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異世界サラリーマン   作者: 流川 紅葉
1/1

〜最強勇者、異世界に来たら社畜で草〜

第1話「勇者、入社前日」


どうやら俺は、「異世界」に来てしまったらしい。


「"異世界転生"に"異世界転移"…噂には聞いたことがあったがまさか本当にこんなことがあるとはな...。」

目が覚めてからの一言目だった。


ベットの上で上体を軽く起こす。

視線の先にはカレンダー。

3月と4月がひとつのページになっているタイプだ。

4月1日に赤のマジックで丸がつけられ「入社日」と書かれてある。


そしてふと気づく


「MPを感じない...魔法やスキルは到底使えそうにないな。かろうじてMPを使わない言語解読のスキルが使える程度か...。」

カレンダーの初めて見る文字を読み取れたことからそう推察した。


「これはきっと相当レベルの高いバインドスキルか呪いの類だな。

これまでもどちらも喰らうような戦いはあったけどここまでどうしようもない感じは初めてだな...敵は相当厄介な術師みたいだな。」



ここまでの数々のファンタジーな言語のオンパレードを見ればお気づきの方もいるだろう。


彼は異世界にて「七大魔王」を倒し、世界を窮地から救った最強の勇者張本人。

勇者「リーフ」その人であった。


どうやら彼は「異世界"から我々のよく知る現代の日本へ」来てしまったらしい。



*****



俺の名前は「社 千草(やしろちくさ)」と言うらしい。


郵便受けにたくさん溜まっていた書類の宛名からそう認識した。


その書類の中には気になる物が1つあった。


「入社式の案内?」


入社という言葉の意味はよくわかっていないがその言葉を目にするのはこちらの世界に来てからの短い時間で2度目だった。

目覚めた時一番最初に視界に入ったカレンダーだ。

もしやこの「入社」とやらがこの異世界転生の鍵を握るワードでは無いのかと直感した。


「暦の概念やカレンダーはあっちの世界にもあったからな。法則性の多少の違いはあれどカレンダーだってことはわかったぞ」


「問題は...一体今日はいつなんだーーー!!」


そうなのである。

このカレンダーのどの日付が今日この日を表すのかがわからないと4/1の「入社」とやらにたどり着けない。


思わず叫んでしまってから数秒の沈黙の後


「本日は3月31日です。」

と壁にかけてあった平べったい球体...そうスマートスピーカーである。

そこから流れてきた音声だった。


「誰だ!!??」

驚きを隠せず咄嗟に身構え、叫んでしまった。


「私の名前は"エリクサー"です。わからないことがあったらなんでも聞いてください。」


敵意は感じない。

声色からして女性のようだ。

会話のテンポに違和感は感じるものの危害を加えてくるようなものではないようだ。

ゆっくり警戒を解く。

同居人だったのか?

探りも含めて言葉をかけてみることにする。


「ごめんね、エリクサーさん。突拍子もない話だけど、同居人には話しておく必要がありそうだな。

実は俺、目が覚めてから昨日までの記憶がないんだ...だからちょっと混乱しててさ

心配はしなくてもいい、きっとすぐ戻るものだから!」


「すみません、よくわかりませんでした。」


「そうだよな...いきなりこんな話受け入れられないのも無理もない...ところで話は変わるけど今日は3月31日って言ってたよな?」


「はい、今日は3月31日。天気は晴れ。最高気温は13℃となります。」


「情報量が多いな、、、ゆっくり色々教えてくれると助かるよ。エリクサーさん。」


エリクサーさんは博識だった。

その後俺はこの国が日本という島国だと言うことだったり1日が24時間であることだったり1週間が日曜日から土曜日の7つの曜日からなっていることだったりそういったレベルのこの世界の常識について多少の質問をして教わった。


「助かったよエリクサーさん!君は良いやつだな。いつかお礼をさせてくれ。」


「お礼なんてとんでもございません。」


同居人は博識な上にとても謙虚な方らしい。


機械仕掛けの肉体に人間に友好的な辺り、半機械のヒューマノイド族の類だろうか?

