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意地悪な姉に代わって結婚したら「くさい。酷い匂いがする」なんて言われてしまいましたが、今日も元気に生きています!  作者: 木の実山ユクラ


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街でのであい




突き抜けるように青い空に、真っ白な雲。

今日もいい天気。

でも少し暑い。

まだまだ昼は長い。活動できる時間も長いぞと言っているようだ。

今日も今日とて労働日和である。


「ふんふふーんふんふん、ふふーん」


鼻歌も仕事もはかどる。

今日のキャロンが踊るように鼻歌を歌いながら鍬を振るっているのは、厨房の裏にある小さな土の一角だ。



「今日も精が出るわね、新人さん」


「ああ、はい!」


キャロンは、バスケット一杯に入ったシーツを運んで裏庭を横断していた使用人の女性に声を掛けられて、元気に微笑んだ。

グイッと汗が垂れてきた頬をこすって黒い土をつけてしまうけど、キャロンは気にせず笑っている。



「ふっふんふふーん」



ざくざくざく。

いつもは雑巾片手に屋敷内を磨いて回っているキャロンが、今日は鍬で土を掘り返しているのには、ちょっとした経緯があった。




それは先日の事だ。

キャロンは掃除の合間にオメロンとアレキスに料理を教えていた。


コックコートを着て厨房に立ったキャロンは、グラタンを作ろうとしていた。

エビによく似たぷりぷりの虫獣肉を紹介されたので、それを使って人間の料理を作ってみようとしたのである。


でも、エルフリートの屋敷の厨房には野菜が無かった。


「やっぱり、今は芽が生えたパパ芋と腐った青人参しかなかった。申し訳ないね。この屋敷では草食の一族の人が少なくて、あまり野菜を仕入れていないんだよ」


放置されて芽が生えてしまったジャガイモのような芋と、黒く腐ってしまっている青色の人参を見せられて、キャロンは一度諦めた。


しかし残念さを隠しきれなかったキャロンを気にかけてくれたアレキスが、素敵な提案をしてくれたのである。


「ねえ新入り君。野菜が食べたいのなら、栽培すればいいんじゃないかな?厨房の裏口を出たところに使われていない丁度いい場所があるし、畑にしたらどうだい?畑を作るというのなら、僕らも手伝うよ」


「市場で野菜を買うという手もあるけど、この辺りの野菜商人はクズ野菜を売りつけるって評判も良くないし、野菜は食べたいなら作った方が断然いいからね、この案には僕も賛成さ」


アレキスの横で、オメロンもいいねと頷いていた。


「じゃあ畑ができたら街へ行って好きな野菜の苗を買っておいでよ。力仕事とか畑を耕すのは手伝うから」


こうして手伝ってくれるという二人のお言葉に甘えて、キャロンは畑作りを始めたのである。





ざくざくざく。

ふう。


一息ついたキャロンは手に持っていた鍬を下に降ろして、軍手を取った。


「よし。土は大体耕せましたから、次は街へ行って野菜の苗を買ってきましょう」


パンパンとエプロンに着いた土を払い、すぐそばの木陰に置いて置いたお手製のポーチを肩に掛けた。




街を目指すキャロンが庭を横切っていた時、丁度オメロンとアレキスにすれ違った。

二人は昨日はキャロンの畑仕事を手伝ってくれていたけれど、今日は何やら忙しいようだった。


「新入り君、今日は手伝えなくてすまなかったね。でも今から街に行くのかい?気をつけなよ、ガラが悪い奴もいるかもしれないからさ」

「大丈夫だってアレキス。新入り君だって獣人なんだから多少の心得くらいはあるさ」


二人の掛け合いに笑いながらお礼を言ったキャロンは、そのまま門をくぐって外へ出た。


獣人の国で、屋敷の外に出るのは初めてだ。

街の様子を見るのは楽しみ。


アレキスは気をつけろと言っていたが普通に買い物をする分には何の問題もないだろうし、今まで地味に生きてきたキャロンはこの時、まさか自分が騒ぎに巻き込まれるなんて思ってもいなかった。





「ふふふるーんるん」


キャロンはスキップしながら、両手に苗を抱えて帰り道を辿っていた。


人で賑わう市場を抜ける。

小川に架かる橋を渡って、煉瓦通りの道に出る。


初めての獣人の街は人間の国の街とは雰囲気が違ったけれど、平和だった。

よく手入れされた町並みで、買い物をしている人もいれば物を売っている人もいる。

子供連れの人もいれば、カップルの人もいる。


のんびりとした、穏やかな街の風景だった。

と、キャロンは雰囲気を堪能していたのだけれど。




がらがらがっしゃーん!!


