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空白の時

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 誰かの助けを借りなければ、何もできないのがこんなにも悔しいものだとは思わなかった。


 部屋の寝台で上半身を起こして読書をしていた私は喉が渇いて飲み物が欲しくなった。

 ところが、お茶は空で入っていない。

 誰かに持って来てもらおうと声を上げても、部屋の外は静まり返って気配を感じない。


 ロージーやお母様には支え無しの一人で動くなと言われていたので、しばらくお茶は我慢して読書を続けた。


 だが、一向に使用人は姿を見せない。

 ロージーは客人の訪問があったとかで相手をしなければならず、使用人もそちらに掛かりきりなのかもしれない。


 それならば自分で歩いて使用人に頼みに行こうと思い、ドアの方へと向かった。


 ところが三年の長さを思い知ったのは、寝台からドアまでの僅かな距離を歩けなかった事。


 気づいてはいた。 自分の身体が細く、体力がなくなっている、と。

 食事も少量を時間を掛けなければ入っていかない。

 こんなにも弱ってしまったのかと愕然とした。

 だから体力をつけたい気持ちもあったのだ。


 一歩一歩、ドアへと近づくにつれて不安定な身体がぐらつく不安と恐怖、それでもきっと大丈夫だと暗示を掛けるかのように呟いた。


 あともう少し、そう思ったのも束の間。

 私の身体はバランスを崩して床に倒れてしまった。


「痛ッ!」


 その際に手をついてしまったらしい。 手首に衝撃があったのだ。


「リリィお嬢様!」


 やっと部屋に姿を現した使用人達は、床に倒れている私を見て大きな声を上げた。


「どうなさったのですか?」


「ごめんなさい。 お茶のお代わりが欲しくて……」


 使用人が手を貸すが、私の手首の痛みには気づかない。


「お茶が必要なら私達を呼んで下さいませ。 その為におりますのに」


「そうですよ。 怪我をなさったら私共が叱られてしまいます」


 その怪我をしてしまったのだ、とは言えなかった。

 それでなくても手間を取らせてばかりなのだ。 言えるはずもない。


 寝台に戻ってお茶を飲んでいると、客人が帰った後らしく、ロージーが顔を出した。


「リリィお姉様、どうなさったのですか?」


「ロージー、お客様は?」


「お帰りになりましたわ。 その後でお姉様の事を聞いて」


「早く元気にならないといけないわね。 でないと貴方にも心配掛けてばかりだわ」


「そんな風におっしゃらないで下さい、お姉様」


 ロージーは昔から優しくて可愛い子。 それは今も変わらず、寧ろ綺麗な女性に成長したのが印象的だ。


「気分はどうですか?」


「えぇ、おかげで楽になったわ。 ありがとう」


「ですが、まだ無理はいけませんわ。 一ヶ月経ったとはいえ、お姉様の身体は体力も筋力も戻っていませんもの」


「そうね。 横になっていると大丈夫な気がしてくるのよ」


「起きて身体を動かす時は必ず誰かを呼んで下さい。 倒れて怪我をしてしまっては大変ですもの」


「それはわかっているのよ。ただ、その度に貴方や使用人を呼ぶのは気が引けて……」


「お姉様、お気になさらないで。 私はお姉様がこうして少しずつお元気になられた事がとても嬉しいの」


「ありがとう。 ロージーはこんなにも立派な令嬢になったのね」


「リリィお姉様がいて下さるのが嬉しいだけですわ」


 そう言って笑うロージー。


「ロナウドは今日はいらっしゃらないのかしら?」


「お忙しいのでしょう」


「そう……」


「ロナウド様はお優しいもの。 リリィお姉様が恋しがっていると知ったら、きっと明日には来て下さるわ」

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