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第一章 覚醒編 魔法と蒸気の世界

ここはリ・ビルドー王国、王都ヴィッツィの衛星都市

蒸気の街ベン=ドレー


魔術の発展により目覚ましい発展をした蒸気機関。

この町では王都で使用する蒸気・電気の生成と工業全般を担っている。

町中には高圧蒸気の配管が張り巡らされ、漏れる水蒸気で蒸し暑い。

工業都市ということもあって、人が多く町は活気があり賑やかだ。


私は「モニカ・キュレイ・グレイスロード」

人間と敵対する魔族、唖人などの勢力と戦い、人間の平和と繁栄に寄与する「ガーディアン」の一人で魔法、魔術を扱う魔術師。

とはいっても4か月前に入ったばかりの新入り。


「アッちぃーなクソ…蒸し焼きだぜ…」


皮鎧の上に金属のチェストプレート。

簡潔で動きやすさを重視した鎧に、肩から斜めに手製の弓をかけ、今にもゆであがりそうな彼は「ジャック・ライボルト」

背は私よりも少し高いくらいで体格も特別いいわけではない。彼曰く、成長期に筋肉つけすぎると背が伸びなくなる。らしい。

爽やかに短髪を上げた容姿は好青年のようだが、常にピリピリしているような感じで口が悪い。パートナーというべきか、同期?

