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寝た子を起こすな! 誰が面倒見てくれるんだっ!?

あぁ早く帰りたい…。


ここの灯りは青白くて冷たく寒々しい。

酒の力を借りてほんの束の間夢心地になる事も、たった一時オッサンが少年の心を呼び戻す事も許さない。

交番…、そこでは誰しもが否応なしに厳しい現実に引き戻される。

とは言っても、今俺達がここへ連れて来られたのは自業自得…、いいや!

この忌ま忌ましい、もはや性別すら不明瞭なエセ外国人二人のせいだ!!




一時間程前

焼肉屋で散々飲み倒したバッフィーとバイエルンは、仲良く腕を組んで足元もおぼつかない様子で店を出てった。勘定など素知らぬ顔で。


「ごちそうさま〜」


釣銭を待つ俺を尻目に、美沙子もヒラヒラ手を振って出て行く。俺は空になった財布と心を抱えて、己に言い聞かせた。


今の『ごちそうさま〜』は、俺に言ったのだと…。

「ありがとうございましたぁ」と返す若い男性店員! お前に言ったのではないぞっ!

もしそうならば、余りに俺が可哀相だ…。


俺は、釣りと一緒にミントガム四枚をくれた彼に、心の中で八つ当たりした事を詫びつつ店を出た。


このガムは俺のもんだ。

食ったら金を払う…、当然とも言えるが、奴らが見て見ぬ振りしたその行為を為した俺の名誉の証だっ!!



「ワォ〜〜ン!」

「ワフ〜〜ン!」

「キャイ〜ン!」


夜十時を過ぎて、人影もまばらな郊外の小さな商店街。

バッフィーとバイエルンは一緒に一本の電柱に向けて片足を上げて用を足し、快楽の雄叫びをあげていた。

美沙子は手で目を覆いつつも、指の隙間からしっかりバイエルンの逞しいナニを見て喜んでいる。


「マーキングよ、マーキング! 私達がここに来た記念よ〜」

「バッフィーとバイエルン参上って書いとこか〜」


阿呆かっ、お前ら! 何眠たい事ぬかしてんねん!

美沙子、何がそないに嬉しんや!? って、あれ? 俺まで関西?

俺は改めて己の順応性の高さに感心した。その時。


「あー、もしもし。君達、ちょっとよろしいですか?」


振り向くとそこに、“中年と若手”のありがちなポリスメンコンビが居た。横綱級の土佐犬だ。

その声は下手(したて)に出ながらも、職務遂行と言う冷めきった強い意志をはらんでいる。そんな彼らに対し、奴らは…。


「キャ〜ッ、素敵ぃ〜!

見て見て見て見てぇん、コスプレよ〜!

逮捕されちゃうぞっ!!」

「いやっホンマや! そそるなぁ〜、うち制服に弱いねぇ〜〜ん」


恐らく今の俺の顔色はまっつぁおだ。

今や恐いもの無しの奴らは、小難しい顔の警官達に擦り寄っていった。猥褻(わいせつ)物をチン列したまま。


「ちょっと他所(よそ)で話しを聞こうか」


何故俺に語りかけるのですか!?

警官達も目のやり場に困っているのだ。

今更他人の振りも出来ず、美沙子だけをタクシーで帰し、俺達はしょっぴかれた。




どうやら近所から苦情の電話があったらしい。

そりゃそうだろう…、酔っ払いが騒ぐだけでも迷惑なのに、それがお姉言葉のダミ声で下ネタを叫ぶ露出狂ときたら…、俺なら隊の出動を要請したいくらいだ。


バッフィーとバイエルンは未だに酔いが醒めず、俺様な態度をとり続ける。

そして彼らのパスポートのSEX(性別)がMALE(男性)である事が、事態を更にややこしくした。


「男性ですね?」


「やだっ! 失礼ねっ、女性ですぅ。だいたいこんな所に連れ込んだりして…。大使館に連絡しなっっさ〜い。治外法権の侵害よ」


「そうやそうやっ! 国際問題やでぇっ! あんたらのせいで第三次世界大戦勃発や〜、怖〜〜い!」


中年の警官が四苦八苦していろいろ尋ねながら調書を書いている間、若い警官は俺達の持ち物を一通り調べて簡単な身体検査をしていた。

いや〜な予感がした。

案の定、若い警官がバッフィーの身体に触れた瞬間…。


「アハン…、ウフン…、イヤン、そんな…。貴方慣れてるのネ。今度はあたしが…」


若い警官は咄嗟にバッフィーの手を払った。


「あ〜〜れ〜〜」


またやってる。大袈裟な!


「あんた! 酷いやないかっ!?」


バイエルンはバッフィーを抱く様にして若い警官を睨み付けた。

若い警官は怒りのせいか頬がプルプル震えている。


本官殿ぉ! 迷う事はありませぇんっ、腰の拳銃を抜けぇーーっっ!!

そして、撃つべし! 撃つべし! 撃つべし!

これは明らかに正当防衛でありまぁすっっ!!

私が法廷で証言致しましょう!

とは言っても、これ以上大事になったら俺も面倒臭い。


「バッフィー、いい加減にしろ。お前が悪いぞ…、本官殿に謝れ!」


あ、本官殿って言っちゃった。


「茂吉ぃん、怒っちゃヤダァ…。ごめんなさい、あたしが悪かったわ…。ぶって、ぶってぇ! この雌ブタをぶって!!」


「はぃぃぃぃ!?」


「ええなぁ…。モキティ、うちも叱ってぇなぁ。うちもぶって欲しいぃぃ!!」


ゾッ!! ドッカーン!

自爆した。

どうやら俺は、奴らの眠れるM魂をたたき起こしてしまった様だ。




中年の警官がニヤリと笑って言った。


「もうお引き取り頂いて結構です。貴方が言った方が聞く様だ。後は責任を持って言い聞かせておいて下さいね」


うぉーい! こっちに丸投げかいっ!?

善良な市民の盾となって散るのもあんたらの仕事だろう!?


「あのぅ…、強制送還とかは…?」


「ハッハッハッハッ」


大笑いされて戸口を指差された。

警察は被害が出ないと動けないとよく耳にする。



俺は害を被ってるんだぁぁーーーー!!!!

税金も払ってるぞ……。



せめてパトカーで送ってくれないか…。






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