キャロンが足元に広がる煉瓦道を歩いていた時、急に耳をつんざくような音が聞こえた。

丁度つい先ほど通り過ぎた裏路地の方からだった。


何事かと思って振り返る。

道ゆく人がザワザワと揺れる。

キャロンの耳に、小さな小さな悲鳴が聞こえた気がした。


キャロンは苗を抱えて、その声と音が聞こえた方へ移動した。

なんとなく気になったのだ。


ザワザワしている数人の獣人の間から頭を出して、路地の先を見る。

大きな影が二つと、小さな影が一つ。


その様子を見るに、二人の大きな獣人の男らが、小さな獣人の子供の露店をひっくり返していたようだった。


「お前がぶつかった所為で俺の服汚れちまっただろお?!くっせえんだよ!」

「ああん、何とか言えよ。出来損ないは口もきけねえのか?」

「出来損ないでも土下座くらいできるだろ、出来損ないの癖にぶつかってごめんなさいって謝れよ、この汚え孤児が!」


まるで酔ったように乱暴な大男の一人が、足を蹴り上げた。

弾かれた小さな獣人の子供が悲鳴を上げて吹き飛んで、地面に叩き付けられてぐったりした。


蹴られて地面に転がったのは、破壊された小さな出店の店番をしていた子供らしい。


キャロンは息をのんだ。


助けてあげないと。


しかしキャロンの前でザワザワと揺れている街の人たちは助ける素振りも、止めにはいる素振りも特に見せることはなかった。

そればかりか、「あの孤児、耳があるわね。出来損ないだわ」「出来損ないは淘汰されて当然よね」なんて当たり前のような口調で話している人もいる。


キャロンは唇をぎゅっと噛み、抱えていた苗を静かに地面に置いた。


何故誰も小さな子供を助けに走ることが出来ないのか。


あんな風に蹴られたら痛い。叩き付けられれば息が出来ない。

皆分からないのだろうか。

キャロンは、出来損ないと言われてたくさん叩かれたことがある。

あの時は誰かに助けて欲しいと思った。

誰か一人だけでも味方になってくれればと思った。

それを思い出して、キャロンは思わず飛び出していた。


誰もあの子を庇わないのなら、私が庇う。



「もうやめてください!」


キャロンは躊躇もなしに、子供と二人の大男たちの間に割って入った。

自分がか弱い人間であることも忘れて、子供の獣人を庇っていた。


目の前で腕を振り上げる大きな獣人は確かに怖い。

まるで山の化け物か何かのように恐ろしかった。


背筋が凍る。

声が震える。

でも、キャロンは完全に無策なわけではなかった。


ポケットの中に忍ばせていた紙のきれ端に、ボウガンのようなものを描いた一枚がある。

連射も可能な巨大な銃身と、鈍く光る鉄色の弦のついた武器だ。

昨晩興が乗ってしまったキャロンの妄想の産物だが、今この時には使えるかもしれない。


キャロンは素早くエプロンのポケットに手を入れて指から魔力をこめて、紙から描いた武器を引き抜いた。

そして現れたその武器をそれらしく構え、叫ぶ。


「離れて!撃ちますよ!」


一瞬、当たりがしんと静まり返った。

ザワザワと言いたい放題だったやじ馬たちも、突然転がるように現れて大型の武器を構えたキャロンを見て目を見張ったようだった。


「な、なんだこの女っ」


大男の一人が辛うじて声を絞り出した。

しかし見知らぬ武器の巨体と鋭い矢の先端に怖気づいたのか、じりじりと後ずさる。


「もうこれ以上この子に危害を加えることは許しません!さあ早く!消えてください!」


「怯むな、あんな細腕の女」


「もう二度は言いません!次は撃ちます!!」


キャロンが構えたボウガンがギラリと光る。


「撃ちます!!」


キャロンが大声で宣言して照準を合わせる構えを見せると、二人の大男らはウグッと怯み、血走った眼を見合わせて「今はずらかるぞ!」とやじ馬たちを蹴散らすようにして去って行った。

そして、それに続くようにしてやじ馬たちもばらばらといなくなっていく。




「……ふう」


(焦りました……。はったりでも効いて良かったです)


