まことくん
夏のホラーにまた投稿出来てうれしく思います。どこかで聞いたようなベタな作品ですが、自分なりにブレンドし味付けしてみました。
「・・・・・、来ないで、来ないで、来ないでっ!!!」
命からがら追い払おうとした。顔の爛れた少年を。こっちに来るな、来ないでくれと命乞いをした。しかし、それは無駄な抵抗。段々とその恐ろしい形相の男の子は近づきて来て、私の中に入った。すると私は強制的にあお向けにされ、そこで金縛りにあったかの様に身動きが取れなくなった。
「離してっ!離してっ!!離してっ!!!」
と、大嫌いな病院にでも連れてかれる子供の様に騒ぐもさっきまでの恐ろしい少年は現れない。キョロキョロと探す間もなく、周りは真っ赤な業火に包まれ自分は段々と焼かれて行く。熱い、夢にしては熱い。身を焼かれる痛みが全身を迸る。
「熱いっ!痛いっ!!誰か助けて!!!」
助かりたい一心で騒ぐも、助は来るはずもない。そう思うと。目の前に再び、顔が焼け爛れた少年がぁr割れ。口パクでこう言った。
「ミーッケ。」
「嫌っ!止めてっ!!助けてっ!!!」
そう騒ぐと、由香利は目を覚ました。ここ最近見る悪夢だった。できる事なら二度と見たくない悪夢....、いや...、二度と思い出したくないトラウマだ。
アプリゲームだとかYouTubeだとか、子供の遊びが近未来的になった昨今でも、知っている昔ながらの子供の遊びの一つ。それが「かくれんぼ」だ。「もーいーかい?」、「まーだだよー。」。この掛け声で始まり、「もーいーかい?」、「もーいーよー。」の言葉で遊びが始まる。昔から今の子供達にも伝わる伝統的な子供の遊びだ。小学校教諭である由香利の受け持つ学校のクラスも、このかくれんぼは度々行われていた。
しかし、由香利はこの遊びが大嫌いだった。今に始まった事じゃない、昔からだ。
「由香利、由香利っ!」
と、大声で呼ぶ声に気が付いた由香利は辺りを見回した。そこは、古びたジャズが鳴り響くバーだった。隣には、小学校から友達の穂香が肩を揺さぶりながら話しかけている所だった。ホラー映画さながらの悲鳴を聞いた客が、何事かと皆こちらに目線を向けていた。
「あ...、穂香。」
「大丈夫?飲み過ぎたんじゃない?」
「え...?ああ、大丈夫。そんなに酔ってないから...。」
深酒を煽った代償にズキズキと痛む米神をいじりながら、由香利は穂香に話しかけた。
「ならどうしたの?」
「実はね、今回生徒とかくれんぼをやったの。」
「かくれんぼ...?」
と、穂香は表情を曇らせながら言った。
「仕事だから仕方ないけど、本当はかくれんぼをしたくないのよ。」
そう言いながら、飲みかけのスクリュードライバーを一気に飲み干しながら言った。
「そうね、あんな事があったらね。」
と、フィリップモリスをふかしながらそうつぶやく穂香。その穂香の言葉に、由香利は表情を険しくして言った。
「それは言わないで!」
由香利は勢いよくスクリュードライバーが入ったグラスを勢いよく机に置いた由香利、グラスはバリンと音を立てて割れた。その姿に、バーテンダーは目を丸くしていた。
グラスを割り、語気を強める由香利に面を食らったかの様に、穂香はフィリップモリスを目の前の灰皿にもみ消した。
「ご、御免。」
と謝罪する穂香だったが、アルコールが大分入ったのかすでに由香利は息が荒かった。
「やっぱり、あれはやり過ぎたよね。」
と、自分も目の前のソルティードックを一口啜りながら美咲は言った。
アルコールの酔いと共に、思い出されるトラウマ。そして思い出されるある少年の名前...。あの悪夢に登場した顔の焼け爛れた少年には覚えがあった。
「まことくん。」
そう、そのありがちな名前が二人の脳裏に強く残っているのだ。