私たち「ガーディアン」はいわゆるパーティーを組んで任務にあたるわけだけど、私たちはまだ実習訓練を受ける訓練生扱い。

正式なパーティではない。

そんな私たちはこの入り組んだ高湿度の熱気地獄で人探しをしている。任務とは全く関係なく。


何度目となるかわからないやり取りがまた始まる。


「教え子を慣れない土地において行くか?フツー?」

「あんたが田舎者丸出しであちこち行くからでしょ!」

「あぁん?モニカだってアクセサリーショップで目キラキラさせてただろうが!」

「うっさいわね!私はヒロについて行ってたの!あんたがはぐれて探しに行ったら今度はヒロとはぐれちゃったのよ! 見つかったら謝んなさいよ」

「嫌だね。俺は謝らねぇし一発殴らねぇと気が収まんねぇ」


舌を出し馬鹿にしたようにジャックが私を挑発する。

イラッっと来たが堪える。ここで爆発させても熱いだけだ。


湿気と暑さ、汗でシャツがベタつく。


石詰めの道を蒸気車のトラックが忙しなく往来する中、かれこれ30分は歩いてる。

イラつくのも分かるけどさ…

私たちの間の空気は最悪。

訓練生時のパーティでその後のパーティを組むことがほとんどだけど、私たちはこのまま続けられるんだろうか。


「おう。誰を殴るって?」

「!!!?」


突然頭を鷲掴みにされ心臓が飛び出そうになる。

低く野太い声。優しくも呆れたようにため息交じりの声だ。

振り向くと無骨な生体鎧に身を包み、背中に大剣、両腰にはそれぞれ剣を挿し、後ろにダガーを備えたガタイのいい男。

ひょっとすると大道芸人か武器商人にでも見えるのかもしれないいで立ちだ。

しかしその使い古された鞘や傷だらけの鎧を見れば、だれが見ても歴戦の戦士だと理解する。

背は特別高くないが、それでも私たちより高く屈強。あごをぐるっと囲むひげを生やした、黒髪の男。

このおじさんこそ私たちの探し人であり、訓練生指導役の「ヒロ」だ。


「お前らなぁ。はぐれたらその場からウロチョロするな。探せなくなる」


呆れたように言う。正論ど真ん中である。

はぐれた場所から私たちが下手に離れたせいで余計に時間がかかってしまった。


「ヒロがどんどん先行っちまうからはぐれたんだろうが!」


ジャックが食い付く。

それはそう。私たちとはぐれたことに気づかずにズンズン進んで行ったというのもまた事実だ。

監督不行き届きというやつだ。


「任務があんのに店に気を取られてるからだろう」


あっはい…すみませんでした。


私たちは任務で必要な手続きを済ませるためこの町へ立ち寄り、これから向かうところだった。

なかなか来ることのない町に舞い上がってしまい、つい寄り道をしてしまったのだ。

その結果私たちははぐれてしまい、30分ほど彷徨う羽目に…

説教も早々に私たちは町はずれの駐車場へと向かう。大きい車から小さい車まで複数台が停まっている。

おおよそが蒸気によって走る「蒸気車」

蒸気機関を積んだ汽車とは違い、超高圧に凝縮された蒸気タンクからの蒸気で走る。

タンクの中が減るとパワーが落ちるので、予備タンクとこまめな補充が必要なんだとか。


塗装された木材がボディの車が多い中、金属を磨いただけの無骨な外装のオープンカー。

ヒロの所有する車だ。

他の「蒸気車」とは違い、「魔導車」と呼ばれる種類の車で、操縦者の魔力を使って走る。

詳しい仕組みはよくわからなかったが、エンジンのシリンダとピストンにそれぞれ『爆裂』の魔法陣が不完全な状態で刻まれており、二つが重なった瞬間にそれが発動する。

するとピストンは押し戻され、また戻り爆裂。これを繰り返して上下運動を行う。

シリンダーの数が…とか嬉々として語るヒロの顔は、おもちゃを自慢する子供そのものだった。


この人の年齢を知らないけど、結構いい歳のはずだ。

しかし精神年齢は私たちに近いのかもしれない。(もしかして下…?まさか)


