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第一章 覚醒編 チーム「シーガル」

―2週間後―

しばらく簡単な魔獣討伐の任務が続いた。

私も一人で難なく魔獣を倒せるように成長できているみたいだ。

ホムラは相変わらず記憶が戻らないし、魔法も使えないままだが、慣れて来たのかよく話すようになってきた。

そしてヒロ不在。

クラスレッドにしか任せられない任務により一週間ほど遠征。

その任務は危険すぎるということで私たちは同行できず、留守番ということになった。


私たちクラスイエローは監督者不在時には任務を受注することはできない。

なので暇になる。もしくは…


「おっは~!新人ちゃんたち元気ぃ~?」


突然後ろから頭と顔をわしゃわしゃと揉みくちゃにされる。

解放されて振り返ると、クラスブルー、チーム「シーガル」のリーダー・槍使い「マオ・スティングレイ」

元気ハツラツの姉御肌。一年先輩。年上からは可愛がられ、年下からは頼られる。コミュニケーション能力極振りの世話焼き。

身体能力が抜群に高く、「能力テスト」の運動部門ではギルド内でもトップ10に数えられるほどだ。

それの反動なのか魔法適正はギルド内でもかなり低く、簡単な魔法を低出力でしか出せないのが惜しいところ。


「よっ」


「シーガル」援護系魔術師「ベルトルッチ・マキャベリ」

死んだ魚の目をしていて、ローブで目立たないがひょろひょろ。

3年先輩で、最近までライトブルー。

任務消化に消極的だったこともあり、昇級できなかった。

それがマオの誘いで「シーガル」へ入ったことにより力を発揮し、頭角を現し始めた。

援護、遠距離攻撃系の魔法・魔術を主とし、後方支援に徹する。

見た目通り身体能力は下から数えた方が早い。

魔法適正が高いのはもちろんだけど、それに加えて魔術研究を積極的に行っている。

私自身もベルトルッチに教わることが多い。


「………フン…」


そして後ろに控える眼光鋭い剣士「ジオ」

いつもムスッとした感じで、私もあまり話したことがない。

ただその剣さばきは折り紙付きで、誰もが彼を指導するのはヒロだと疑わなかった。

が、実際にはヒロが彼の指導役になることはなかった。

その時はまだ指導役をやろうとしていなかったのだろう。

その後私とジャックが指名されたから面白くないのかもしれない。


そんな「シーガル」が私たちの所へ来た理由は簡単だ。


「ヒロにあんたたちの監督役を頼まれたの」


監督役がいない間、私たちクラスイエローは単独で任務に従事できないので、クラスブルー以上の監督代理が必要となる。

最近グリーンから昇格し、クラスブルーとなった彼らがヒロの代わりとして私たちと任務へ同行してくれる。

とはいってもやることはいつもと同じで、近隣の魔獣退治。


掲示板で依頼をみんなで確認していると、マオ先輩が顔を近づけてヒソヒソと話す。


「イエローが受注する任務は簡単すぎるからさ、私たちの任務…行っちゃわない?」


本来であればブルーが同行する場合であってもクラスグリーン以下のクエストしか受けてはならない。

そうするとせいぜいがちょっと強い魔獣の討伐くらいなもので、確かにホムラ、ジャックの実力からすると簡単なものだ。

とはいえ規定違反はまずいのではないだろうか。


「バレても失敗しなければ怒られないから大丈夫大丈夫!郊外の村でネームレスの悪魔が複数体報告されているの。その調査と可能なら悪魔の消滅。簡単でしょ?」

「いいねぇ!そろそろ上に行ってもいいんじゃねぇかって思ってたところだ!行こうぜ!」


嬉々として椅子から立ち上がり、拳を強く握るジャックは俄然乗り気である。


「悪魔ってなんだ?ネームレスって?」


ゴチン!