博識で小さく可愛らしいフォルムあたりはエルフ族にも通ずるものがある


「エリクサーさん。最後にひとついいか?入社ってなんだか知ってるか?」

一番気になっていたことを聞いてみることにした。


「"入社"とは"会社に就職すること"です。」


会社、就職、また意味の分からないワードが次々と飛んでくる。

もちろんそこもエリクサー先生に懇切丁寧に教えていただいた。


「なるほどな!冒険者ギルドとの契約みたいなものか!!懐かしいなあ〜。

この世界だと俺も初級冒険者扱いってことなのか。」


勇者育成学校、勇者学院と優秀成績を収め、飛び級を繰り返し、15歳で卒業してからずっと冒険者をしていたもので現在22歳になる俺にとっては非常に懐かしいものである。


「てか、入社明日じゃねえか!!!!」

急展開に気付くと俺は思わずツッコミを入れてしまった。


テーブルに置いた入社式の案内を手に取る。

「とにかく、この入社式ってのは何か入社に関わる儀式でこれは文字通りその案内。大事な情報が書かれてそうだからちゃんと目を通しておこう。」



*****



ひとつ気になることがある。


これが異世界転生だとしたら俺はなぜ、何があって向こうの世界で死んだのだろう?

実は転生とは言っても俺には向こうで死んだ記憶がないのだ。

本当に目が覚めたら社 千草という男になっていた感じだ。

というか向こうで眠りについた記憶もないのだが。

となると、異世界転移...こちらの世界にいつの間にか迷い込んでしまっていたのだろうか?

別の人物に成り代わってるあたりは転生っぽいなとは思うのだが...


ぐぅ〜っと間抜けな音が自分の腹部から聴こえる。


「そういえばお腹減ったな...。」


それもそのはず

千草が起きたのは朝8時。

時計は正午過ぎを指している。

もちろんこちらの世界に来てからは何も口にはしていない。


「外は見に行っておきたかったし丁度いいな。何か食糧を調達がてら外を歩いてみるか。」


アパートのドアを開け、階段を降りる。

どうやらこの集合住宅の2階の203号室が俺の部屋らしい。

他の部屋には他の名前が表札に書いてあったのを見て向こうの世界で千草もとい勇者リーフが暮らしてた農村ではしばしば見かけた長屋みたいなものであることを察した。

農村の長屋に比べて作りはとても綺麗だが。


向こうの世界を救ってから2年、友人であり旅の相棒だったシンドバットの勧めで俺は王都からは離れたのどかな農村フォータムに家を買い暮らしていた。

冒険者ギルドなどはなく、農民ばかりの集落だったが数多のクエストをこなしてきた俺には充分な貯蓄があったので生活には困らなかった。

むしろ激しい戦いで心身共に疲弊してた俺には悠々自適な生活と言えた。


そんな田舎に慣れてきてた俺の目に映るのは衝撃の光景だった。


「すごいな...道がどこまでも舗装されてる。まるで街一面道は石で舗装されていた王都を思い出すな。ここはきっと日本という国の主要都市なんだな。」


もちろんそんなことはなくここは関東の中でも北の方の田舎であるが、千草にとってはそう思えるような光景だったようだ。


と、唖然としている千草の後ろから真横を一台のコンパクトカーが通り過ぎる。


「...え!?今、凄いスピードで馬車が馬なしで走ってなかったか!?そんなんもう(しゃ)じゃないか!!!」


図らずともおおよそその通りである。


「すごいな、帰ったらエリクサー先生にまた色々教えを乞わないとな。」


やはり外に出たのは正解だったようだ。

エリクサーさんはなんでも聞いてくれと言っていたがやはり疑問というのは実際にわからないものを見た時に思い浮かぶものだ。

例えば魔法だって習得するには魔導書を読み、詠唱を覚えるだけでなく一度実際に魔法を見なければ習得できなかったものだったなとふと思った。食らった魔法なんてより覚えやすいものだった。

昔話はさておき、とにかく自室の外の世界は刺激で溢れていた。


少し大きな通りに出るとまた景色が変わる。

横断歩道に信号、標識や表示、車道歩道も分離されており、車が何台か走っている。


「さっきの馬なし馬車がこんなに!!すれ違った時はあのスピードでぶつかったりしたらどうしようと心配したけど道に書かれた線とかで走行する場所を区分けしてるみたいだな。交通面は王都より優れてるぞ...」


