? 逞し過ぎる想像力は勘違いの素!

俺は今、都内某所のホテルの一室に居る。

何と今からテレビの取材を受けるのだ。顔は映さず、音声も変えて貰う事になっている。

スタッフさん達が打ち合わせしているのを物珍しげに見ながらも、俺は若干の緊張と肉球が汗ばむのを感じていた。



それは一週間前の事だった。

『毎朝テレビの者』と名乗る男から電話があった。毎朝テレビと言えば、正月の神社でバッフィーとバイエルンがご迷惑をおかけしたテレビ局だ。


(まさか損害賠償の請求!? それにしても、何故この電話番号が…、恐るべしTVのチカラ!?)


取りあえず下手に徹すれば少しはまけてくれるかも、と俺は考えた。


「その節は、うちの者達が…」


「その事で折り入ってご相談が…」


俺の言葉をさえぎり、男がその後語り始めた内容は、到底俺には理解し難いものだった。

正月のテレビで、バッフィーとバイエルンが世にもおぞましく涙ながらに訴えた後、局の電話が暫く鳴り止まなかったそうだ。苦情の電話かと思いきや、そうではなかったらしい。


『美沙子とジョバンニは戻ったのか? いきさつの再現ドラマはないのか?』と言う問い合わせや、『茂吉に元気を出してと伝えて』、『勇気と感動を貰いました』と言った励ましの電話がほとんどだったと言うのだ。

更には、美沙子の捜索費用の足しにとカンパまで届けられているらしい。それらは匿名が多く、送り返す事も出来ずに困っていると言う事だった。


「そんな事、俺に言われても…。頂く訳にはいかないので、どちらかに寄附されたらどうですか?」


俺は美沙子を捜してまで無理矢理連れ戻すつもりはなかった。惚れた女が選んだ道なのだ…、幸運を祈り黙って見送ってやるのが男の美学と言うものだっ! アバヨ、美沙子! いい夢見せて貰ったぜ!

いやいや、みなまでは語るまい…。男は無言の背中で語るべし!!


「もしもし? どうしました? もしも〜し」


おぉっと、俺としたことが…。背中でいくら語っても電話じゃ伝わらない様だ。

その後『毎朝テレビの者』は、是非カメラの前で俺の口から事情説明して貰えないかと出演交渉してきた。お昼のワイドショーの中のコーナーで、スタジオと中継車を繋いでの生放送だと言う。


「そんな、無理ですよ」


「だ〜い丈夫ですって! 司会のノミさんはベテランですから。茂吉さんは皆さんの善意に一言感謝を述べて、後はお返事だけして下されば結構ですよ」


「そうなんですか?」


「そう〜なんです!」


俺は渋々出演を承諾し、現在に至る訳だ。

後で聞いた話しだと、あの日バッフィーとバイエルンは『ギャラを振り込んどけ!』と、俺の名前と電話番号、そして銀行の口座番号までを書き残していったらしい。何故奴らが口座番号を知っていたのかは謎だ。

今日の事も奴らには内緒にして来た。何をしでかされるか分からないから。


やがて本番が始まりオープニングがモニターに映る。ノミさんはジョークでスタジオの客を笑わせた後俺に語り掛けてきた。


「えー、都内某所の茂吉君」


スタッフに合図され俺の緊張はピークに達した。


「ハ、ハイ! こちゃら都内某所の茂吉んであります!」


まずい! テンパって声が裏返った。茂吉んとか言ってるし…と、次の瞬間。


バーン!!

大きな音と共に部屋のドアが勢いよく開いた。


「やいやいやいやい! てめぇら、あたしの茂吉んをこんなとこに連れ込んで何しようってんだぁ!?」


「あんたらの悪事はお天道様が許しても、うちらが許さへんでぇ!」


「バッフィー!? バイエルン!?」


二人は遠山の金さん張りに腕まくりをして乗り込んできた。


「茂吉ぃん! 大丈夫? 悪戯されてない?」


バッフィーは俺に駆け寄り、アイラインで黒くなった涙をぽろぽろ流す。


「は? 悪戯?」


「そうよ、×××(ピー)なことや××××(ピピー)なこと! こそこそしたって駄目! 銀行にもお金が無いし、美沙ちゃんにも捨てられて、ヤケを起こしていかがわしいビデオに出るつもりだったのね!? バカァッ!!」


バチン! ボコッ! あべし!!


勘違いの怒りに駆られたバッフィーの拳は手加減と言うものを失っており、俺は全治3週間の傷を負わされ入院した。


さすがのノミさんも為すすべがなかっただろう。

生放送中の流血沙汰に不適切な発言、毎朝テレビは社長を更迭(こうてつ)し、状況説明と今後の対策・陳謝の特番を制作し放送した。

俺はそれを病室のテレビで点滴を打たれながら見ていた。ギプスの中の足の痒みに悶えつつ。



自分の命が既にカウントダウンを始めているとも知らずに…。






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