嗚呼、食物連鎖。自然の摂理に逆らうなっ!?
なぜだ…、なぜこの二人はこんなにも楽しげに笑い合っているのだろう。
不本意ではあるが、言ってみれば美沙子とバッフィーは、俺をめぐってライバル関係にある筈だ。
なのに美沙子はバッフィーがいたくお気に入りだ。
しかし俺は知っている…、美沙子のしたたかな女心を!
どんなに俺を好きでも、バッフィーは所詮男だ。俺がアニマルでもノーマルである以上、
『お話しにならないわ』
的な上から目線を時折覗かせる。
甘い優越感にとらわれているのだろう…、隠れドSめ!
一方のバッフィーはと言えば、美沙子に近付く事で俺の気を引けるとでも思っているのだろうか…、
「美沙ちゃんと、おっ揃ー!」
とか言いながら、頭にピンクのリボンをつけて貰って俺に見せびらかしに来た。
どうひいき目に見ても、オカマバーのお笑い担当だ。
バッフィー、悪い事は言わない…、その格好で表に出るな…。不審尋問されるぞ。
(これは教えてやった方が親切なのか?)
などと俺が考えていると、玄関で物音がした。
(やった! バッフィーから解放される…)
俺は意気揚々と玄関のドアを開けた。
「ハーイ」
「クォ…、コーッコーッ」
「ケ、ケンタ…」
スッと血の気が引いた。
俺はかねがね奴と…、いや、彼女と、子供達の事を話さなければ…、とは思っていた。しかし、今は…。
「ケンタ、実は…」
(言えない…、お前が腹を痛めて産んだ卵を全部俺が食っちまったなんて…。父親である俺が、我が子を皆食っちまったなんてぇぇっ!!)
俺があれこれ言い訳を考えている隙に、ケンタは首をカクカクさせて中へ入って行ってしまった。
「ま、待て! ケンタ…」
まずいっ!
何度か俺の子まで産んだ、言わば正妻とも言うべきケンタが乗り込んで来たのだ!!
俺に惚れた女三人(?)の、愛憎にまみれたバトルが始まってしまう!
修羅場だっ、血の雨がふるぞぉーー!!
ファイーッッツ!!!!
「あらぁ~、ケンちゃ~ん」
バッフィー…、すっかりオカマバーのママのノリじゃねえか。
「来た来た来た来た、待ってたわよ~」
美沙子は満面の笑みを見せて立ち上がる。
「えっ?」
ひょうし抜けして立ち尽くす俺に、美沙子はヒラヒラ手を振ってのたまう。
「ちょっとお食事してきま~す。ケンタが草食系男子紹介してくれるって言うのよ~。合コンよ~」
「今、旬よね~」
笑顔のバッフィーは口元に明らかな肉食の犬歯を光らせる。
俺は、いそいそと出て行く“何だかな~”な女達の背中を見送った後、一人カップラーメンを食した。
俺と言う者がありながら合コンって…。
まあ、流血の事態はまぬがれた訳だし…、『仲良き事は美しきかな』とも言うではないか。
結果オーライ、よかったよかっ…。
「トサカにくるぅっ!!」バタンと勢いよくドアを開け、凄まじい剣幕の美沙子がずかずかと入って来るなりバッグをソファに投げ付けた。
「あれ? 早かったね…」
「茂吉ぃん! やっぱり貴方だけよぉん!」
バッフィーは俺に駆け寄り、抱き着いてきた。
それを美沙子が引っぺがして俺に訴える。
「雄鶏よ! 雄鶏ばっかりよ!! 草食系男子って言うか…、もろ草食動物よ!! ひどいでしょ!?」
ブハッ! さすがケンタ…、やる事が違う!
グッジョブ!
俺は、(ざまあみろ!)と込み上げる笑いを噛み殺して、目の前で女二人(?)が俺を取り合うさまを見ていた。
悪くない気分だ。
ふと美沙子が俺を見た。
「モッキー! 突っ立ってないで何か作って! コーンとか葉っぱとかばっかりで何も食べてないのよ…。お腹ペコペコ!」
「あたし肉がいいわ~! 鶏唐食べた~い」
「イィェッサー!」
俺はお二人のご注文をお伺いしてキッチンに立った。
何か違う気がするが、細かい事は気にしない気にしない。
肉食系男子はドーンと構えて女子を受け入れてやるものだ…、んん??
ちょっと待ったぁぁ!!
バッフィー、お前は女子じゃねぇぞぉ!!
危ない危ない…。