思い起こせば小学生時代の夏真っ盛り。私は横にいる美咲ともう二人、男の子の恭平、登、そして目立たない感じの同級生、まことくんと共にかくれんぼをしていた。最後に見つかった人間が鬼になると言う独自ルールで進んでいた。
二回、三回と鬼が変わり、由香利が鬼になった。通常なら、鬼は相手を探すのが当たり前だが今回は違った。由香利は人一倍プライドが高かったのと、ゆかりはまことくんが大嫌いだったという事だ。
それともう一つ、根暗で人と関わることが苦手なまことくん。本来ならこのまことくんの性格も考慮して、気さくに接して友達になるべきところだが由香利と穂香、恭平は違った。根暗なまことくんに付き合うのも嫌だったし、友達付き合いも嫌だったのだ。特に由香利は、この何を考えているのか解らないまことくんを毛虫の如く嫌っていた。
そこで、心の悪魔が天使よりも勝った。
「まことくんを置いて帰ろう。」
由香利の脳裏に浮かんだこの冷酷極まりない考えに、皆賛同した。そして、にこにこしながら鬼をまことくんをほったらかしにして帰ったのだ。それが惨劇の始まりだったのだ。
まことくん、それは転校生の少年だ。ずんぐりむっくりとした背格好に、鼻の左下の真っ黒な大きい黒子、殆ど右手を使わない根っからの左利きが特徴の、根暗と言うかどこか陰気な少年だった。
まことくんは他の子供たちと違った、転校生の宿命なのか、周りに溶け込むことが苦手でクラス内で孤立していた。友達も作れなかった。そんなまことくんを、担任の教師は放っておかなかった。当時、いじめで自殺する事例が多かったからだ。自分のポイントにしたいのか、本当にまことくんを思っていたのか親身になってくれた。そんな時に白羽の矢が立ったのが、当時ルーム長を勤めていた由香利だった。渋々遊びに誘った。
その時に注文された遊びが、かくれんぼだった。
最初は担任の手前快く付き合ってあげたものの、段々と馬鹿らしくなりまことくんを置いて登、穂香、恭平を連れて帰ったのだ。
問題はその後だった。何でもまことくんは誰にも見つからない場所に隠れると、それが何か知るか知るまいか、ごみを燃やす焼却炉に隠れたのだ。その焼却炉はまだ現役で使われている焼却炉で、その時これからごみの焼却に使用する直前だったのだ。子供たるもの、初めて友達と思わしき四人と遊べてハイテンション。盲目になっていて、ごみの悪臭なんて鼻腔を通ることはなかった。待っているうちに、ゴミ袋の感触がふわふわの羽毛に思えたのか眠りこけてしまい、まことくんは焼却炉を出て来る事は無かった。管理員も日々の疲れか、業務の飽きが蓄積されたのか中を確認する事無く焼却炉を作動してしまったのだ。
後日、まことくんの親御さんが捜索願いを出し周りを捜索した。由香利、穂香、恭平、登の三人でかくれんぼをしていた周りを捜索し、燃え残った人骨が見つかり、それがまことくんである事が確定したのだ。
まことくんは、焼却炉の中で生きたまま焼け死んだのだ。
そのトラウマが、いまでも由香利の中でトラウマとして生きているのだ。
「ねえ由香利、もう忘れなよ。今が学校の先生になって慕われてるんだから、十分償いは出来てるはずよ。」
「そうかな。」
「そうよ、今日はおごるから元気出して。」
「ありがと、弁護士先生。」
と、由香利がバーテンダーに同じものを注文したところでふと横で外を見ると、スヌーピーのTシャツを見にまとった少年がこちらを見ていた。その少年は俯いているも、段々と顔を挙げた。その顔は半分は普通だが、もう半分は悪夢に登場する殺人鬼の様に焼け爛れていた。その少年は恐ろしい上目遣いで見つめると、ゆっくりと左手を挙げて指差した。窓越し故に声は聞こえなかったが何かを言っているようでパクパクと口が動いていた。