王都の交通手段といえば専ら馬や飼い慣らされたモンスターが引く馬車かガタイのいい兄ちゃんが引く人力車であった。

前者は主に長距離や荷物の運搬に、後者は人を載せての軽い移動に使われていた。


しかし、参ったな。

ここまでしっかり整備されていると何かルールやら法則性がありそうだ。現に、目の前の車たちは一斉に進んだり一斉に止まったりを繰り返している。


「こりゃ、一回帰ってエリクサー先生の厄介になるしかないか?」


ぼーっと眺めながらそう小さく溢すと


「あの〜、、、」


横から自分に話しかけているであろう声が聞こえた。

目線を横に移す。

気付かぬうちに横に居た彼女は背丈は小さく、黒く綺麗な髪はボブとミディアムの中間のような長さ、吸い込まれそうなクリクリした瞳が印象的なかわいらしい少女だった。


「もしかして、迷子ですか?あ、でも大人だから迷大人???エヘヘ

何か困ってそうだったんでつい、、、」

愛嬌溢れる表情で彼女は続ける。


実際、困っていた。

それでいて歩道の真ん中で立ち尽くす男は少女のクリクリした瞳にはそう映ったのだろう。


「お腹が減ってて、何かを調達しに行きたかったんだがこの辺の地理がさっぱりで困ってたんだ。」

半分嘘のような返しに少しの罪悪感を覚えながら答える。


「もしかして最近この辺に越してきたとかですか?」


「まあ、そんなところだな。」

ハッキリと答えてみたがそもそも一体今の俺の状況はどんなところなのかも怪しい。


「ほぇ〜!なんだか日本人離れした雰囲気があるけどもしかして帰国子女とか!?」


「まあ、そんなところだな。」

だから一体どんなところだ。


どうやら別の世界から来た俺はこの国日本の人と少し雰囲気が違うように見えるらしい。

適当なこと答えてヤバいやつだと思われたらまずいな...ここからは慎重に答えよう。


「ま、私帰国子女の意味よくわかってないんですけどね...エヘヘ

なんか響きがかっこいいですよね!」


どうやら先程の回答への心配は無用だったようだ。


彼女はそう言うとこう続けた

「私、昔からこの辺に住んでるのでこの辺詳しいんですよ!!最寄りのコンビニとか知ってると便利ですよ〜

私でよかったら案内しましょうか?」


いちいち彼女の朗らかな表情には毒気を抜かれる。

きっとそのコンビニとやらが食糧調達できる場所なのだろう。


「ああ、助かるよ。よろしく頼む。」

素直に厄介になることにしてそう言うと


「お任せあれぇ!」

どこか得意げに彼女はそう答えた。


俺はどこか楽しそうに『こっちですよ〜!』とパタパタ先を歩く彼女について行くことにした。



*****



コンビニに着いてからは驚きの連続だった。

用途はわからないものが多かったが、まさに何でも屋といった感じ。

食糧に関しては向こうの世界と比べて呼び方など多少の違いはあれど、食の文化自体にそこまで違いがあるようには感じなかった。

強いて言うなら恐ろしく綺麗に形が整えられた出来合いのおにぎりやパンが綺麗に梱包されたものがずらーっと陳列されている様には度肝を抜かれた。


向こうの世界での食生活はクエスト中は狩りだったり農作での自給自足か料理自慢が集うギルドの食堂がメインだったのでなんというかとにかくワイルドなものが多かった。

造形美なんて二の次で冒険者たちの活力のために量産されたものまたは不恰好な手作り料理が関の山だ。


気づいたらおにぎりコーナーで目を輝かせながら居座ってしまっていたようで


「おにぎり好きなんですか?私のオススメはコチラですよぉ〜!」

おかかと書かれたおにぎりを手に取りこちらに差し出してくる。


ふと、差し出されたおかかのおにぎりのある表記に目がいく。

「130円...ってのはなんだ?スタミナかMPの回復値のことか??」

向こうの世界の食事は主にMPやスタミナ回復のための手段でもある。スタミナやMPの回復値がメニューに表記されていることはよくある。


「すたみな??えむぴー?」

