二人だけの時間
×月×日
王宮勤めのロナウドには休みらしい休みなど存在しない。
この国の王族の権威と誇りを守るのが仕事で、昼夜に渡って神経を張らせている。
後には王族の側近として重要な役目を担う事になるだろう。 上位ではない彼が任されるのは、それだけ信頼されている証といえる。
そして何よりロナウドは王家の情報を易々と漏らすような人間でもない。 だからこそ他者より抜きん出た仕事ができるのだ。
今日はそんなロナウドの休日。
滅多に休みを取らない真面目な彼に上役が与えた貴重な憩いだ。
指定席となっているテラスの、いつもはいない時間に彼がそこにいるのが嬉しくて、お茶とケーキが特に美味しく感じてしまう。
それだけではない。 心なしか空気までが美味しく感じるのだ。
芝ばかりの何もない庭なのに、ロナウドと二人でそこにいると、まるで現実にはない花々が咲いているような気がする。
きっと彼が私の心を潤してくれているのだろう。
「ねぇ、ロナウド。 また花壇に花をたくさん咲かせたいわ」
「そうだね、リリィはアマリリスが大好きだから」
「それはロージーよ。 私は薔薇が好きなの」
「あぁ、そうだったね。 さっそく庭師に花壇の手入れをしてもらおう」
「お手伝いをしてもいいかしら? 自分で花を育ててみたいの」
「構わないが、手を怪我したり汚したりしたら大変だよ」
「平気よ、身体をもっと動かしたいから」
「わかったよ。 君は昔からどこかお転婆なところがあるな」
「そんな私にいつも貴方はつき合ってくれたわ」
昔話に花を咲かせながら、笑い合う空気が懐かしい。
最近はあまりこうして一緒の時間が取れないから、尚更だ。
テーブルの上には便箋と封筒が乗っている。
それは、お父様とお母様からの頼り。
ここに居を移してからは、実家のホワイト家に顔を見せられていない。 だからこそ有難い言葉が綴られている。
文には私を心配するお父様の文字。 言葉の端々に表れる体調の気遣い。
そしてロナウドの良き伴侶となるべく、努力を怠らないようになさい、と。
そういえば、ロナウドも私同様にホワイト家から足が遠のいているはず。 久しぶりに顔を見せに行くのも良い気晴らしになるかもしれない。
「ねぇ、ロナウド。 今度のお休みに二人でお父様とお母様に会いに行かない?」
「あぁ、もうずっとお会いしていないな。 リリィは里心かい?」
「失礼ね。 二人揃って顔を見せたら喜ぶのではないかと思ったのよ」
お父様とお母様に会いたくなったのだろうとロナウドに指摘され、頬が赤らんだのがわかった。
テーブルに置いたお茶を手に取って口に運んだのは、そんな恥ずかしさを隠す為だ。
テラスには穏やかな空気が流れている。
貴重な語らいの、大切なロナウドとの時間。
そこへ、まるでわざと遮断するように執事が現れた。
「ロナウド様、ロージー様がお見えです」
訪問客のロージーを居間に通していると告げると、そうかと一言だけ返した。
ロナウドは無表情だ。
そして執事に促されるように椅子から立ち上がり、居間へと向かおうとした。 ロージーの姉の私を置いて。
「ロージーが来たの?」
座ったままの私が聞くとロナウドは振り返り、そうらしいと答えた。
「リリィ、ホワイト家のご両親に文を言付けてもらってはどうだい?」
何かを思い出した素振りで私の手を取り、立ち上がらせる。
「ロージーに会うのは久しぶりだろう? 今日は姉妹でゆっくり話すと良い」
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先日Berry,s cafeにて、
『転生令嬢~彼が殺しにやって来る~』の番外編を先行的に掲載しました。