「ひっ!」
と、まるでホラー映画のような光景にしゃっくりの様な声を上げ慄いた。
「どうしたの?」
「え?今・・・。」
もう一度目を凝らすと、その薄気味の悪い少年は姿を消していた。酔い過ぎて幻覚でも見てるんだろうと、取り繕うように「何でもない」と言った。
するとほぼ同時にスマートフォンの電話が鳴り響いた。電話の主は、必然的にまことくんを死に追いやった一人である恭平だった。
「恭平君だ。」
「おーおー、お熱いことで。」
「やめてよ。」
と、照れ隠しに笑って見せながらスマートフォンの受信ボタンを押した。
あの一件から、恭平の慰めは恋へと発展し今では恋人として交際しているのだ。
「―もしもし、恭平くん?」
「―もしもし、由香利か?」
スマートフォンからは、まるでこの世の終わりの様な暗い口調が聞こえて来た。ひょうきんな恭平とは思えない口調だった。
「―うん、元気無いけどどうしたの?」
「―登が...、登がっ...。」
「―登くんがどうしたの?」
「―登が...、死んだ。」
と、恭平の口から衝撃的な一言が聞こえた。
「―どうして?」
「―車で事故ったらしいんだ。車が炎上して、即死だって・・・・。」
「―うっ、嘘でしょ・・・・。」
「―俺も信じらんねえ・・・。」
と言う恭平の言葉を聞き終わる前に、思わず力が抜けてスマートフォンを落としてしまった。登もまた、凄惨なまことくんの事故に関わった一人なのだ。
震える手で落っことしたスマートフォンを拾い、着信を切ったその姿を見て穂香は話しかけた。
「由香利、どうしたの?」
「今っ...、恭平君から着信があって....。登くんが死んだって....。」
「えっ...。」
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色・・・・・・。」
どんよりとした重苦しい葬式の場、ご住職のお経が始まった。白黒の鯨幕で固められた会場は、しんとしていながらも身内のすすり泣きや、聞こえない程度のひそひそ話等様々な参列者による物音が響いていた。式場中にお経が聞こえていたが、由香利の耳にはお経なんて入るはずがなかった。お経も聞こえない、心ここにあらずの理由は登の死因だ。
ドライブが好きだった登は、その日も自慢のメルセデスベンツを走らせていた。毎回車のメンテナンスは怠らず、常に新品同様の車だと何時も自慢していた。しかし、そんな愛車が突然エンジントラブルを起こし、ブレーキも聞かずに電柱に衝突してしまったのだ。すると車は突然発火し、車から脱出しようにもへしゃげたボディーがまるで虎ばさみの如く足を噛みつき、身動きが取れなかった。段々と炎は車を飲み込んでいき、ガソリンに引火して炎上し爆発。登は豪華の中で燃え尽きたと聞いた。
頭の中には業火の中で苦しむ登の姿が浮かび、つい最近まで見続けている自分の悪夢とリンクしていた。忘れたくても忘れられない、自分たちが死に追いやったも同然のまことくんの姿。また頭に浮かび、更に気落ちさせた。
俯いている間に葬式はつつがなく終了し、ささやかに精進落としが開かれていたが、箸は進まず険しい顔をしたままだった。
「なあ由香利。」
と、俯く由香利に隣にいた恭平が声をかけた。
「何?」
「どう思う、登の死。」
「どうって?」
と、コップの中でぬるくなった目の前のオレンジジュースを飲みながら聞いた。
「だって登はおたく張りに車好きだったし、いつも車のメンテナンスを怠ってなかったんだ。エンジントラブルだなんて、信じらんねえよ。」
「それは私も思ったよ。」
すると下戸の由香利の横でビールを飲んでいた穂香も、由香利らの言葉に同意した。