分かりやすく頭上にはてなマークを浮かべた彼女が首を傾げた。


彼女の反応にとある予感がよぎる。


「私、おバカなんで英語は全然出来ないからよくわからないけど!いっぱい食べてスタミナつけたいってことですね!わっかりましたぁ!」


そう放つと彼女はカゴを持ってあっという間に店の別の商品棚の方へパタパタと駆け寄り、何かを取っては何故か得意げな表情で戻ってきた。


「うきちゃんセレクションです!どれも美味しいんですよぉ」

満面の笑みでさまざまな食料品が入ったカゴを差し出してくる。

予想外の動きに戸惑ったがこれだけあれば夕食の分も賄えそうだ。


「あ!ちなみに130円ってのは価格のことですよ!!そういえば日本円ちゃんと持ってます??」

慌てた表情でふと思い出したかのように彼女はそう続けた。


「大丈夫、ちゃんと持ってるよ」


そこら辺は抜かりない。

出かける前にエリクサー先生の入れ知恵で財布というものを用意し、持ってきていた。中身には金貨や銀貨、銅貨によく似た貨幣が入っていたのですぐこれが財布だと認識できた。

しかし、元の世界では基本巾着袋に貨幣をそのまま突っ込んで持ち歩くスタイルが主流だったので黒い長財布を見てこの世界の人たちは随分と洒落たものを使うんだなと感心した。


「よし、会計を済ますか」


少女に案内され、レジへと足を進める。



「足りません」



「「え」」

2人の声が重なる。


「えええええまって!950円も持ってないんですか!!!もしかしてキャッシュレス派!?カード派!?」

彼女が耳に馴染みのないワードを次々と羅列する。


「よく分からないけど、これしかないな。」

財布の中身を開いて見せる。


「なんだ!千円札あるじゃないですかぁ!!びっくりビンボーさんかと思いましたよ!!」

彼女はほっとしたように言う。


(まさか財布に入っていた精巧に人物の肖像画が描かれている紙切れも通貨だったとは...)

紙幣というものが存在しない世界で暮らしていた千草にとってその発想はなかったようだ。


しかしうっかりしていた。

あまりにも財布の中に入っていた少し大きめの金色の貨幣、銀色の控え目の大きさの貨幣、銅色の貨幣が向こうの世界と酷似してるもんだから確認もせずに勝手に価値も同じようなもんだと思い込んでしまっていた。


無事、買ったものの入ったビニール袋とお釣りを受け取る。


「穴が空いてるけど大丈夫か?」

お釣りの50円玉を手に取りつぶやくと


「ちょいちょい思ってたけど中々ギャグセンが高いですよねえお兄さん...」

と苦笑いを浮かべた彼女から謎の返しをくらう。

俺にとっては見慣れないものだが大丈夫と言うことだろう。


(これは帰ったらこの世界の通貨の価値についても勉強する必要があるな...)

心の中でそっと今夜の勉強リストに加えておくことにした。



*****



「あーーーーーーーーっ!!!!」

コンビニを出ると彼女は突然濁った悲鳴のような声を出した。


「ど、どうしたんだ!?」

ビクッとなりつつも聞いてみる。


「私!お母さんに頼まれたおつかいすっかり忘れてました!!」

どうやら彼女も目的もなくただ街をウロウロしていたわけではないようだ。


「エヘヘ...すぐ忘れちゃうんですよねぇ...。」

と先程とは打って変わって緩みきった表情である。


「わざわざ付き合ってもらってありがとうな

おかげですごく助かったよ!!1人だったらどうなってたことか...。」

本心からの言葉が出る。

「でも一体、どうして自分の用もあるのにわざわざ知り合いでもない俺なんかを助けてくれたんだ?」


「お父さんからよく言われてるんです!困っている人が居たら通り過ぎるなって

 うちは両親も揃いも揃っておバカでおまけにビンボーなんですけど

心まで貧しくなっちゃいけない、お前が助けた困ってた人は俺らみたいなバカとは違って世界を良い方向に変えるような素晴らしい人かもしれない、、、だから人を助けて損なんてことはないんだ