ホムラから発せられた言葉に力が抜け、ジャックがテーブルに頭をぶつける。


もちろんその場にいた全員が驚き、ホムラに好奇の目を向ける。

悪魔もネームレスも大人が子供たちに聞かせる物語に登場する、典型的な人間の脅威だ。

教育的な側面があり、誰でも知っているようなことのはずなんだけど、ホムラはそれを知らないという。

みんなが驚きのあまり言葉を失っていると、マオ先輩が語り始める。

幼いころに聞かされた物語。


―昔々、この世界には万の神々がいました。

 あまりにも多すぎる神様達。

 人々の信仰心が分散してしまい、それぞれの力は弱まってしまいました。

 そんななか、とある神様2人が喧嘩をしてしまいました。

 その喧嘩は次第に他の神様達を巻き込んでいき、そして2つの勢力に分かれてしまいました。

 神様たちの喧嘩はすさまじく、その力のぶつかり合いで天変地異の大災害が起こり、

 多くの人間が死んでしまいました。

 人間が減ったことで信仰による力はますます弱まってしまいました。

 さらに人間は神様達を恐れ、信仰心も弱くなっていきます。

 そこで片方の神様は考えました。

 『人々の信仰心の代わりに恐怖心を力に変えてしまおう』と。

 神様は自らを反転させ、恐怖心による力を得ました。

 その力は絶大で、一人でもう片方の勢力の神様達をどんどん殺していってしまいました。

 殺した神様の権能を奪い、どんどん強くなっていきます。

 しかしその神様は、人間たちにあまりに酷いことをしていて、

 人間は守らなければならないと考えた仲間だった神様達に裏切られました。

 人間を守った神様たちは人間たちからの信仰心で強くなります。

 反転した神様は不利になりました。

 そこで取り込んだ権能を分散させ、分身たちを作りました。

 その分身たちは権能を持たない分身をたくさん作りました。

 恐怖によって力を得た神様はもう神様ではなくなってしまいました。

 分身たちを悪魔と恐れ、神様は悪魔たちの祖『魔神』と呼ばれました。

 魔神はたくさんの権能を取り込んでいて、殺しても死なない不死身になっていました。

 それに対抗するために喧嘩を始めたもう片方の神様は、『魔神を殺せる権能』を何とかして得ました。

 そして神様達と魔神の軍団は世界の中心で戦争をしました。

 再び多くの神様が倒れ、大災害が起き、多くの犠牲が出ました。

 神様と魔神がぶつかります。

 世界の中心で。

 凄まじい力のぶつかり合いで、世界の中心は大きく凹みました。

 神様は魔神を、魔神は神様を殺しました。

 しかし魔神は死ぬ直前、自らの権能を世界のどこかに飛ばし、自分の代わりとなり人間を滅ぼす存在『魔王』を生み出しました。

 神様は最後の力を振り絞って、『魔王を殺せる権能』を飛ばしました。

 本当なら二番目に強い神様に与えるつもりつもりだったのですが、その神様は受け取る直前に悪魔に殺され、遠くに飛んで行ってしまいました。

 あろうことか人間がその権能を受け取ってしまったのです。

 権能を得た人間の右手の甲には印があり、魔王を倒すことができる唯一の存在となりました。―


「ま、こんなところかしらね!大雑把に言えば権能持ちがいわゆるネームドデビルで、権能を持たないのがネームレスデビルってわけ」


物語を聞けば悪魔の起源とその強さがおおよそわかるだろう。

神だった魔神は死に、その権能を受け継いだ魔王。

そして魔王が権能を与えた分身が、権能持ち『ネームドデビル』。

オリジナルよりは弱化しているにしても、神が持っていた権能を持っているのだから、ネームドデビルは万の神々1柱に匹敵するといっても過言ではない。

ネームドデビルはその名前に対する人間の恐怖心によってさらに力を増すとされてる。

さらにそれの分身がネームレスデビルなわけだ。権能もないし、ネームレスは恐怖心によって力が増したりはしない。

だが脅威でないかといえば全くそうではない。

分身元の悪魔によるが、平均的なネームレスで訓練された兵士でも2人がかりで互角といったところだ。

ちなみに訓練された兵士はガーディアンで言うところのクラスグリーン程度だろう。

彼らは私たちガーディアンや冒険者などのように、戦闘魔法・魔術を使った戦闘に慣れていない。

兵士は国に徴兵された者の集まり。とどのつまりは一般人に毛が生えた程度。

どんなに剣や槍の腕を磨いたとしても、魔法・魔術を併用できる者には勝てないだろう。


「その話だとネームレスの発生源にはネームドがいるんじゃないのか?」

「まぁ言い伝えというか物語だからね。実際は負のエネルギーが立ち込める場所だったり、地脈の漏れ付近に湧くの」


ネームドデビルからの分身ではないネームレスになるとさらに弱くなるわけだが、それでも兵士一人では太刀打ちできないほどだ。

だからこそ私たちガーディアンに討伐の依頼が来る。


そんなこんなで私たちはシーガルの先輩達に非公式的について行って、上位ランクの任務を体験してみることになった。

ジャックはもちろん、ホムラもワクワクしたように目を輝かせている。

私は正直以前グレズリー相手に何もできなかったので、ネームレスとはいえ悪魔を相手にできるのか不安だ。


「そうと決まれば今日の夕方シュッパーツ!!任務の前に村の温泉で一泊よ!!」


…そっちがメインの目的なんじゃ?