ドルルォンン!!!ドドドドドド


豪快な音ともに車が脈動する。馬のいななきのように自分の調子を主張するがごとく唸る。

ギアを入れクラッチをゆっくり繋げると、鉄の馬は子気味いい音ともに走り出す。


走り出したオープンカー。

蒸し暑さも風があれば多少はマシになるもんだなぁ。

まぁそれでもまだ暑いけど…


チェストプレートを脱ぎ捨て、パタパタと仰ぐジャックが悪態をつく。


「どうせすぐ出ていくならこんなくそアツい街なんか来なくても手続きできるようにシステム組んでくれよ。創設メンバー様よぉ」

「俺に言われてもなぁ。そこら辺の整備はベネットとスワンの担当だ。文句があるならアイツらに直接言いな」

「…あいつらとはあんまり関わりたくねぇ…」

「ハッハッハ!そう言ってやんなよ。まぁ俺も手続きの面倒加減に関しては同意見だからな。俺からも言っといてやる」


私たちが所属するギルドは30年弱の歴史がある。他ギルドと比べて長くはない。

むしろ歴史が浅いくらいだろうが、規模は王国トップクラスだ。

そんなギルド創設メンバーは5人。

その中の一人としてヒロは「ガーディアン」の基礎を作り、現在に至るまで牽引し続けてきたすごい人。

ほかの創設メンバーも一人を除き、現在それぞれの担当部門の責任者として健在である。

その中の二人が今話に出た「ベネット」こと「ベネディクト・スロイアノフ」と、「スワン」こと「スワディーテ・ホワイトレイク」だ。

彼らの話はそのうちすることになるだろうから今は流そう。


私たちの乗った車は道端で荷物の積み下ろしをしてる蒸気車のトラックをよけながら整備された道路を走る。

蒸気車はパワーがあって重いものを運搬するトラックなどによくみられる。

その代わり速度はあまり出せない。

蒸気機関車とは違い、炉は搭載されておらず、代わりに魔術で超圧縮した蒸気が内包されている「超高圧蒸気タンク」というものを積んでいる。

そのタンクから蒸気が放出され、エンジンを動かす。

この蒸気タンクが発明されたことによって、蒸気機関の大幅な小型化に成功し、トラックなどによる物流の活発化と、産業の発展に大きく貢献しているのだとか。


大通へ出て進んでゆくと、石造りの立派な門があり、検閲などを行っている憲兵騎士団に通行証を見せ門を通過する。

憲兵がヒロだと知ると驚き、慌てて背筋を伸ばし敬礼なんかをしてる。

ガーディアンに所属する人たちは、戦闘の力的には王国騎士と同等あるいは上とされていて、王国内でも有力な組織だ。

ヒロは笑いながらそれを止めさせ、モリス・ベン・ドレイを背中に街道を進んでいく。


衛星都市モリスを出ると、さっきまでのまとわりつくような熱気とは打って変わって、爽やかな風が屋根のないキャビンを通り抜ける。

道の右には広く広がる草原。馬の群れが颯爽と駆け抜けていて、その奥に遠くに王都ヴィッツの城もあった。

壮大な草原と気持ちのいい風にあたり、ピクニック日和だったなぁと少し考えたりしてみる。


そんな美しい景色の反対側は木々が生い茂り、奥に行けば行くほど日の光が届かない暗闇。

「魔獣の森」と呼ばれるこの森は、その名の通り魔獣が住み着いていて、今回の私たちの仕事場だ。


なぜ住処となりうる場所を残しているのか。それは人間がそれらをコントロールするため。

あえて魔獣の住みやすい環境を与えることで、そこに住み着き居座る。

さまよう魔獣をそこにとどめることで、周辺の村の被害を抑える目的があるのだ。

とはいえ奴らも獣なので増える。増えすぎれば森は溢れ、入りきらない魔獣たちが出てきてしまうので定期的に討伐する必要がある。

そこで私たち「ガーディアン」の出番というわけだ。


もっとも、この仕事は「ガーディアン」の仕事の中でも一番簡単なもので、いわゆる新人の訓練、指導のために行われるものだ。

コントロールされた環境での実戦形式の実地演習。教育環境としては抜群であるのだろう。


私は3か月ぶり二回目。前回はガーディアン入りたてで、まともに戦えるだけの魔法も魔術も使えなかった。

そのせいで気が付いた時にはイノシシ型の小型魔獣に囲まれ、ボロボロにされた。

その時の雪辱を晴らすべく、この3か月の訓練の成果を試す。3か月前とは明らかに使える魔法・魔術は増えているし、威力だってそれなりに上がっているはずだ。

今はそれらを実践で試せるという好奇心などで不安より高揚感が勝っている。

とはいえ心配事がないわけではない。実はこの森、本来の討伐周期よりも少し遅れている。

つまり魔獣が多い、もしくは強力な個体が育ってしまっているかもしれない。

本当に危険なときは指導員であるヒロが援護してくれるので、あんまり不安がることではないけど。

前回の失敗を思い出し、今回は失敗しないよう何回もイメージトレーニングを行う。

その時だった。


ギャアギャアギャアギャア


森の木々がざわめきだし、鳥たちが一斉に飛び立つ。

どこか不気味な様相の森に不吉な予感を感じ、全身に鳥肌が立つのを感じる。

それは他の二人も一緒の空気を感じたようで、先ほどまでのピクニック的な雰囲気は消えていた。

ヒロは路肩に車を停め、いぶかしげに森を睨む。

森の木が揺れる。風によるものではなさそうだ。


「浅いな」


ジャックが短くつぶやく。

「魔獣の森」とはいえ、魔獣が外へ簡単に出るようなことがないよう、魔術陣が張り巡らされている。

魔術陣の内側を「深部」、外側を「浅部」と呼んでいる。

森の「浅い」ところに魔獣がいるということは、やってきたばかりの魔獣が浅部でウロウロしているのか、何らかの要因で魔術陣が破壊され、深部から魔獣があふれ出しているのか。

後者であれば近くの村、町、牧場に多大な被害をもたらす恐れのある大問題だ。

それらを瞬時に判断しヒロが指示を出す。


「予定変更。魔術陣の調査を行う。浅部に魔獣がいた場合は討伐。状況次第では撤退、応援の要請を行う」

「「了解!!」」


同意するが早いか行動するが早いか。ジャックが車から飛び出し、木に上り周辺の状況確認。

ヒロは装備を整え、森の中へ入っていく。私もヒロに続いて森の中へと入る。

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