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第一章 覚醒編 依頼と疑心

氷柱砲(アイシクルキャノン)―翌朝―

鳥のさえずりで心地よく眠りから覚める。

みんなが起きたころ、部屋の扉がノックされる。


「おはようございます。ご朝食の準備が整っておりますので、ご案内させていただきます」


また仰々しいもてなしだなと思いつつ、皆慣れてきていた。

案内された部屋には、テーブルに人数分のパンとスープ、飲み物、サラダが用意されている。

別のところには各自で取り分ける方式でたくさんの食事が並べられている。


「これから任務に向かわれる皆様のために、よりをかけてたくさん作らせました。どうぞご遠慮なくお召し上がりください」


メイド長と思しき女性が言う。

見ると肉類が多く用意されているみたい。

確かに必要とはいえ朝一で肉を食べるのは気が進まないなぁ。

と思っていたのは私とマオだけで、男連中はガツガツと肉を喰らいつくす。


朝食が終わると、宿から少し離れたところにある屋敷へ案内される。

依頼主との依頼内容の確認が行われる。つまり村長や村の重役たちとの話し合いだ。

任務を受けるにあたって悪魔の遭遇場所についてなど、いろいろ細かい情報を貰う。


身なりのいい村長と村の重役たち、案内された立派な部屋で堅苦しい話が始まった。

横のジャックを見ると早くも睡魔と戦っている。


「ご存じの通り、我々の村は観光業で成り立っています。つまり悪評一つで村の存続が危うくなりうる。

だからこそ、どんなに小さな悪評にも迅速に対処してまいりました。しかし、今回の件は我々では対処が不可能」

「なのであなた方ガーディアンには、今回の話が噂程度にも外に流れる前に肩をつけていただきたいこと。

そして今回の一件について、一切口外しないこと。この二つをお願いしたいのです」


やはり外聞を気にしているようだ。

まぁしょうがないか。

依頼主はギルドにお金を支払い、ギルドから私たちに給料としてお金を貰う。

そういうシステムなので、私たちは依頼主などから直接金を貰うことを禁止されている。

公平性を保つためのルールだが、今回のように豪華な接待で口止め料などとされることもある。

正直今回のは過度な接待としてアウトになりかねない気もするけどね。


「承知しています。本題に移りたいのですがよろしいですか?悪魔の遭遇場所、数、悪魔の特性が分かるのならそれも教えていただきたい」

「今回悪魔と遭遇したのはウチの腕利きの狩人でな。

場所も彼しかわからない。能力的にも足手まといにはならないと考えている。

彼を案内人としてあなた方に同行させるので、詳細は道中彼に聞いてくれ」

「今ここである程度の情報をいただなければ…」

「今日までで相当の接待経費が発生している。黙って言うとおりにしていただこう」

「…」


まぁ。こういうことになりうるから過度な接待は禁止となっているんだなぁ。

こういう風に高圧的な態度に出てくる依頼主というのは多い。

なのであまり気に留めることもないが、気分は悪くなる。


「おい。入ってこい」


村長が手をたたくと、隣の部屋で待機していたのだろう、すぐに人が入ってきた。

今回の案内役の狩人「ブリッケン」

細いがしっかりとした筋肉と、歳はわからないが、間違いなく若くはない。

自分仕様にカスタマイズされた皮装備とボウガンを装備した白髪の初老だ。

経験値の多さからか、独特の雰囲気と素人ではない物腰。

私たちが宿泊した宿に良い肉を卸していて、村で一番の腕と勘の持ち主だという。