「そうだよね、運転だって「俺に任せろ!」って言う位だったもんね。」
「それがこんな死に方・・・・・。」
そう言うとハッとした表情になって、恭平は向かいに座る二人に顔を近づけて小さな声で話し始めた。
「そういや、登こんな事言ってたんだよ。」
「どんな事?」
そう穂香が聞くと、キョロキョロと周りを見回しながら言った。
「お前ら、まことを覚えているか?」
「え・・・・?」
と、由香利と穂香は唾を飲み飲食の手を止めた。
「恭平君、なんでそんな名前出すの?」
「俺だって出したくないけどさ、登がこの前まことを見たって言うんだよ。顔が爛れて、気味の悪い感じだったって。」
と、冷や汗をかきながら恭平は更に話を続けた。
「それで、まことは登を指差してみっけって言ったらしいんだよ。」
恭平の言葉に、穂香が青白い顔で硬直した。と言うのも、つい此間穂香も場合こそ違うものの似たような状況だった。あのバイオハザードにでも出てきそうな気味の悪い少年がまことくんだとしたら、もしかして自分も同じ末路を歩むのではないかと思ったからだ。
「穂香、どうしたの?」
「えっ・・・?いや、何でもないよ。」
「もしかして、穂香も見たのか?」
と、恭平が単刀直入に穂香に聞いた。
「嫌っ、見てない!見てない!!」
ぶるんぶるんと顔を右往左往振りながら、穂香は恭平の言葉を否定した。
「そうか・・・・、でも気を付けろよ?」
「解ってる、ねえ今夜三人で飲まない?」
「そうね、厄落としにね。」
「良いな、俺も付き合うぜ。」
と、三人は穂香に促されるままにじかにの会場に向かい酒と美味い物を存分に味わった。この瞬間は、該当する単語を耳打ちでもされない限りまことくんの事は忘れる事が出来た。死んだ登には申し訳ないが、登の葬式で集められた旧友との出会いがまことくんを忘れさせてくれた。由香利はたまにしか無い至福の時と、思いっきり娯楽を楽しんでいた。
「ふぅ~。」
と、ビールやらワインやらちゃんぽんした穂香は職質されても仕様がない位にふらふらと千鳥足で歩いていた。アルコールをしこたま味わい、ふうと吹くため息も暖かだった。このため息を感じると、「だいぶ酔ったな。」「これは明日二日酔いだな。」と安易に予言できた。法律家と言う激務、そしてまことくんのことを何時までもうじうじと気にする昔の知り合い達の言葉が、更にストレスと言う名のオイルに火を付けていた。
アルコールが入ると、不思議とニコチンも欲しくなる。ここは帰り道に良く通る公園。確か嫌煙化が騒がれる昨今にしては珍しく、一つだけ灰皿があった事を思い出した。
胸ポケットからフィリップモリスを取り出して、一本銜えた所で目の前の視界に不思議なものが映った。初めてじゃない、つい此間見た奇怪な風景だった。
焼け爛れた外見、見かけこそゾンビさながらだった。しかし、140㎝足らずの慎重にずんぐりむっくりとした背格好、鼻の左下の真っ黒な大きい黒子。
間違いない、まことくんだ。
まことくんだとはっきりと断定した穂香だが、他人の空似だと無理やり納得させてその場を後にしようとした。
しかし、その影はまるでエスパーさながらに瞬間移動でも使ったかのように穂香の目の前に現れた。
そして、声を掛けた。
「ミーッケ。」
ゆっくりと、左手をこちらに向けた。
ずんぐりの体格、左側の黒子、左利き・・・・、全てはまことくんの特徴。目の前の化け物は紛れもなくまことくんだ。
「まっ・・・・、まことくん?」
「ホノカチャン、ミーッケ。」
と近づいたかと思うと、まことくんの姿は消えた。
キョロキョロとまことくんの姿を探しているうちに、両方の手に違和感を感じた。まるで、手首を縄で縛られているか強い力で掴まれているという感じだ。すると、だんだんと無理矢理後ろに引っ張られているのが解った。踏ん張ろうとしたが、幾ら全身に力を入れてもズルズルと後ろに引っ張られていた。
