表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意地悪な姉に代わって結婚したら「くさい。酷い匂いがする」なんて言われてしまいましたが、今日も元気に生きています!  作者: 木の実山ユクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/32

防衛戦


ここから三話ほど戦闘シーン多めになります。

ゲスな敵さんも登場します。

苦手な方は気をつけてください!




「あの女が部屋にいなかった?!」


「声が大きいぞグリシス」


伝令虫が伝えてきた内容をグリシスに耳打ちすると、グリシスは驚いた声を出した。

慌てて窘めるが、グリシスは声を抑えきれないようだった。


「しかし声も大きくなりますよ!どういうことですか、この緊急事態に、あの女がどこかの男と遊び惚けていることが発覚したということですか!」


「そこまでの話ではないだろう」


「じゃあ何故あの女は部屋にいないんですか!」


エルフリートは一瞬黙る。

何故いないかなんて、分からない。

交流も最低限なのだから、想像することは出来ても答えなど知らない。


「だが何故いないかは、今議論している暇はない。彼女は陛下から賜った人間だ。そして魔力の匂いがしなかったとはいえ古の血筋の人間だ。万一魔族に捕まって食われでもしたら、陛下の御心を無下にするばかりか魔族の力を強める事にもなってしまう。彼女を探さないと」


魔族がここまで迫ってきているのだから、彼女が取って食われて魔族の養分になってしまう事も十分にあり得る。

最悪の事態になる前に何としてでも見つけ出して、避難をしてもらわないと困る。



「申し訳ないがグリシス、君が屋敷まで戻り彼女の捜索をしてくれないか」


「俺がですか?!」


グリシスは思いっきり嫌そうな顔をした。

提案したエルフリートも、彼はこうして嫌がるだろうなとは予想済みだった。


「私は行けないだろう。私にはこの砦を死守する責務がある。歴代の大隊長たちもそうしてきた。だから君に頼む」


「俺も最後までエルフリート様と共に戦います!捜索は斥候にでも任せましょう」


「しかし彼らは顔を知らないだろう」


「うちの斥候も優秀な者がいます。特徴さえ確実に伝えれば俺より早く見つけ出すことが出来るのではないでしょうか」


一歩も引く様子の無いグリシスの意見はそこそこ筋も通っていたので、エルフリートはふうと息を吐いた。


「……では、それでいい。必ず見つけ出して避難させるようにだけは頼んだ」


「はい」


返事をするや否やグリシスはエルフリートの元を離れ、斥候に指示を出しに行く。

そんな彼と入れ替わるように、小隊長が戦線の報告にやって来た。

主に砦を制圧しようと爆発と同時に攻めてきた魔族と、それを迎え撃った右手側の砦の戦況だ。


「エルフリート様、交戦開始しました」


「相手は」


「下級の魔族ばかりです」


「上位種はいないか?飛行種の魔族は?」


「今のところどちらも見当たりません」


「わかった。戦況は」


「持ちこたえています」


「では砦を破壊した怪物とやらは」


「まだ姿は……」


砦の最上部、望楼も兼ねたその大きな屋上で小隊長がエルフリートの問いに答えた時だった。

目の前まで迫っていた黒煙が、突如真っ二つに割れた。

そして八つの赤い目と三つの首、それから壊れた黒い傘のような翼を持った大きな化け物と、真っ黒い人型の何かが急に視界に現れた。


塔を破壊した化け物と、人の形をした赤い目の上位種の魔族だった。


「きゃああっ!!」


エルフリートの隣の小隊長は思わず悲鳴を上げて、ドシンと尻もちをついた。

上位種の魔族と言うのは、小隊長でも怯んでしまうほど禍々しい魔力を纏っているのだ。


しかしその魔族は無防備になった小隊長には興味も示さず、エルフリートだけに向かってヒラヒラと手を振った。


「やっほーお久しぶり、エルフリートちゃん。大きくなってまた男前になったんじゃない?いいね羨ましいね。あ、それよりエルフリートちゃんはこいつをお探しだったかな?」


不気味な黒い翼をもつその魔族は、後ろに控えた化け物を指さしながらそう言った。

鋭く曲がった歯を見せながら、その真っ赤な目をにやりと歪ませる。


「さっきの爆発、すごかったでしょ。こいつがやったんだよ。これは試作品だけど、あとちょっと僕ちゃんに召喚の魔力が加われば完璧にできるんだけど、なかなかそんな魔力持ちも見つからなくてね」