彼がこの村にやってきた頃から宿泊客の料理に対する満足度が上がっている。

なんでも彼が狩ってきた肉はその動物の『食べ頃』にあたるらしく、油と肉がちょうどいいところらしい。

1週間前、彼が狩りをしていた時に悪魔と遭遇し、襲われそうになった。

しかし森の中を知り尽くす彼は必死に逃げ、なんとか無傷で逃げ切れたらしい。

自己紹介もほとんどできないまま村長の屋敷を出された。

あっちはあっちで話さなければいけないことがあるのだろう。


「けっ。感じの悪ぃジジイだぜ」


屋敷を出た瞬間に悪態をつくジャックに、みなうなづくする。


私たちはブリッケンさんを先頭に、その悪魔と遭遇した場所へと案内してもらう。

森は村から歩いて5分程度。景色もいいからか少し整備されていて、おそらく観光客用の散歩コースなのだろう。

確かにここで悪魔が出たというのなら村にとっては一大事だ。

そしていつもブリッケンさんが入っていく場所というところから森の中へと入っていく。

やはりというか当然か。大きな幹の木がうっそうと生い茂る森。

そしてここまでの道中で分かったことは、ブリッケンさんはお喋りということだ。


「でかいムカルイノシシを追いかけてたんだ。奴らは肉がとにかく柔らかくてな。

煮込めばトロットロになるし、焦げ目をつけて弱火で焼いてもうまいんだ。

だからつい森の奥まで追いかけちまった。そしたら悪魔よ。ガハハハハ!」


大きな声で豪快に笑う。

動物の知識や狩りのルール、武勇伝を語るブリッケンさんがズンズン進んでゆく。


言うまでもなく森は整備などされていないし、目立った目印もないので同じところをぐるぐるしている気分になる。

慣れない不安定な足場で私たちが四苦八苦している一方で、流石この森で狩りをしているブリッケンさんは飛び跳ねるように進んでゆく。


「俺ぁ捨てられ子でな。この森に捨てられたんだ。自分で必死に狩りをして生き延びてた。

物心ついた頃からの狩人。ここは俺の庭さ」

「すげぇなおっさん。身のこなしも全然老いを感じないぜ」

「よせやい。これでも全盛期はもっとすごかったんだぜ?」


照れながらも歩みを緩めない。ベルトルッチがゼェゼェと息を切らしながらなんとかついてくる。

話が一区切りついたところでジオが疑問をぶつける。


「これだけ深くまでくれば魔獣だって出てくると思うんだが。そんな軽装備で大丈夫なのか?

獣だけならそれで充分かもしれないが、魔獣であればそうもいかないだろ」


木々をなぎ倒しなら猛進してくる魔獣や鳥などの飛べる魔獣となると人間の足じゃ逃げるのは難しい。

確かにブリッケンさんの装備じゃ魔獣の攻撃は受け止めきれなさそうだ。

ガーディアンとして当然の疑問にブリッケンさんはニヤリと笑って話す。


「魔獣はこの森にはなぜか出ないんさ。よそからも寄り付かない。

硫黄の臭いが苦手なんだろうな。それに仮に襲われたとしても問題ない。

そん時は獲物を捨てて風下に逃げるさ」


魔獣がこの森にいないという言葉にみんな反応する。

これだけ条件が揃っているのに魔獣がいないというのはおかしい気がするが、実際ここまで出くわしていない。

硫黄の臭いは人間には意識しないと感知できないほどだが、魔獣にとっては忌避するような臭いなのだろうか。


「お前さんら幾つだ?」

「言う必要があるのか?」

「道すがらの雑談さ。そんな怖い目でみんなよ。ジオだっけ?人見知りか?」

「そんなツンケンするなよ、ジオ。自己紹介もちゃんとしてなかったしちょうどいいんじゃねぇか?

