胸に抱く寂静
×月×日
ロナウドは仕事があると言って奥に籠っている。
彼は忙しいのだ、わざわざ座する必要はないと思っているのだろう。
さっきも挨拶程度で、お茶を飲みながら語らうような会話も話題も持ち合わせていなかった。
人嫌いな彼ではないが、ロージーを前にすると臆するらしい。
『あまりにも美人過ぎて緊張から話が持たないよ』
そう言って笑うのだ。
私が昏睡状態の時、二人は交代で看病したと聞く。
考えてみれば、私がこの邸に戻ってからは二人が顔を合わせる機会はそう多くない。 親しくないわけではないが、そう親密なわけでもないはずだ。
私とロナウドが夫婦になれば、ロージーとも交流は増えていくだろうし、縁談の協力だって必要になる。
これからはホワイト家との往来を増やすべきなのかもしれない。
「リリィお姉様。 まだまだお話していたいのですが、もう帰らねばなりませんわ」
気づけば昼過ぎだったのが、太陽は山の稜線上まで沈もうとしている。
「泊まっていけばいいのよ、ロージー」
「あら、それはいけません。 お姉様ともっと一緒にいたいからといって、ロナウド様を邪魔にしてしまっては義妹として失格ですもの」
「ロナウドだって、わかってくれるわ」
「いいえ、また伺いにまいります。 お姉様に会いたいもの」
ロージーは私を追い掛けていた子供時代のように、今も姉離れができていない。
お姉様、お姉様と言ってくれるのはありがたいが、彼女にも自分の幸せを探してもらいたいものだ。
ジェイ、はどうだろうか?
彼は気さくだし、男前だから女性にも好感を持たれるはず。 気負わずにいられる会話も楽しい。
ただ、貴族らしからぬ振る舞いと行動が敬遠される可能性はあるから、相手は選ぶかもしれないが。
それに彼の出身はこの国ではない。
後には帰ってしまう、あのロージーがついて行く事などできようはずがない。
いや、何よりも彼とロージーでは話も気も合わなそうだ。
「では、お姉様。 またしばらくのお別れなのが寂しいです」
「ロージー、いつでも遊びにいらっしゃい」
玄関ホールまで見送りに出ると、私だけでなく侍女や女中もロージーの見送りに顔を見せる。
「お帰りになるのですね」
「ロージー様、お気をつけて」
帰ってしまうのがとても残念そうな彼女達。
ロージーはとても慕われているらしい。
それはそうだ、私の自慢の妹なのだから。
「ロージー、また遊びにおいで。 リリィが喜ぶから」
ロナウドがロージーの見送りに顔を見せに出て来てくれた。
「ロナウド、お仕事はもういいの?」
「あぁ、一段落さ」
ロージーはロナウドの見送りが嬉しかったのか、頬を綻ばせながら微笑む。
「お姉様を一人占めしてしまいましたわ、ロナウド様。 拗ねてすっかり隠れてしまわれたのかと」
「いつだって君とはリリィを取り合って来たからね。 拗ねてはいないが、いじけてはいたかな」
「まぁ、ロゥがそんな冗談を言うなんて笑えない冗談ですわ」
「本当さ。 君の美しさに目眩がする事だってあるのだからね」
「お医者様に診て頂いた方がよろしいのではなくて?」
「ローズに嘘はつけないだろう?」
女中達がクスクスと笑っている。
可笑しな雰囲気だ。
楽しい会話で、誰もが微笑みを浮かべているのに。
いや、可笑しいのは私なのかもしれない。
ただ一人、私だけが玄関ホールに取り残されたような、まるで一人ぼっちになってしまったような寂しさを感じているのだから。
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※Berry,s cafeにて、
「振られたはずなのに王女の婚約者が元彼だなんて」という新たな作品の掲載を始めました。
こちらでの掲載予定は今のところありませんが、こちらで現在掲載中の作品が完結次第、別の作品を掲載するつもりです。