「……」


「あれあれ何で返事してくれないの?もしかして僕ちゃんに会えて喜び過ぎて声も出ないかな?かれこれ四、五年ぶりくらいだもんね」


「……そうだな、ゲシュタル」


三つ首の化け物の翼のはばたきが起こす鋭い風の中、エルフリートはゲシュタルという名の赤い目の魔族を睨みつけた。


「うんうん。僕ちゃん、君のお兄ちゃんの仇だもんね。目の前でこうブスッと殺してあげたんだもんね。だから僕ちゃんに会いたくて会いたくて仕方なかったでしょう?僕ちゃんの喉にその槍ぶっさして僕ちゃんの心臓八つ裂きにしたくて仕方なかったでしょう?」


その通りだ。

エルフリートは何も言わなかったが、片手の中にある槍を握り締めた。


この赤い目の魔族の顔は忘れもしない。

絶対に許せない兄の仇だ。

この手で討ち取って、兄への手向けにしてやる。


だが同時に、エルフリートは実力差が測れない程愚かではなかった。

数年ぶりに対面したこの赤目の魔族からは、昔より数段跳ねあがった魔力のにおいを感じる。

この数年間で獣人の国に送られた人間が何人か魔族に攫われたという報告があったが、もしかしたらその中の何人かはこのゲシュタルの腹の中に消えたのかもしれない。



「大事なお兄ちゃんが目の前で死んだあの時のエルフリートちゃん、良い顔してたよね。この世で一番いい顔してた。僕ちゃん、あの時からエルフリートちゃんの事が忘れられなくってね。またあの素敵なお顔が見たいな」


「っ……」


エルフリートはギリリと奥歯を噛んだ。


今も昔も、こいつは変わらず反吐が出るような趣味をしている。

魔族はみんなこうなのだろうが、エルフリートの顔を這いまわるナメクジのような視線を寄越すゲシュタルの存在は、一等に吐き気がする。


「あはあは、僕ちゃんの事、すっごく殺したいって顔してるね。でもエルフリートちゃんには僕ちゃんを殺せないよ。だって僕ちゃん、今日は戦わないもん。僕ちゃんの考える最強のキメラ試作品がやっとこさ出来たから、この性能をエルフリートちゃんたちで試しに来たんだよ」


「……試す?」


「そうそう。本当はこの砦くらいなら一撃で燃やせるくらいが理想だったんだけど、こいつは試作品だから砦も三分の一くらいしか壊せなかった。さっきので死んだのは虫獣くらいか。獣人がたくさん死なないと全然つまんないね」


ゲシュタルは長い舌をぺろりと出した。

ゲシュタルは終始にやにやと笑っているが、エルフリートは射貫かんばかりの鋭い視線をぶつけた。


残虐な魔族とはもうこれ以上話していたくもない。

今この場で、決着をつける。

討ち取ってやる。


エルフリートは槍を強く握ったまま一歩踏み出したが、それよりも先にゲシュタルが動いていた。



「きゃっ!!!」


赤い目の魔族は一瞬の羽ばたきだけで近付いてきて、尻もちをついたままだった小隊長の女性の首根っこをひょいと掴んで持ち上げた。


小隊長は為す術もなく宙ずりにされ、青い顔で唸っていた。


「あはあはあはは。こんな高い砦の上からだから、地面に投げ捨てられたらこの子は即死だよね。ペッちゃんこになった部下を見たら、エルフリートちゃんのいい顔、また見られるかな?」