俺はベルトルッチ・マキャベリ。19歳だ」

「マオ・スティングレイって言いまーす!17歳でーす!」

「モニカです。16歳です」

「ジャック・ライボルト。16歳」

「………ジオ。17…」

「俺はホムラ・リベリオン。多分みんなと同じくらい」

「若ぇな!俺にとっちゃ孫くらいの年じゃねぇか。まぁ俺結婚してねぇから子すらいねぇけどな!ガハハハハ!」


豪快に笑う。


「俺も正確な歳分かんねぇけどな。教えてもらったことないし。ホムラ、年齢なんざ対して重要じゃねぇさ。俺が言うんだから間違いねぇよ」

「親の記憶とかないのか」

「あぁどうだろうな。うっすらとある気もするし、無い気もする」


ニッと白い歯を見せて笑う。そこには寂しさはなかった。


「物心ついた頃から孤独の狩人さ。食つなぐためにな」

「狩りはどこで習った?」

「ん?気付いた時には…弓を引いてた。本能ってやつなんじゃないか?」

「………」

「どうした?ジオ。もっと聞きたいことがあんなら何でも聞きな」

「いやもういい」


ジオは話を終わる。

その後は狩りの話や食べられる山菜などの話をしながら、ひたすらに同じ景色の中を進んでいく。

魔獣も悪魔も出てこない。

かすかな木漏れ日、心地よい気温。任務のことを忘れれば素晴らしいハイキングだっただろう。

視界が晴れる。木々の切れ目があった。ちょっとした草原で、真ん中には一段と大きく太い木が生えていた。


「この木も俺がこの森をさまよってた頃に目印にしていた木だ」


美しい自然に囲まれ平和な世界と夢想する。

だけどそんな思いも一瞬で壊されてしまう。

ブリッケンさんが手を向けて止まれの合図を出した。

空気が張り詰める。

ホムラとジオが剣に手を伸ばす。

ジャックは既に弓を構えていた。


「悪魔だ。俺が会ったのはもっと奥だったはずだが…」


ブリッケンさんの視線の先には、黒い靄をまとった人型の存在があった。

はっきりとした姿をうかがい知ることができないが、ソレは猫背で腕をだらんと垂らして徘徊している。

手はグレズリーのように鋭い爪になっている。

本能的にソレは悍ましい存在であると認識し、全身の毛が逆立つのが分かる。

黒い靄に包まれている状態はネームレス悪魔の中でも下位の存在。

『ネームレス・ミスト』

まだこの世界に受肉して間もなく、形が定まっていない。

この形態の悪魔は時間経過で霧散する。

しかし、人の魂を喰らうことで形が定まるとされており、人間を見つけると凄まじい勢いで襲ってくる。


「3体か…厄介だな」

「なんでだ?3体しかいないし、一番弱いんだろ?」

「いや、ミストは単体としての戦闘力は大したことはないが、仲間を呼ぶ可能性がある。

近くに他のミストないし悪魔がいたら戦闘音で集まってくる。だから時間をかけるだけ不利だ。

だから3体同時に一撃で倒さなきゃいけない」


ベルトルッチがホムラに解説する。


「おい爺さん。あんたが襲われたのはああいう奴等か?」

「……いや…あんな黒い靄はなかった」

「つーことはほかに悪魔がいる可能性か。マオ。ベル。いけるな?」

「おう」


チームシーガルがそれぞれ攻撃態勢に入る。

ジオが剣を抜き、マオは槍を構えた。ベルトルッチが掲げた両手の前にはそれぞれ怪しい光を放つ魔術陣が浮かぶ。

「いけ」とベルトルッチが囁くと同時に片方の魔法陣が強く光り、魔術が発動される。

その直後、ジオとマオがありえない瞬発力で飛び出した。さっき発動されたのは身体強化魔術。

一時的に肉体などの強化を行い、限界を超えた脚力や攻撃力、防御力を向上させる魔術だ。


魔術発動時の強い光でミスト1体がこちらに気付いた。が、次の瞬間には白い剣筋が悪魔を貫く。

マオは槍で地面を押し下げ宙を舞う。空中で体ごと回転し、遠心力を込めた一撃を見舞う。

強化されたジオとマオの圧倒的速度とパワーで悪魔の体は真っ二つだ。

ベルトルッチの残ったもう一つの魔法陣が光る。周辺の温度が下がり、彼の前には人の腕ほどの氷柱ができた。

それは視認不可の高速で放たれ、最後のミストの体に大穴を開ける。

一瞬で3体のミストは倒され、消滅した。


完璧な連携で3体を同時に倒し、これがチームなのだと教えてくれているようだった。

ジャックもホムラも何もできず、悔しそうに拳を強く握っていた。


「すげぇな。まだ若いのにこんなに強いんだ」


真剣な眼差しで先の戦闘を見ていたブリッケンさんも目を丸くして感心。

横から見てたから良く見えなかったけど、とてもうれしそうに口角を上げている。





数時間前、村長屋敷

ガーディアン一行が出て行った後、部屋に残った村長と重役たち。


「さすがにマズかったのでは?」

「何がだ」


村長にオドオドと聞く気の小さい村長補佐官。


「ガーディアンに対しての説明ですよ。あれでは納得いくわけがないでしょう」

「納得いかんでもよい。さっさと悪魔退治さえしてくれればな」

「左様。そもそもなぜあんなガキ共なのだ?紫くらい寄越してもよかろう」


紫とはクラスパープルのことを指す。

村長に同意するのは経理官


「金は惜しまないとは伝えたのだろう?ケルン治安保?」

「もちろんです。しかし返ってきたのは『青で十分』という言葉で…」


たっぷりと髭を蓄えた村長にギロリと睨まれ委縮する治安保安官。

腕のいい冒険者やガーディアンが多いという総合ギルド「パシフィック」に今回の依頼を出しに行った。


「冒険者の調査を行っていないからじゃないのか?」

「そういえば、冒険者の調査については何も言われませんでした」

「何?」


通常悪魔に関する依頼は間違いなく、危険性の確認で冒険者が調査に入り、それからガーディアンに依頼を分配する。

当然仕事にかかるまでに時間がかかる。

しかし今回は迅速に依頼が受理され、モニカたちガーディアンが派遣されてきた。


「まぁいいではないか。早いに越したことはなかろう?」


まぁな。とその場にいた全員がうなずく。

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