表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

頭も真っ白、ホワイトクリスマス!? ジングルベルは聞こえない…。

不自然に静まり返る店内の様子に何かを感じ取ったのか、中年と若手のポリスメンコンビはマジマシと一人一人の顔を見ている。


「あれっ!? あんた確か…」


若手の本官殿が俺に気付いた。


「こ、こんにちは…。先日は…」


まずい! この状況で警官に対し『お世話になった』などと言えば益々誤解を招くのでは…!?

俺は仕方なく会釈だけして口をつぐむ事にした。


しかしそんな俺を中年の警官は放っておいてはくれなかった。意味ありげにニヤついて目の前に来て言った。


「又君か! 何か問題でも?」


ほらな…、この人もSっ気たっぷりなんだよなぁ。“又”なんて言い方して…、俺がしょっちゅう問題起こしてるみたいじゃねえか!?

見ろ! 他の客がヒソヒソ話しして目を合わせてくれねえよ!

あんたらはやっぱり俺の味方じゃない様だな。

そうとわかれば用は無い…、さっさと出てけ!

意気消沈の俺は消え入りそうな声で答えた。


「いえ…、まだ…」


ハッ!! バカバカバカバカ、俺のバカァー!!

『いえ…、まだ…』って、『まだ…』なんて言っちゃったよ〜!

やっぱり今から何かする気だったみたいじゃねえか!?

もしかしてさっきの“又”は、自白への誘導テク!?

うぅむ、お主なかなかやるな…。亀の甲より年の功と見たっっ!!


そして案の定、おばさんは…。


「お巡りさん、お巡りさん! このお兄さん、私の身体ずっと見てるんですぅ…、怖くて怖くて…」


バ、ババァァ!! 俺の方が怖いわ! あんたの身体なんて見てねえっつぅの! 人をマニアックな痴漢みたいに言うなっ!! 熟女も悪くはないと思うけど、熟すにも程があるっちゅうの!


しかし、ババァのこの言葉は意外にも俺にとって都合の良いものとなった。

他の客達が一瞬「ハァ?」と言う顔をして、クスッと失笑してから散らばって行ったのだ。

『金品を狙われた哀れな老婆』だった敵は、今や『人騒がせな勘違い騒音ババァ』に変貌を遂げた。


「ほぉ…、で、何か被害は?」


オオォ! 出たっ! 必殺“何か被害は?”!!

説明しよう! 彼ら国家権力の犬、いやもとい、彼ら警察は実際に“何か被害”がないと動けないらしいのだ。疑わしきは罰せずなのである。


「いぇ…、別に…」


ババァは心なしかしょんぼりして言った。

ざまぁカンカンカッパの屁〜!


「まぁ、世の中何かと物騒ですからね…。それくらい警戒心を強く持たれてちょうどいいかもしれませんな。お気を付けてお買い物を楽しんで下さい」


中年の警官は、緩〜くババァを諭して軽く敬礼した。

お巡りさん、やはり貴方は善良な庶民の味方だ!

わたくしを冤罪(えんざい)からお救い下さった。貴方はわたくしの勇者様だ!

しかし次の瞬間、その勇者様は信じられないお言葉をわたくしに耳打ちされた。



「君も守備範囲が広いねぇ~。威勢のいい彼女達とは上手くやってるの?」


ズコッ!!

あんた! 俺を疑うにしても角度が違うぞ!

俺はババァの財布も熟れすぎた肉体も狙ってない!! 


「しかし触っちゃいかんぞ、触っちゃ」


中年の警官は、一瞬不憫そうに俺を見て頷くと肩を叩いて去って行った。


当のババァはいつの間にか本官殿に擦り寄って行っている。


「貴方、演歌歌手のキヨシ君に似てるわねぇ~。今度差し入れしてあげるわ…、駅前の派出所?」


俺の事などもうどうでもいい様だ。

俺はレジのお姉さんに予約券を渡した。


「五千円ちょうどになりま〜す」


「えっ? お金…いるんですか?」


ニコやかなお姉さんの口元が微かに引きつった。


「はい、代金後払いでご予約頂いておりますので」


「すみません、出直して来ます」


俺は財布を持って来てなかった。予約時に金を払ってあるものだと思い込んでいたのだ。財布は車の中だ。


五千円有ったかなぁ…。この小一時間、俺は何をしてたんだろう…。

何か泣きそうな気分になってきた。それでも俺は頑張って自分に言い聞かせる。


「右、左、右、左…、負けるな俺、一歩でも前へ!」


しかしそこには、今の俺には厳し過ぎる現実が待っていた…、って言うか……。


「無い!? 車が無い!?」


どうやらレッカー移動されてしまった様だ。財布ごと…、携帯も…。

俺を待っているものは何もなかった。


激しさを増す吹雪が、立ち尽くす俺を容赦なく叩く。視界は一面雪煙りに白く霞んで、今点いた外灯がぼんやり浮いて見えた。

そう、これは雪のせいだ…、涙なんかじゃないぞ!! グスン。


嗚呼、サンタさんっ!

貴方は今頃どの空を飛んでいらっしゃるのでしょう!?

俺はもう貴方を信じないっ!!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