ジェイの想い
×月×日
「幼き頃、預言者の女に告げられた事があります。 いつか隣で目覚めし時、出会うだろう、と。 それは我が国を繁栄に導き、共に幸福をもたらす」
「娘のリリィがそうだと……?」
「その言葉を忘れた事はありません。 ですが、意味としては国の中枢に関わる人物か或いは一夜を過ごす商売女なのだろうと考えていたので、伴侶という意味としては全く捉えていなかったのです。 だからこの国に来たのも、リリィに出会ったのも預言とは無関係だと思いました」
「娘が預言に関係していると気づいたのはどうしてなのです?」
「預言は預言であり、確定ではないと思っています。 だからこそ彼女に出会って短い月日ですが、これまでに感じた事のない感情を抱いている自分に気づき、悲嘆に暮れました」
「ジェイ……」
私の瞳を見ながら話すジェイの言葉が愛おしく感じられるのが嬉しい。
「彼女はロナウドの婚約者だったのです。 その事実に私がどれだけ足掻いたところで何も変わらないのですから。 例え、ロナウドの気持ちが別の女性にあったとしても」
ロナウドが苦痛を伴う表情をしている。
私への懺悔と後悔と裏切りを抱えて来たのだろう。
「ですが、貴方は第一王子。 そのお立場なら如何様にもできたはずです」
「子爵。 貴方の娘、リリィは私が王子だと知ってもロナウドへの義理を誓っていたのです。 そして愛する妹嬢を想う気持ちでも苦しんでいました」
「リリィお姉様……」
ロージーがロナウドの手を取り、握る。
「私は諦めて国に帰ろうと思いました。 ところが彼女は私が王子だと知る前の、あのみすぼらしい私に会いに来てくれたのです。 どんなに嬉しかったかわかりますか? それからは互いの気持ちを伝え合い、私の身分を明かしました。 その上でロナウドと妹嬢の今後についても話す必要がありましたから」
「お父様、私は自分の行いを詰られても仕方ないと思います。 ロナウドの婚約者という立場にありながら、他の殿方に心を移したのですから。 本当は婚約者ではなかったとしても、それはその時の私には知り得ない事実でしたもの」
「リリィ、お前は私の大切な娘だ」
「ですが、もしも何も知らずにロナウドとの関係がそのまま続いていたら……それを考えると、ロージーにはとても酷い姉だったと思います」
「そんな事ありません、お姉様! 私が悪いのです! 私が好きになってしまったから……」
「いいのよ、ロージー。 きっとこうなる運命だったの」
そう、あのアマリリスのブローチが告げている。 私ではなかったのだ、と。
「お姉様、お二人が一緒になっていたとしてもロナウド様の義妹になったとしても、それでもお姉様の側にいたかったのです。 お姉様がいないなんて考えられないもの……」
「お父様、お母様。 ロージーはまだまだ子供ですね? これからしっかりしてもらわなくてはロナウドの妻は務まりません」
「リリィ……」
お父様もお母様もこうなる事を望んでいたはず。 いや、願望はあっただろうが内に秘めて隠していたのだ。
私がいる限り、決して叶わない未来なのだから。
「ジェイ、そろそろ出ましょう」
私が彼の手を取り、立ち上がろうとするとロナウドが止めた。
「待ってくれ、リリィ」
ロナウドが切羽詰まったような、苦しそうな表情をしている。
「二人きりで話をさせてくれないか」