「嫌っ!、嫌っ!!、嫌っ!!!」
と、逃れようとじたばたと両手足を動かそうとするも振りほどく事は出来ず段々と引きずられて行った。
引きずられて行く先は、この前も小学生が確か溺れ死にかけて話題になった深い池があったのを思い出した。自分もそれほど長身じゃないし、何より1メートルも泳げないカナヅチだ。池に落ちれば、間違いなく溺れ死ぬ。
「まことくん!?まことくんなの!?私は、私は悪くない!!悪いのは由香利よ!!言い出しっぺは由香利なのよ!!だから助けて!!!」
と大騒ぎするも聞き届けられないようで、ズルズルと引きずられて池と陸の境目まで火気疲れた。
沈められる・・・・、殺される・・・・。
と、穂香は命乞いしたが聞き届けられず、ズルズルと引きずられた。
「嫌っ!止めてっ!!助けてっ!!!」
そう言いながら、たった一度しかない命を惜しみ命乞いをするも・・。
その努力は・・・、無駄な事だった。
体はズルズルと池を目的地に引きづられ、両足の先っちょが池の水面についたのは安易に感づいた。何故なら、このまま自分は殺されると察知したからだ。
「止めてっ!離せっ!!離してっ!!!嫌っ!死にたくないっ!!」
と、殺される前の断末魔の悲鳴を上げた穂香は、その願いも乏しく池へと引きずり込まれていった。
ガボっ、ガボボっ。
何とか息継ぎの為に水上に顔を出そうとしたが、重い足枷でも付けられているのかどんどんと沈んで行った。
水を飲み、意識が遠のいて行くのが自分でも解った。もう私は死ぬ、まことくんに殺されるとすべてを理解したところで穂香の意識が無くなった。
「やっぱり呪いだよ、登くんも穂香もまことくんに殺されたんだよ・・・・。じゃあ、次は。」
と、雨降りの夜道を歩きながら由香利は恭平に言った。
「止めろ、そんなこと言うの。」
と、自暴自棄になる由香利を諫めた恭平。
ニュースを見た。穂香が公園の池で溺死したと言うニュースを見た。酒豪だった穂香、別れた後も自分一人で飲んだらしい。酔って落ちた事故死と断定されたが、由香利の脳裏には自分たちが死に追いやったまことくんの怨念と言う考えが浮かんでいた。
「でも、こんな偶然ってある?」
「だから止めろって!」
語気を強めながら真っ向から否定する恭平。
「でもやっぱり!」
と、自分もだんだんと言葉が強くなる由香利。すると恭平が急に立ち止まった。に散歩前に進んだところで、恭平を置き去りにしていることに気がついた。
「恭平君?どうしたの?」
「あ・・・・・、あれ・・・・。」
傘を落とし、手を震わせ、青ざめた顔で真っ直ぐ向こうを見ていた。
恭平の指差す先には、顔が焼け爛れたゾンビの様な少年がそこにいた。由香利にも見えた。はっきりと見えた。
「ま・・・・、まことくん・・・・。」
「で・・・・、出た・・・・・。」
後ろにのけぞりながら、まことくんを指差した。すると、ゆっくりと左手で恭平を指しながらまことくんは言った。
「キョウヘイクン、ミーッケ。」
と言った。
「う・・・・、うわあーーーー!!」
と、由香利を置き去りにして後ろに駆け出した恭平。
「恭平君っ!」
そう呼び止めるのも間に合わずに恭平は、まことくんから逃れたい一心で一目散に走りだした。横断歩道のちょうど真ん中に差し掛かったところで、大雨でほとんど視界を奪われたデコトラが猛スピードで恭平に衝突した。グシャッと言う音と共に恭平は目の前から消えた。
人だかりをかき分けて横断歩道に近づくと、デコトラの下から雨水に流されて真っ赤な地がじわっと流れて来た。
「嫌っ・・・・・、嫌ぁーーーーー!!!」
