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第一章 覚醒編 最悪の選択

嫌な感じがずっとする。

村長の屋敷で初めて対面したときからずっと。

圧倒的な違和感。

ソレであってソレでない存在がいる。


「俺も正確な歳分かんねぇけどな。教えてもらったことないし」


正確な歳というのはその体のか?それとも悪魔としてのか?

神が反転して悪魔になる?

印を持つ者?

分からない。分からない。分からない。

知らない情報が頭の中で衝突しあい、混乱する。


結局俺はマオを守るために矢を籠手で受けただけだった。

ほとんど何もできず悪魔は首を落とされた。

今目の前にいるのはソレだったもの。

いわば死体だ。

だがこの感じは…


「肉体の劣化が著しい。こんな腐りかけの体に魔力を割きたくなかったが…」


この言葉に引っかかりを覚える。

他人から体を奪い自分のものとするが、その体そのものは老化が進んでいくようだ。

腐りかけというのは老いた体を言っているのだろう。

その体に魔力を割く…?

そういえばジオに切られた腕がいつの間にか元に戻っていた


浄化をしていないからまだ奴の魂は死んでいない…

なら魂は今どこにあるんだ?

名前

肉体が死んだら名前はどこに行く?

名前に魂がくっついてくるのか?

魂に名前がくっついてくるのか?

後者であればここに魂があればこの死体は…まさか…


「………ククククク…」


頭に響き渡るような悍ましい声。


ベルトルッチの氷魔術で空気中の水分は氷となったため、空気が乾燥している。

目が乾く。

瞬きをする。

瞼を開いた時にはもう死体はなかった。


そこにいたのは五体満足のブリッケンだった。


ジオが切り飛ばした両腕、首。

マオが貫いた胸。

おそらくジャックが焼いた内臓も元通りだろう。

まるで何事もなかったかのようにそこにあった。

ただ衣類がその部分だけ欠損している。


確かに切った。確かに貫いた。

だが奴はそこに立っている。


正直神とか悪魔とか言われてもピンとこない。

だが俺はやっととんでもない相手と対峙しているのだと理解する。

俺には気を失う前の記憶が抜け落ちている。

だからこれは本能的に体に刻み込まれたもの。


コイツには勝てない。


「逃げろ!!!」


誰が言ったか。

俺だったかもしれないし、ジオ、ベルトルッチ、ジャックの誰かかもしれない。

あるいは全員か。

全員身をひるがえし来た道を引き返す。


後ろから脳に直接響くような声が聞こえる。


「逃げろ逃げろぉ。獲物を追うのは得意なんだ…」





崖のような斜面から木の根が剝き出しになり、安定しない足場に苦戦しながら駆け上がる。

来るときの道中、ブリッケンの身のこなしを見る限り俺たちじゃ相手にならないだろう。


だが奴は追ってこない?

木の根を避けながら森の中を全速力で駆け抜ける。

木々が通り過ぎるたびにヒュンヒュンと風を切る音がする。

こんなに速く走れただろうか。


ハッとベルトルッチを探す。

俺らの最後方から身体能力を強化する魔法をかけてくれている。

これでブリッケンは追いつけないのか。

これなら逃げ切れる…!


目印になりそうだった他よりも2周りくらい大きい大樹を通り過ぎる。

記憶に残っている景色を見られることである程度安心できる。


ビュッ!!!!


