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その先の光

 ×月×日


「リリィ様、日差しのせいか今日は一段と顔色が明るいようですね」


 白髪でピンと姿勢の良い初老の執事は眼鏡がよく似合う。 まるで彼の為にあつらえられたような執事服の胸ポケットに入っているのは白いハンカチーフではなく、もう一つの眼鏡。

 どうやら書物を読む際の眼鏡と使い分けているらしい。


 この邸にはもう何度も訪れていて、もちろんビアンカに会うのが目的。

 ジェイは居る時といない時があり、執事はそれでも構わず私を迎えてくれる。


「体調もすっかり良いのよ。 こうやって散歩できているおかげかしら」


 ここの執事は私の事情を承知だ。

 それはジェイとロナウドが友人同士だからという理由もあるが、周辺地域の様子をどこからか仕入れているらしい。 顔の広い人物のようだ。


「今日はジェイはいらっしゃるの?」


「裏庭の方でビアンカと遊んでおります」


 ジェイはいつどこで仕事しているのだろうか。

 王宮勤めのロナウドが謎の多い男だとジェイを表現していたのは、彼が秘密主義者だからか。


 執事の後ろを歩きながら、玄関から居間を抜けて庭へと出て行く。


 その居間の飾棚の隅に新聞が畳んで置かれてある。

 執事はいつもジェイが読み終わった後で読むらしい。 ここには執事や女中が寝起きする狭い部屋はあっても執事室はない。 だから雑務をする時はこの居間の隅しかないのだ。


「こんにちは、ジェイ。 何か目新しいニュースはありました?」


「やぁ、リリィ嬢。 新聞には載っていないが、ニュースと言えばニュースと言えそうな話題はあるよ」


「あら、それはどんな?」


 ビアンカの身体には、ようやくうっすらとした毛が生えてきた。

 庭で歩く小さなその姿はまるでジェイを親と認識しているようで、彼が動く度にビアンカもついて行くといった格好だ。


 執事は私をジェイのいる庭へ案内すると、お茶の準備をしに居間へと戻って行った。


「ミハイゼン王国にはリリィ嬢という、それはとても美しい女性がいるらしいのだが、残念な事に彼女は目の前の男よりビアンカ姫に夢中らしい」


「その女性はきっとハンカチで目隠しされていますのね」


「おや、その女性は男の魅力に気づく可能性はあるという事かな?」


「婚約者のいる女性を口説くなんて立派な殿方とは言えませんわね」


 軽口が叩けるくらいの親しさになったのは、私の体調にも影響を及ぼしている。

 医師にも、もう昏睡の影響は無く、体力をつけるのみだと後押しされた。


「今日もロナウドは王宮かい?」


「えぇ、大事なお仕事ですもの」


「君を放ったらかしにしても構わない仕事なんてあるとは思えないが」


「そういえばロナウドが言ってました。 ジェイはトラウデンバーグのご出身ですからご存知でしょう?」


「なんの事だい?」


「トラウデンバーグの王子が体調不良で寝込んでいるらしいですわ」


「あの国の王子は情けないね。 確か、もうずいぶん国民に顔を見せていないはずだが」


「どこがお悪いのでしょうか?」


「さぁね、恋の病かもしれないよ?」


「本当は行方不明なのを隠しているのではないかといった噂もあるようですわ。 全くの元気で、寝込んでもいないと」


「あの王子は人前に出たがらない恥ずかしがりだと聞いたよ。 身体が弱いから寝込むのはいつもの事ではないのかな」


「ジェイは王子に会った事がおありですの?」


「いや、夜会でチラッと見掛けたくらいだね」


「王子が行方不明だなんて確かにありえない話ですわね」

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