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ジェイという人物

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「ジェイの爵位をお聞きしてもよろしいですか?」


 いくらロナウドの友人だといっても、どのような家格なのか何も知らないのでは応対の仕方がわからない。

 平気で軽口が叩ける人物という事は、ロナウドより高い爵位の可能性はある。 そうなると、私も失礼な態度を取るわけにはいかないはずだ。


 だから確認したかったのだ。

 私の回りには貴族意識から逸脱する事のない、ごく当たり前の、知り得る紳士ばかりなのだ。


「面倒だよね、家のしきたりだとか家風だとか。 前衛的ばかりが良い事だとは思わないが、保守的すぎるのも考えものだ」


「あの、それはつまり……」


「ただの貴族さ」


 彼はそう言って笑った。


 両手には子犬を抱え、おそらく白いフワフワした毛並みのはずのその身体にはまだほとんど地肌しか見えておらず、か細く鳴くその顔を時々覗き込んだり撫でたりと、どうやら犬好きなのは確からしい。

 彼の見た目はうっすら生えた顎髭にボサボサの金髪。 服装は一応それらしい格好ではあるが、どこかヨレヨレでいったい何日着替えていないのかと問いたくなる。


 この人物の邸には執事や使用人はいないのだろうか。


「えっと、君の名前はリリィ……だっけ?」


「できましたら、リリィ嬢と」


 初めて会った人物に軽々しく馴れ合いの声を掛けて欲しくない。

 それがどんなに立派な紳士であったとしても、私をリリィと呼べるのは婚約者のロナウドだけだから。


「リリィ嬢は花嫁修業中なのかい?」


「えぇ、そうです。 本来なら今頃はロナウドの妻になっている予定でしたが、今は少しでも早く追いつかないといけないと思っております」


「それは寝たきりだったから?」


「ロナウドからお聞きになっているかもしれませんが、昏睡状態だったのです」


「そうなのか、それは知らなかった」


 ロナウドとジェイは学校の友人同士。 向こうでは婚約者の私の事を話していないのだろうか。 或いは話す内容は勉学に関するものばかりとか。


「その間の君を看病していたのが妹君だという話は聞いているよ。 とても熱心に世話をしていたと」


「ロージーです。 いつ目覚めるかわからない私の側にいてくれたのですから、妹には本当に感謝しています」


「妹君に婚約者は?」


「妹は姉の私と比べ物にならないくらいの素敵な令嬢です。 どなたか相応しい方がいらっしゃったらすぐにでも婚約の運びになりそうなのですが」


「慕っている男がいるのかもしれないな?」


「そのような話は妹から聞いた事はございませんわ。 もしいたら、姉の私に話さないはずがありませんもの」


「なるほどね、君達は仲良し姉妹なわけだ」


 どこか揶揄するような口振りだ。

 まるで、そんなわけがないだろうとでも言いたげな。


 そんな話をしている内にシモンズ家の邸に着いた。


「ジェイはこちらには何度か来た事がありますの?」


「実は、ここの使用人にあまり好かれていなくてね。 歓迎されないのがわかっているから気にはしていないよ」


 ロナウドの友人が平民のような野蛮さを持ち合わせた風貌でも、それなりの態度で迎えるのは当然。 なのにそれでも彼らが見下すのは、やはりこの貴族らしからぬ雰囲気が気に入らないからなのかもしれない。


 私は使用人が出迎える態度を想像して、あえて玄関ではなく、庭へと廻った。


 以前のような綺麗な薔薇も何もないが、テラスで飲むお茶は居間で一人飲むよりずっと気が晴れる。

評価、ブクマ等よろしくお願いします。

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