ってその言葉をお父さんから聞いてからは私も困ってる人が居たら通り過ぎない!手を差し伸べる!って決めてるんです!」

彼女の瞳には一切の濁りもない。


少し間を空けると彼女は今度は元気に

「あとはぶっちゃけお兄さん目立ってましたしねぇ!!」


「目立ってた?俺が?なんでだ?」

自分の所作に不自然な点があったか突如不安になる。


「真昼間からパジャマで通り歩いてたら目立ちますよお!!じさぼけってやつですか!?」

時差ボケという言葉の意味はしっかりわかってなさそうだ。


起きてそのままの格好で普通に出かけてしまったがこれは変な格好だったのか。

(この後、俺はエリクサーさんに今日の行いの恥ずかしさを知らしめられることになる。)


じゃあなんだ、この子は自分の用がある中"困ってそう"というだけで怪しい格好をした知り合いでもない男に話しかけ、助けてくれたということか...


「...この世界にも居るんだな」

と思わず小さくこぼしてしまう。


「へ???」

彼女はおどけた表情でまた頭上にはてなマークを浮かべる。


「子供なのに立派だなって思っただけだよ。本当にありがとう。」

そう言い、俺は心の中で目の前の小さな勇者に精一杯の賞賛を送った。


「もうー!!失敬な!!私これでも18歳で明日から社会人なんですぞ〜!!もう学生じゃないもん!!」

今度はまるで真っ赤な風船のような表情だ。


学生という言葉を聞く限りこの世界にも学習の機関のようなものはあるようだ。

シャカイジンってのはよくわからないが。

こうして今夜の勉強リストがまた増えてしまう。


「いや〜ごめんごめん!元気だから若く見えたもんで!!」

どうやら先程は失礼なことを言ってしまったようなので謝ることにする。


「わかればよしこちゃんです!!では!私!お母さんが待ってると思うので!!これにて!!」

と敬礼のようなポーズを取ったあと彼女は一目散に走って去っていったかと思うと一度振り返ってブンブンと手を振ってくる。


「まるで嵐のような子だな...。」

と、ここで今さら彼女の名前を聞けていないことに気づいた。

後悔した頃には彼女の姿は見えなくなってしまっていた。


「もしもまた今度会えたらお礼がしたいな。」

義理堅い性格の俺はそう思わずにはいられなかった。


このまま帰路につこうかと思ったが、ここからそう遠くない場所で一つ寄りたい場所があった。


「明日から行く会社ってやつを見に行ってみよう!案内で場所は把握してるしな。」

入社式の案内には簡易的な地図も載せられていた。

勇者たるものマップをすぐ覚える能力は必須中の必須である。

最強勇者であったリーフ様ともなれば見なくてもいけるレベルだ(嘘だ)


しかし、家からそう遠くない場所で助かった。

向こうの世界で冒険者としてギルドのある街に住んでいた頃はギルドの所在地も調べずにお洒落さや優雅さで住処を選んでしまった。結果、徒歩片道40分という中々の距離を生んでしまった。まあ、副産物として移動魔法の練習に精を出せたものだったので結果オーライではあったが。

なんだかんだ人は自分の損得のためにといった動機が一番頑張れるものだ。


勇者たるもの世間の目を気にするものだ。ギルドでクエストをこなすだけならただの冒険者、人々から信頼と尊敬を浴び、崇め、奉られた結果初めて勇者の名がつくものだ。

ボロ屋敷に住んでる者を勇者と呼ぶ民衆はそうは居ないだろう。

優雅さを重視したのはそういうわけだ。

と、心の中で向こうの世界での失態の言い訳を唱えていたらあっという間に目的地に到達していた。


「ここが...」


株式会社ホワイトアウトと大きく書いた建物を目前にパジャマ男はぼーっと立ち尽くす。


「帰ったら会社というものの勉強だな。それと通貨や教育の制度...あとは服装などの常識か」

今夜の課題を小さく声にして呟く。


すると、千草の視界には驚くべきものが映っていた。

ハッとした後慌てたように走り出し、視界にみつけたそれを拾い上げ、手に取り眺めた。


「なんでコレがこんな所に...!?」


千草が見つけたのはこの世界には存在しないはずのモノで向こうの世界では使用することもしばしばあったモノ。



それは"魔力を貯蔵できる宝石"だった。

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