キャロンは熊獣人でも一撃で仕留めそうな大きなボウガンを下に降ろし、地面に叩き付けられた小さな獣人に近寄った。


プルプルと背を丸めているその子供の獣人には、大きな獣の耳があった。

この世界の獣人は耳は人間と同じで尻尾があるだけなのに、この子には耳も尻尾もある。

これが、獣人にとっての出来損ないというものなのだろうか。



「大丈夫でしたか?」


キャロンは小さな体に呼び掛けた。

反応がない。


「あの、大丈夫でしたか?」


小さな肩ををポンポンと叩き、呼びかける。

獣人の子は弱弱しく顔を上げた。


「どこか痛いところはありますか?」


獣人の子は無表情だった。

そしてじっとキャロンを見つめたまま、何も言わなかった。









その場で簡単な応急処置だけして、キャロンはその獣人の子に再び質問をしてみた。


「えっと、貴方の名前はなんですか?」


「ないです」


獣人の子はたどたどしい言葉遣いで、ようやくキャロンに返事をしてくれた。


「痛いところはありませんか」


「ないです」


「ほんとうですか?」


「はい」


獣人の子はコクリと頷いた。


見たところ血が出ている個所はなさそうだけど、本当に大丈夫だろうか。

カラ元気なだけなのではないだろうか。

でも服を捲って見せろという訳にもいかず、キャロンは話題を変えることにした。


「じゃあ、えっと、貴方のお店を直すお手伝いをしますね」


返事の代わりに、獣人の子は初めて小さく笑った。

尻尾がちょっぴりだけ揺れる。

そのふかふかの尻尾と耳を見るに、彼は狐の一族の獣人のようだった。


キャロンは壊された狐の子のお店の埃を払い、足りない部品は魔法で描いて修復した。

と言っても、狐の子のお店はただのシートにちょっとした台と看板を並べただけのおままごとにも近いようなものだったので、そう時間もかからず直すことが出来た。


ひと段落したが、キャロンはお店にとって大切なものが欠けていることに気が付いた。


それは、商品だ。

狐のこのお店には商品が一つもない。


それを聞けば、狐の子はしょんぼりとうなだれた。


「壊されました」


言って悲しくなってしまったのか、狐の子はポロポロと泣いた。


ぐちゃぐちゃにされたそこの子足元には、割れて粉々になった陶器のようなものや、ベキベキに凹んだ薄い鉄の器のようなものが散乱していた。

壊されていなくても壊れたガラクタのようなものに見受けられえたけど、孤児だと言われていたこの子にとっては大切なもので、命綱の商品だったはずだ。


キャロンは屈んで狐の子の頭を撫でた。

ゆっくりと撫でる。

狐の子は静かにしゃっくりを上げていた。


「そうでしたか。売り物が無くて困っているのですね。そう、そうなのですね」


狐の子はキャロンに頭を撫でられて必死で涙をこらえようとしていたがそれは成功せず、ポロポロと泣き続けていた。

キャロンは静かに狐の子の頭を撫で続けた。


「大丈夫、大丈夫ですよ」


優しく繰り返す。

しかし、狐の子はまだ涙を止められないようだ。

どうしたら泣き止んでくれるだろう。

キャロンはきょろきょろとあたりを見回した。


(あっ)


視界に入るのは、もう人が何事もなかったかのように歩いている街の角。

二つ三つの露店が出ている。

その中に、道端で絵を売っているアーティストの姿を発見した。


「……そうだ、いい事を思いつきました。私、絵が描けるんです。頑張って描きますから、それをああやって商品にしてはどうでしょうか。ね、もう大丈夫です」


「絵ですか?」


「はい。私、絵なら小さい頃からずっと描いてきましたから、もしかしたら商品になるかもしれません」


キャロンの絵が売れるなんて保証はないけれど。

狐の子は絵が好きなのか、はたまたキャロンの提案が嬉しかったのか、涙を拭いて手を小さくパチパチと叩いてくれた。





キャロンは狐の子の手を引いて、場所を移動することにした。

あの二人の獣人がまた戻ってくるかもしれないから、先ほどの場所で店を出すのは危険だからだ。


キャロンは獣人の街に詳しいわけではないが、なんとなく治安の良さそうなエリアを見つけ、そのあたりにあった穏やかそうな骨董品屋と交渉して店の横の小さなスペースを貸してもらった。


「ここを新しいお店の場所にしましょう」


キャロンに手を引かれていた狐の子はパチパチと喜んだ。


キャロンは彼がお店を組み立てるのを手伝い、絵は明日書いてくるからとその日は屋敷に帰ったのだった。







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