真実が導く姿
×月×日
久しぶりのホワイト家。
懐かしい気持ちになるのは安堵感のせいだろうか。
お父様もお母様も、そして使用人達も変わらない顔触れだ。
「リリィお姉様、お待ちしていました」
「ロージー、やはりここが私の実家なのだと実感したわ」
「当然ですわ。 お姉様と私の生まれ育った家ですもの」
ロージーは嬉しそうだ。 私が帰って来ると、いつもこうして嬉しそうに出迎えてくれる。
これがあるから私は毎回胸踊らせながら帰宅して来た。
「子爵、お久し振りです」
「やぁ、ロナウド君」
久方振りの再会、といった雰囲気だ。
今回は一日泊まり、明日ここを離れる予定だ。
リリィがそうしたいなら構わないと言って、ロナウドも了解してくれている。
もしも悪戯な神様が再び何かを仕掛けようとするなら、どうぞ私を意地悪な魔女にして下さいと願うだろう。
そしてこう自らに呪文を掛けるのだ。
『お前は世界一の意地悪で勝手な女だ。 自分の幸せの為に妹を不幸に落とすのだから』
☆ ☆ ☆
私の部屋には子供の頃の玩具やお父様に頂いた絵画が今もまだ残されている。
その他にはドレスや帽子、靴などの身に纏う物が少々あるが、それらを保存するには幼すぎて意味を持たない。 数点の物以外は適当な施設へと送り、処分した。 だからあるのはお気に入りの宝石だけ。
それはロナウドとの婚約が決まった幼き頃にシモンズ家より頂戴したブローチと、お母様のお下がりの首飾りだ。
これはドレスで装った時に首回りを華やかにするだけではない。 お母様がやはり子供の頃にお母様より頂いたという、貴重な母の愛の証なのだ。
首飾りをバッグに仕舞い、ブローチを胸元に着けた。
鏡に映して見ると、ブローチの表面の模様が光っている。
今まで気づかなかったが、それはアマリリスの模様だった。
「ロージーの好きな花……」
神様は本当に意地悪だ。
部屋を出ると、どの部屋の辺りも静まり返っている。
連れて来た侍女の姿も見えない。
邸内は使用人の歩く足音や話す声、指示を出す女中頭の強い声のみ。
ロナウドもロージーも誰もいない。
「いったいどこに行ったのかしら?」
居間にも姿は見えず、誰かに聞こうにも誰もが私と距離を取りたがっているのがわかった。
シモンズ家の使用人のような侮蔑の眼差しではなく、戸惑いと憐れみといったところだろうか。
「まるで幽霊のようだわ」
気にしても仕方ない。
ふと、ジェイがシモンズ家で疎まれていた光景が頭を過る。
彼もきっとこんな風に冷たい視線を身体中で受けていたのだ。
ジェイの場合は貴族の殆どが敬遠したがる平民風情がそれで、私の場合はロナウドとロージーの邪魔者。
邸内の気配を探していると、窓から見える庭のテラスで数人の人影が目に入った。
それはまさしく今探していたお父様とお母様、ロナウドにロージーその人達。
「あぁ、これがそうなのね……」
まるで家族そのものだ。
若い夫婦を温かく見守る両親、そしてまだ見ぬ孫はまだかと急かす構図。
「まさか今、このタイミングだなんてね」
笑い話にもならない。
ジェイなら笑ってくれるだろうか、それとも怒ってくれるだろうか。
或いは……。
「ねぇ、ジェイ。 貴方はどんな家庭を作るのかしら」
ここにはいない彼を想い、胸が痛くなる。
「リリィ様」
いきなり背中から声を掛けられて身体がビクリとしてしまう。
侍女だ。 いつも通りの冷めた顔で立っている。
「準備は整いました」
「そう、ありがとう。 今までご苦労様。 貴方には迷惑掛けたわね」
「いえ、私は……」
彼女は引き締めた表情で俯いた。
「お父様には夜にでも話すわ」