ゲシュタルは空を仰ぐように反り返りながら高笑いをする。

首根っこを掴んでいる小隊長の事は、まるで鞄か何かのように無邪気に振りまわしている。


「外道が……」


「あはあは。だって魔族は外道な種族だもん、仕方ないじゃん。僕ちゃんが悪いんじゃないんだよ。僕ちゃんたちを作った神様が悪いんだよ」


「彼女をこちらに戻せ。私に執着するのなら私の相手をしろ」


それなりの経験を積んできたエルフリートは、目の前で兄を失くしたことから始まり、部下を失くしたことだってある。

だが、もう絶対にそんな経験を重ねていきたくはないと思って戦ってきた。

誰かが自分の所為で犠牲になるくらいなら、自分が犠牲になった方が幾らかましだ。


エルフリートは大槍を握りなおし、飛び掛かった。

だがゲシュタルはひらりとエルフリートを躱して上に飛び上がる。

いくらエルフリートが身軽で跳躍力に優れていると言っても、空を自由に飛べる上位種の魔族には届かない。


「僕ちゃんは君に何かしたいんじゃなくて、してあげたいんだよ。こーやってね」


ゲシュタルはあはあはと笑い、あっさりと小隊長を投げ捨てた。


「待て!!!!!」


エルフリートは思わず持っていた槍を投げ捨てて、落ちていく小隊長を追おうとして宙に飛び込んだ。


はずだったが、後ろから誰かにガシッと阻止された。


「エルフリート様!!」


「っ、グリシス……」


砦の最上部から下に飛び込もうとしたエルフリートを止めたのは、戻ってきたグリシスだった。

眉を寄せて歯を食いしばりながら、グリシスは首を振る。

グリシスも長年一緒にやってきた小隊長が目の前で宙に放り出されたのだから、今にも魔族に飛び掛かりたいくらいの怒りに駆られている事だろう。

だがそれを堪えて、我を忘れかけたエルフリートを引き留めてくれた。



「あはははあはあはあ!!!!いいねやっぱりエルフリートちゃんみたいな美形の顔が、絶望と怒りで醜く歪むところって最高だね!これぞ僕ちゃんが生きてる意味だねって思っちゃうね。心臓がバクバクいって止まらないや!最高だよ!もっと見せてよ!次は誰を殺せばいい!?」


「貴様……」


「何で睨むの?僕ちゃんの所為じゃないよ。エルフリートちゃんが弱いからみんな死んじゃうんだよ。エルフリートちゃんは狼の一族だっけ、強いんでしょ?獣人のなかでも特に早くて強くて戦闘向きなんでしょ?でもそんな血筋でも僕ちゃんのこと止められないなんて、才能ないんだよ。あ、僕ちゃんが天才過ぎるだけかな?並の天才じゃ本物の天才には敵わないかな?」


酷い高笑いに耳が痛くなる。

エルフリートは自らが放った槍ではなく、後ろに引っ付いているグリシスが装備していた弓と矢をはんば奪うようにして引ったくった。

力の差が歴然でも、抵抗しないではいられなかった。


「降りてくる気が無いのならば!」


目にもとまらぬ速さで矢をつがえ、放つ。

しかし弓の軌道は簡単に読まれ、ひらりふらりと躱された。


「だめだめ、弓と矢なんかじゃ僕ちゃんは絶対殺せないよ。ねえ、最強の獣人って先祖返りしたやつなんでしょ?エルフリートちゃんはしないの?あ、もしかして出来ないの?だめだめだね、僕ちゃんを本気で殺したいなら騙してでも奪ってでも我武者羅に力を求めなきゃ」


「……っ」


エルフリートは槍も一級品なれば、弓の腕も王に称えられたほどの実力を持っているはずなのだ。

並の魔族ならば一度に何匹も仕留めることだって可能なのに、上位種の魔族にはテンで歯が立たない。


その喉元を今すぐ食い千切ってやりたいのに。

爪を立てて、引き裂いて二度とこんなことが出来ないように消滅させてやりたいのに。

研鑽は怠ってきてはいない筈なのに、昔よりは確実に強くなっている筈なのに、まるで手も足も出ない。

やはり先祖返りも出来ないエルフリートには限界があるという事か。


(いや、先祖返りなどなくとも……!!)


張り詰めた限界の先に放った一閃は、ゲシュタルの顔面に直撃した。


……かと思われたのだが、ゲシュタルはその鋭く曲がった歯で矢を受け止め、そしてビスケットでも齧るように噛み砕いた。

矢は無残にバラバラになって下へ落ちていく。


最後の矢も届かなかった。


ゲシュタルは赤い目を細めて嬉しそうに笑った。


「あはあはあは。じゃあもうタイムオーバーね。この砦焼き払って、真っすぐ進んで街を破壊して村を破壊して、王都にまで攻め込んじゃお。それから人間の国に行って、魔力がある人間を沢山食べるんだ。その時に召喚の魔力持ちの人間も探さなきゃ。あはあはあは、そうすれば僕ちゃんはもっと強くなれるね」


ゲシュタルは後ろに控ええていた化け物の頭の一つをバシバシと叩き、そして言った。


「ほら、試作品。エルフリートちゃんがいるこの砦も爆破しちゃって」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