目的地の村はミレニアムから近いので、簡単な準備で済ませ出発する。

誰も車を持っていないので、村に向かう交易トラックに乗せてもらう。

普及はしているもののやはり高価で、私たちくらいのクラスじゃとても買えないし、運転できない。

荷台はガタガタと揺れ、乗り心地は最悪だけど、みんなではしゃぎながら乗ればとても楽しい。


「ホムラ君ってどんな戦い方なの?」

「剣と…炎を使った魔法…のはず…」

「随分と年季の入った剣だな。形見とかか?」

「…わからない。目覚める前のことは何も覚えていない」


マオとベル(ベルトルッチのニックネーム)が新入りであるホムラに疑問をぶつけ、質問攻めにしている。

ずっと遠くを見て、微動だにしなかったジオがホムラの発言に疑問を持ち、話に入ってくる。


「剣と炎系魔法の『はず』ってなんだ?自分の力すら忘れたのか?」

「…今までどうやって戦ってきたのか、わからないんだ。

 だから今まで剣だけで魔獣を倒してた」

「おいマオ。コイツ連れてくるのはまずかったんじゃないか?」

「ダイジョブダイジョブ!私たちがフォローすれば万事okっしょ!!!」


マオは飛び切りの笑顔で拳を前に出し、親指を立てる。

こういう向こう見ずな性格がこの人の長所であり短所でもある。

思い返せばホムラはチームに入ってから魔法を使っていない。

使い方すら忘れてしまっているのだろうか。

私たちは今回の任務がきっかけでホムラが本調子に戻ればいいねなどと呑気に話していた。





日も暮れるころ村に到着。

道中楽しかったとはいえ体がバキバキだ。

天然の温泉が湧くこの村の名前は「ルゥマ」

とても貴重な観光資源を持った村で、他の村に比べ豊かに見える。

実際住民の規模こそ村に相応しいが、パッと見ると道は舗装され、レンガや石造りの建物が並ぶ、小さいが活気のある立派な町だ。


宿泊のための宿が乱立していて、多様な層が観光に来る。

ミレニアムからなら日帰りで来れるし、王都からもそこまで遠くはない。


村も奥まったところ。大きくはないが他の宿に比べ、一段と立派な石造りの建物が今回の宿「ロイヤル・エメラルド・スプリング」

名前にもある通り、先代の王までは数年に一度湯治に来るほどの高級宿だ。

といっても私たちにあてがわれる部屋は「ロイヤル」ではなく普通の大部屋で、今回任務を受けたことによってタダで泊まれる。


悪魔が出たとなれば、わざわざ悪魔のいる村で温泉。などという人間はいない。

そうなれば主な収入源が断たれるという大事だ。

だから今回は村を上げてガーディアンをもてなそうという接待である。大部屋だが。

敷地に入るとスタッフが中から現れ、少ないが私たちの荷物を持ち部屋へ案内してくれた。大部屋だが。

何かの天然石に鮮やかな赤色のじゅうたんが敷かれ、天井には大きなシャンデリアが等間隔に吊り下げられている。

最後に案内されたのは長いテーブルの置かれた奥行きのある広い部屋。

テーブルにはすでに人数分の料理が置かれ、ディナータイムとなった。

飼育されたイノシシのステーキ。川魚のソテー。炒めた野菜をタレと和えた村の郷土料理。食後のデザートと豪勢なディナーだった。大部屋だが。

本来なら目が飛び出るほどの請求が来るであろう接待を受けてみんなご満悦だ。大部屋だが。


そしていよいよ温泉へ!

脱衣所に入るとそこは宮殿かと思うほどの豪華絢爛。

名前は知らないがなんかすごい綺麗な石で造られ、随所に金の装飾が施されている。

ここは確かに「ロイヤル」だ。

するとメイドのような人たち数人が入ってきた。

何事かと思っていたら。


「失礼いたします」

「わっ!ちょっ!」


いきなり服を脱がせてきた。突然であまりにもな状況にビックリして飛び退いてしまった。

付き人として脱衣、洗体、マッサージまでやると言い出したのだ。

流石に恥ずかしすぎるので断った。マオはおなかを抱えて笑っていた。


用意されていたタオルは流石高級宿らしく、フワッフワで肌触りが凄くいい。


「いやぁ。女の子同士とはいえ恥ずかしいわね」


そう恥ずかしそうに笑うマオ。ツヤのあるショートヘアーに、引き締まった体。

それでいてゴツくなく、ハリのある健康的な肌に、形も大きさも良い胸。

私は同性に対して初めてこう思った。

(エッチだ…)


