世の中余りに世知辛い、私を宇宙に連れてって!?
この家の主は俺だ…、俺の筈だ。その俺抜きで奴らはパーティーの計画を進めていた。
今の今まで、そう、パーティー当日の昼過ぎまで俺は何も知らされてなかったのだ。
何故気付いたか、それは……、予約してあるクリスマスケーキを取りに行けってよ!
「モキティ、暇やろ?」
と、きたもんだ。執事もメイドも居るのに、よりによって俺…? みたいな?
俺は渋々ながらも愛車の軽四に乗って出かけた。
クリスマスイブの夕方、商店街の駐車場はどこも満車。
ケーキを受け取るほんの数分だけ…、俺は路上駐車も仕方ないなと言う考えに至った。しかし皆考える事は同じらしく、ケーキ屋の付近にはズラッと車の列が…、結局俺が車を停めれたのは百メートル近くも離れた所だった。
車から降りると、冷たい北風に混じる雪がいきなり頬に張り付いてきた。
「さぶっ!」
俺はジャンパーのポケットに手を突っ込んで足早にアーケードの下を行った。すれ違うのは笑顔の親子連れやカップルばかり…、一人なのは俺だけだ。
酷い…、酷すぎます、サンタさん!
確かに俺は孤独を望んだ…、しかしそれは、暖かい部屋の中で熱いコーヒーとテレビのある孤独なのです! 欲を言えばクリスマスケーキも一人占めしたい。
なのにこんな…、身も心も寒過ぎる!
その時、電気屋さんのウインドーの大画面薄型プラズマテレビに、記者に囲まれた行政のトップ・ユキヲ氏が映った。母親から常識はずれに多額の小遣いを貰っちゃった為、何だかんだ責められているみたいだ。
今に始まった事じゃないが、彼の大きな目はいつも虚ろだ。きっと、肉体はそこに有っても心は愛妻と共に宇宙の彼方を旅しているのだろう。
そんな楽しい事を空想中の彼に、記者達は『金は贈与か貸付け、献金か』などと激しく詰め寄る。
言ってやれ! いつもの小遣いだ、金が腐る程有んだから仕方ねえだろうと。どこかの誰かみたくキッパリ言い切ってやれ! それを言っちゃあおしまいよ的な伝家の宝刀、『あなたとは違うんですっ!』の一言をっ!!
そうやって俺がわざわざ足を止めて心のエールを送っている隙にも、笑顔の彼は専用機に乗り込み暖かい南の国へと飛び立って行った。
「あ、ケーキだ」
俺も自家用専用車を待たせている事を思い出しケーキ屋へ向かった。
さすがに混んでる。予約券を渡してケーキを受け取るだけの筈なのに、前には八人程の人が並んでいた。
そしてようやく俺の前のおばさんの順番になった。
「三千円ちょうどになります」
若い女子店員が言うと、おばさんは財布をごそごそし始めた。
混んでるんだしさぁ、値段わかってるんだからお金用意しとこうよ…、って小銭ヂャラヂャラ…?
お、おばさん? 三千円ちょうどのどこを小銭で払おうってんすかっ!?
ふと目が合ったおばさんは、俺を睨み付けながら財布を抱えて身体を背け、何故か苛立った口調で言った。
「何!? 何なの?」
それはこっちのセリフです。
「別に…」
「何考えてるの!? 引ったくり? 置き引き? スリなの? 駄目よ、貴方まだ若いんだから働きなさい…」
「へ?」
痛いっ! 周りの人の視線が痛いっす!!
おばさん何言ってくれてんすか!? 俺はケーキさえゲット出来ればいいんです!!
店内はシンと静まり返り、俺は一身に注目を浴びていた。
理不尽な言い掛かりに屈する様で逃げ出す事も出来ない…。何なんだ!? クリスマスイブなのに…。
サンタさんっ、我に救世主をーっ! いでよ勇者、召喚っっ!!
ウィーン
店の自動ドアが開いた。
全ての視線がそちらに向く。
「年末の防犯警戒パトロール中で~す。変わった事無いっすかぁ?」
それは見覚えのあるポリスメンコンビだった。
彼らは味方か!? はたまた新手の敵キャラかぁっ!?