空気を切り裂く音と同時に俺の前を走っていたジオがドシャっと地面に崩れる。


「そうだよねぇ。目印になりそうな目立つ木だもんな。ここは通るよな」


木の陰からブリッケンが現れた。

真っ黒な瞳を細めながらニタリと笑う。


やられた。

俺たちが目印にしそうな場所をわざと通り印象付けたのか。


後は適当に迂回して窪地に向かう。

俺たちは遠回りだと気付きもせず、馬鹿正直に来た道を走ってきた。

そして奴自身は直線的にここへ来てエサが来るのを先回りして待ってやがった。


「大丈夫だ!!浅い!!お前らは行け!!!」


ジオがヨロヨロと立上がりながら叫ぶ。


「傷モノにはしたくねぇんだ。大人しく体を寄越せぇ!」


ブリッケンはジオめがけて突進する。

ジオも剣を構えようとするが右肩に矢が刺さって動きが鈍い。

黒い靄を纏った悪魔の手が顔に延ばされる。


バチバチバチッ


空気が電気を帯びる。

一筋の閃光がジオとブリッケンの間に走った。


「でありゃぁぁああぁぁぁあああ!!!!!!!」


ジャックの剣がブリッケンの腕を切り飛ばす。

悪魔が後ろに退く。

ボタボタと血を零しながら切られた腕を見て顔をゆがませる。


「人の腕をバスバス切りやがってよぉ!トカゲのしっぽじゃねぇんだぞ!!」


怒りをあらわにしている悪魔の向こうに槍を構えるマオ。


ズバッ


背中を切りつけた。

呻るブリッケン。


しかし血も出てない。"魔套鎧"とかいう奴だろう。

俺は魔法の使い方が全く分からない。

それが何なのか分からないが、魔法でできた不可視の鎧みたいな感じか。


ジオの攻撃では腕を切り飛ばされていたが、マオの攻撃は刃が通っていない。

普通の金属鎧だって鋭い刃で切り裂くことができる。要は許容範囲があるってことか。

あるいは常時展開できるものではなくて、不意打ちのジャックは通ったのか。


モニカがステッキに魔力を込め始めた。

細く小さいステッキの何には、琥珀色の宝石が納められ、淡く光っているようにも見える。

それをくるくると回す。

すると彼女の周りの空気がキラキラと輝き、無数の氷の礫が出来上がる。

ステッキをブリッケンの方へ突き出すと礫はブリッケンめがけて飛んで行った。


彼女の氷塊矢はベルトルッチの氷柱砲に比べて威力が低い。

ましてさっきベルトルッチが空気中の水分をほとんど使っていしまっている。

細かい礫しか作れていない。

当然貫通することなく弾けて防がれてしまう。

しかし、数で押すことで相手の動きを制した。


モニカのベルトルッチはジオに回復魔法をかけ、後方へ移動させる。


俺は…


何をやっているんだ…?

剣を持っているだけじゃ勝てねぇぞ…

いや…そもそも勝てるのか?

体が動かない。

剣術まで忘れたわけじゃないっていうのはこの前ジャックと手合わせしたときに分かったはずだ。

でも頭にずっと靄がかかったかのようで晴れない。


ダメだ。考える前に体を動かせ!

俺も戦うんだ!


「うわあぁぁぁぁあぁぁ!!!」


俺の最大限の力を込めてブリッケンに切り込む。


ガキィン!


弾かれた。


ジャックに切り飛ばされたはずの腕がそこにはあった。

さっきまでは温存していたのか、もう惜しまず回復していきやがる。

歯が立たないというのはこういうことか…


「フハハハハ!なんだお前は!魔法すら使えんのか!?」


虫を払うようにして俺は吹き飛ばされる。。

クソ…何がダメなんだ…?


「ちと心もとないが……手っ取り早くいくならお前だなぁ!!!!!」


ターゲットが俺に移る。

悪魔に体を乗っ取られるっていうのはどういうことなんだ?

それは死なのだろうか。


「てめぇの相手は俺だぁああぁあぁ!!」

「突っ込むだけじゃ女にモテねぇぞ。クソガキぃ!」


ジャックが突進する。

が、弾き飛ばされる。

腕の一振りで木の幹が抉れる。

たった一撃でなぎ倒される大木。

まさしくそれは災害。

俺は伸ばされるやつの腕に剣を当て攻撃をそらす。

すさまじい衝撃が剣から腕、体を通して脳を震わせる。


「俺の目的はお前の体を手に入れることだ。お前がおとなしくよこせばお友達は無事に帰してやる」

(絶対嘘だ)


こんな見え透いた悪魔の甘言に惑わされるわけない。


「あぁ。そうか、お前が欲しいモノはもっと別にあったな」


ニタァっと気味の悪い笑みを浮かべる。

なんだ?何を考えている?

底のない真っ黒な瞳で一体何を見ている?


…来る!!


ガッ!!!


皆の攻撃をかわし、右腕が俺に伸ばされ、それを俺が剣で逸らす。

背中に何かが当たる。


木だ。


やつの攻撃をよけるので精いっぱいで周りが見えてなかった。

ジャックの矢が奴の右腕に刺さりやつの動きが止まる。

この隙に俺は奴の左側から逃げようとする。


「記憶を取り戻したいんだろう?」

「!?」


思わぬ言葉に体が硬直する。

隙ができたのは俺の方だった。


ガシィ!


黒い靄をまとったやつの左手が俺の顔を掴み木に押さえつけた。


「やめろぉ!!!!」


皆の声が遠くで聞こえる。

頭の中に黒い靄が入り込んでくる。

すさまじい量の情報が頭の中をかき乱す。

目の前は真っ黒で闇の中。

いや、なにかは見えている。

それが何かは理解できない。

誰かの記憶…?

凄まじい速度で流れゆく。

そして俺は気を失った。

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