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姉妹

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 どうして皆、そんなに戸惑った顔をしているのだろうか?


 ロージーの話では、ずっと眠って目覚めなかったのだという。 どこが悪いわけでもないのに。


「お姉様は三年もの長い間、一度も目覚めずに眠っていらっしゃったのよ」


 三年……?


「リリィ、覚えていないかい? 俺と馬に乗って森に出掛けただろう」


 そういえばあの時、馬の目の前を兎が横切った。 パニックを起こして暴れ出した馬に私は振り落とされ、気づいたら地面に叩き落とされる形になった。


 まさか、その時から三年も経過したと言うのだろうか。


 ロナウドは意識を失くした私を従者と共に邸まで運び、すぐに男爵家のかかりつけ医を呼んだらしい。 あまりにも突然の事故で、その時は邸に運ぶしか咄嗟には何も思いつかなかったと悲しそうに言う。


 それから医師と呼べる医師を何度も招いて診察させた。

 お父様達の懇願により、この国の王族の健康を管理する、権威と誇りを持つ医師にも診せた。 ところが、こうなった理由も治癒方法もわからないと匙を投げたらしい。


 結局、どれだけの医師に診察させても馬から堕ちた際に頭を強打した影響が出ているのかもしれない、或いは何らかの呪いが掛けられている可能性も否定できない、との診断だけで打つ手がなかったのだと言う。


 それから三年。 私はある日、目を覚ました。


 すぐに医師とお父様、お母様が部屋に飛び込んで来た時の、皆の表情を失くした顔は印象的だった。

 誰も何も発せず、ただ寝台を囲むようにして黙って立ち尽くすのみ。


 それは喜びより、寝台に横たわって目蓋を閉じたままだった私が突然目覚めている光景を目の当たりにした衝撃の方が勝ったせいに思われる。


 そんな空気をロージーが壊した。


「お母様」


 静かな、その声にハッとしたお母様は寝台のすぐ側に跪き、ようやく冷静さを取り戻す。


「リリィ……」


「おはようございます……お母様」


 目覚めた時から普通に喋っているつもりなのに、眠り続けた影響なのか掠れ声しか出て来ない。


「夫人、まずはリリィお嬢様を診ましょう」


 医師はそう言い、お母様とロージーだけがその場に残り、お父様とロナウドは部屋を出て行った。

 お父様がロナウドの肩にポンと手を置いて慰める姿を目に留めながら。


 医師の診察では長年のそれは昏睡状態にあり、このままの可能性もあったという。 その為、奇跡的な目覚めは研究の余地があるらしい。

 そして私の身体が極度の体力低下で、すぐに起き上がる事はできないと言われ、時間を掛けてゆっくりと回復させていくべきだとの助言を受けた。


 医師の診察が終わり、部屋には三人だけ。 女中がお母様とロージーのお茶を用意すると、それを飲みながらロージーが言った。


「お母様、私にお姉様のお世話をさせて下さい。 本来なら男爵家でお姉様を診るべきところを私が我が儘言ったのですから。 お姉様の側にいたい、と」


「ですが、ロージー。 貴方は……」


 お母様が戸惑いながらロージーを見る。


「大丈夫ですわ、お母様。 大好きなお姉様がやっとお目覚めになられたのですもの。 こんなに嬉しい事はないわ」


「いいのね、ロージー?」


「えぇ。 お姉様が少しでもお元気になられたら、きっとロナウド様も安心でしょうし」


「そうね、リリィは貴方の大切な姉だわ。 そして私の可愛い娘よ」


「お姉様も、でしょ?」


「リリィを失わずにすんで本当に良かった」


 お母様の目から涙がこぼれる。


 それは安堵と戸惑いのどちらにも思えて、この三年が長かったのかどうかなんて私には理解できるはずもなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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