と、目の前の現実から逃れるようにその場から駆け出した。周りの風景を目に入れず、決して後ろを振り返らずに走り続けた。登も、穂香も、恭平も、みんな死んだ。次は自分だ。
「置いて行こう。」
そう持ち掛けた張本人は自分、死に追いやったのは自分、自分のせいでみんな死んだんだ。
どのくらい走っただろう。川べりの長い石階段がある場所で、体力の限界が来て足を止めた。
「はあ、はあ、はあ。」
雨でびしょびしょに濡れ、荒い息遣いで周りを見回すも人っ子一人いなかった。少しばかり安心した。
恐怖心よりも、罪悪感が由香利の心理を襲っていた。自分があんなこと言わなければ、みんな死なずに済んだんじゃないか。まことくんも今まで、友達でいれたのかもしれない。毛嫌いしなければ、何も起こらずに平穏無事に暮らす事が出来たのかもしれない。
そう考えながら、ゆっくりと振り返るといつの間に現れたのか、まことくんがいた。
「あっ・・・・・、あっ・・・・・。」
言葉が出なかった。出す事が出来なかった。怨霊に見つかった。今度こそ自分が死ぬ、そう自覚した。
まことくんはゆっくりと左手を挙げ、こちらを指差した。そして言った。
「ユカリチャン、ミーッケ。」
「やっ・・・・、止めて・・・。」
と、少しずつ逃れようと後ろに下がった。
するとまことくんが、再び声を出した。
「ミンナ、ミツケタヨ。」
そう言うと周りに気配を感じた。そこには、今まで死んでいった仲間が立っていた。右腕が砕け散り、顔半分が焦げた登、ホラー映画の怨霊の様にずぶぬれになった穂香、頭が割れ大量の血が流れ、シャツが真っ赤に染まった恭平。みんなまことくんの怨霊によって殺された友達だ。
「オマエノセイダ。」
「アンナコトイワナケレバ。」
「ナゼイキテル。」
「シネ。」
「シネ。」
「シネ。」
と、口々に由香利に言葉を投げかける死んだはずの仲間。いや、もう仲間じゃない。この世の物じゃない。
自分のせいで死んだんだ。
絶望しきった様子で後ろに下がっていくと、雨水に足を取られ石階段から滑り落ちた。
「キャァーーーーーー!!!!」
悲鳴と共に石階段から真っ逆さまに転げ落ちた由香利、頭を強く打ち気を失った。
「突然だったわねえ。」
「先生、嫌だよ・・・・・。」
「こんな早く死ぬなんて、悪い事してたのかしらねえ。」
由香利が目を覚ますと、自分の周りが壁で囲われていた。閉じ込められているようだった。
「嘘っ・・・・・、ここどこ?」
周りを見渡すと、自分の頭に何かがまかれているのに気が付いた。そして衣装も変わっていた。真っ白な死装束、六文銭がプリントされた紙。それを確認して、自分がどこに押し込められているのか確信した。
棺桶の中だ。
石階段から落ち、仮死状態にあった自分は死んだと断定されて今まさに火葬されるところだと解った。
「嫌っ!開けて!!助けて!!!私まだ死んでない!!!!」
と、中から助けを求めるも火葬炉の中に入れられては声も音も届かない。焼かれる。生きたまま焼かれる。
「出してっ!!出してっ!!!」
諦めず声を挙げていると、ガシャンと言う音がしボウッと言う微かな音が聞こえた。火葬炉の火がつけられたのだ。中からも暑さが伝わり、段々と焼かれるのが身をもって感じられた。
ついに木製の棺桶は焼けて自分の体が焼かれる番になった。火葬炉の日がだんだんと自分の体を焼いて行った。
「熱いっ!痛いっ!!誰か助けて!!!」
と、火葬炉の業火で焼かれながらもがいて何とか生きながらえ様とあがいて見せた。しすると、ぼうっとまだ生きているあの日の姿で登、穂香、恭平、そしてまことくんが移った。
小さい、子供の頃の姿だ。
すると、まことくんがこちらを左手で指差していった。
「次は、由香利ちゃんが鬼ね。」