浴場へと向かう。

そこにはエメラルドグリーンの湯が張られた石造りの露天風呂。

空には美しい星空が広がっていた。

星空を楽しむためなのか浴場には数本のろうそくの光しかなく、暗かった。


「ねぇ。モニカはなんでガーディアンになったの?」


マオが夜空を見上げながらつぶやくように聞く。

すぐに答えようとした。が、前にヒロに言われたことが頭をよぎり、言葉を詰まらせた。


「あなたの魔法も魔術も確かにすごい。でもそれなら『グリーンワッペン』で救護班にでもなれたじゃない?

なぜあえて危険なガーディアンを選んだのかなって」


グリーンワッペンは医療に特化した魔法使いや魔術師で構成された職業で、危険な任務に向かうガーディアンに同行したり、

一般の人々の治療や医学研究なんかをやっている。

確かに私ならグリーンワッペンで十分な働きもできたかもしれないし、多少の危険はあるがガーディアンよりは安全だ。

人を助けたいならそっちでもいいはずだ。でも私はバスターズを選んだ。

私の中の「助ける」が何なのか。言葉にできず詰まる。 


「私はね。小さいころ一緒に遊んでた友達が悪魔に殺されたの。目の前で。

その時私は何もできなかった。息を殺して隠れることしかできなかった。見殺しにしたの。

その贖罪というのはちょっと違うかもだけど、『きっかけ』はそれ。ありがちだけどねぇ~」


身近な人を悪魔や魔物に殺された人が復讐のため、同じ境遇の人を増やさないためにバスターズになるのは珍しくないし、むしろ多い。

でも、みんなそうだからと言ってその人の悲しみや苦しみが緩和されるわけではない。

それぞれがそれぞれの怒り、苦しみ、悲しみを背負っている。

マオは軽く話しているが、声は少し震えていた。それは悲しみだろうか、怒りだろうか、恐怖だろうか。

私には察することもできない。

私の『きっかけ』は何だったのだろうか。

親の顔が浮かぶ。私の両親は健在だ。

ただ、過保護ともいえるような環境に嫌気がした。

退屈だったのだろうか。

それでなぜ危険なバスターズだったのかはわからないが、『きっかけ』は確かにそれだったのかもしれない。


「私は…うるさいほど過保護な親への反抗心からかな…」

「何それ!?反抗期でグレてバスターズなの?アハハハハハ!!」


人を助ける仕事はいっぱいある。医者を目指しても良かった。

でもそうしなかった。間違いなくそこの判断が私の人生を大きく分けたのは間違いない。

気持ちよく笑うマオにつられて私も笑う。


心地よい風が吹き抜ける。

湯けむりが飛ばされ、浴場全体の視界が晴れる。

私たちから離れたところに4つの人影が。


「お嬢さん方、そろそろ上がりたいのだが。よろしいか?」


次の瞬間桶が宙を舞い、人影に直撃し鈍い音を立てる。





湯から上がり、部屋へ。

空気は地獄だ。

ボコボコにされた男が4人と、か弱い乙女が2人同じ部屋。

それぞれ離れたソファで座って言葉は交わされない。

張り詰めた空気に我慢できなくなったのか、言葉が発せられる。


「申し開きの場を開かせていただきたい」


顔に痣を作ったベルトルッチが床に座って言う。


「あそこは混浴であり、我々は君たちよりも先に入っていた。

 そこへ君たちが入ってきてしまい、話の話題的に言おうにも言い出せず、あのタイミングになってしまった。

 このことから我々男子は悪くありません!!!!」

「で?感想は?」

「眼福でございました」


マオの蹴りがベルトルッチの顔面に入った。

ベルトルッチは部屋の床に倒れる。

マオが他の男子に向き直ると、男子たちは顔をわざとらしく逸らす。

彼女はニコニコしながら言う。


「あら大変。皆さんお顔が腫れていらっしゃいますわ」

「誰のせいだと…」

「モニカ。冷やして差し上げて」


急に上品な物言いになり不気味だ…

マオの言いたいことを察して私は魔法を発動させる。

―フリーズ―

男子たちの顔を急冷してやる。


高級な宿に男子たちの阿鼻叫喚が響き渡った。

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