そうきたかっ!? 独身貴族も楽じゃナイ!?
俺のうちは占拠された。
奴らは昨日からクリスマスパーティーの準備にかかり、今日もツリーを飾り付けている。
キャッキャキャッキャとはしゃぐオッサンがこれ程見苦しいとは初めて知った。
だいたいこんな狭い仏教徒の家に、そんなに大きなツリーが必要か?
「何か貧相なやぁ…」
貧相って…、カチン。
言ってやる! 俺だって言う時は言うぞっ!
「バイエルン! お前んちにはさぞ巨大なツリーがあるんだろうな。
帰った方がいいんじゃないのか? うちには貧相なツリーしか置けねぇし…」
な、何か、すねたみたいに尻すぼみになってしまった…。
対するバイエルンは高笑いの後、バッフィーと寄り添ってのたまう。
「アハハハッ…、家が貧相とか狭苦しいとかは関係あらへん。クリスマスを大事な友人と過ごすのが一番や、なぁ〜」
くぉのぉぉぉっ! 野郎…、良い事言った様に見せ掛けて、何気にサラっと人んち小馬鹿にしやがった!
誰も家が貧相だなんて言ってねぇぞ!! 揚げ句の果てには狭苦しいだとっ!?
誰のせいでこの家の人口密度が上がってると思ってるんだ!?
俺一人ならちょうど良いんだ…、座ったまま何にでも手が届くって言うか…、一人用の家なんだぁっ!! 寿命の半分近くをローンに費やすんだぞっ、言うな…。言ってくれるな…。
いたたまれなくなった俺が、何か口実つけて出掛けよっかなぁ…、なんて考えていると、バッフィーがこう耳打ちしてきた。
「バイエルンはバロンでおうちがお城だから、小狭い家に慣れてないのよ…、許してあげて」
あんたまで小狭いって…、えっ?
「バロン?」
「そう、男爵よ」
男爵…、芋?
“男爵”と聞いても、“男爵芋”ぐらいしかピンとこないが、いわゆる貴族とかの類いだろう。
実際にそんな人居るんだ…、って言うか、こんなんでいいんっすか!?
肩肘ついてゴロ寝しながらテレビ見てポテチ食ってますけどぉ? 男爵芋が芋食ってますけどぉ?
そういうの“共食い”って言うんじゃないっすかね!?
来たばっかりの人んちで、よくもまあそこまでくつろげるなぁ!
悪い意味で凄い存在感。
しかし…。
そのかさ張る態度こそが男爵なればこそと言われれば、
「なるほどそうか…」
とも……、思うかっっ!! バーカ、バーカ、お前ら二人ともバカばっかり!
ハァハァ…、虚しい…、虚し過ぎる。
今時小学生でも言わない様な悪態のレベルの低さ…。
そうして心の叫びに疲れ果てた俺が、
(美沙子に電話して映画でも見に行きたいなぁ…、でもこいつらも付いてくるんだろぅなぁ、うっとーしいなぁ)
などと考えた頃。
ピ〜ンポ〜ン
誰か来た! 美沙子かなっ?
そのナイスなタイミングに、俺は美沙子との運命を実感しつつ勇んで玄関のドアを開けた。
「待ってたよ! 美沙…子…?」
違った。
そこには、アニメか何かで見た事あるコスチュームの男子一人と女子二人が立っていた。
「突然恐れ入りますが、マイローーード、我が御主人様はこちらに?」
「へ? マ、マイロ、ご、ごしゅ、御主人様って?」
男子はコホンと咳ばらいを一つして毅然として言った。
「わたくしはバイエルン男爵閣下の執ぅ事でございます」
「「メイドだっちゅうの!!」」
なぜか彼女らは往年の『だっちゅーの』のポーズをとった。
「はぃぃ?」
メイド…、しかも一人はメガネっ娘!
メイドなんて、街頭でチラシ入りポケットティッシュしか頂いた事のなかった俺は、一瞬で妄想の世界へと堕ちてしまった。
益々乱れくる様相を呈した我が家の風俗…、高まる人口密度。
前回、既に国家権力に見離されている俺は…。
やけくそでいよいよ18禁かっ!?
聖なる夜は果たして性なるか!?
次回に続く