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第6話 間諜メイドは学院に放り込まれる

「お嬢様が行かなくていいのならば私も同じ理由で行かなくていいような気がするのですが……駄目なんでしょうか」

学院とかめんどくさいです、という顔を私は隠しもせずにリーゼお嬢様に申し出ました。本音のところではリーゼお嬢様と一年以上離れるとかなかなかの苦行に思えたゆえです。

だって報告する情報を本格的に自分で選別しなくてはならなくなります。

ちなみにリーゼお嬢様は病気のために学院にはいかず、めったなことでは表舞台には出ない深窓の令嬢、ということになっております。それゆえ学院に通うとかえってまずいわけです、が。なぜ私が巻き込まれてないのですか、解しかねます。

「なんで嫌がるのかわからないけれど……とりあえず、既に同僚が何人か入っているわ、あの学院には。まぁ王太子殿下の護衛なんだけど。記憶もそいつ経由で読むからいつも通りよ」

「なら安心しました」

記憶を読まれることを喜んでいる私にリーゼお嬢様は深々とため息をつかれました。

「普通、記憶を読まれることに抵抗とか覚えないの?視ない約束が一応あるとはいえ貴方自身の記憶も見放題な状態なのよ?」

「そういわれましても。これで記憶解読に抵抗したら即首が飛ぶんですからそこを考えるだけ無駄です。でしたら面倒な情報処理部分をやってもらえるほうがよほど楽だなと思います」

「なんだかとても罪深い子を作ってしまった気がするわ……必要だったとはいえ……」

正直にお答えしたらさらにリーゼお嬢様は深々とため息をつかれました。

「それより、なんで私だけ学院に潜入する羽目になるんでしょう?いえお嬢様が行かないのは既定路線ですし問題ないのですが、その専属メイドの私もあまり表に出すものではないのでは?」

「出さないほうがあなたの場合は目立つからよ」

はて。表に出ないほうが目立たないはずなのにどういうことでしょう。

「いくら躾がどうのといってもね、平民出身の貴族が学院も介さずに完璧に貴族社会に溶け込んでいるというほうが難しいの。だから3年…はもったいないから飛び級して1年でもいいけど、普通に学生してきなさい。命令よ」

「溶け込めている自覚はないのですが。……溶け込む努力が必要だった、ということでしょうか?」

「溶け込めてるから問題なのよ……」

リーゼお嬢様がなぜか頭を抱えておっしゃられました。わけがわかりません。平民出身の私のどこが貴族然としているというのか。素はいまだに山猫でいるつもりなのですが。

「少なくとも表向き男爵令嬢のメイドとしては完璧すぎるのよ貴方。少しぐらい悪さをしてきなさい、素を出していいから」

「素を出せ、と申されましても……よほどのことがなければ出ないことはご存じですよね、お嬢様」

出せと言われて出せるものでもありません。そもそも、最初の数か月、その山猫ぶりを徹底的に出さないようにした張本人であるリーゼお嬢様から言われるのはさすがに不本意です。

「だから学院で理不尽な目に何度か会えば多少は山猫に戻るかなぁ……という淡い期待をね……完璧に仕上げすぎたわ当時の私は……」

なぜかお嬢様が自分の仕事を後悔し始めておられる様子です。レアな光景ですが、当事者に私が含まれているのであまり笑ってられません。

「……つまりメイドとして多少不良になって戻って来いと。そう仰っておられるのですか、お嬢様は」

非常に不本意です、という顔を表情に出しながら質問を発します。この表情を出しているという時点で専属メイドとしてはあまりに不適格だと思うのですが、お嬢様のお心が最近よくわかりません。

「というか平民っぽくなれというか……あなたね、不満げな表情を意図的に出して不適格ですと主張したいならまずそれを来客の前で披露しなさい」

「そのようなことがメイドとして許されるわけないじゃないですかお嬢様。……最近お疲れなのでは?言動が不安定に見えます」

そう、ここはプライベートスペースだから私も多少羽目を外して素を出そうとしてみたりする気にはなれます。ですが公的な場所は別──学院ともなれば常時猫をかぶることになります。

「……そうね、ここで猫をかぶらないでいるのが問題だったのかもしれないわね」

「かぶり続けていいなら遠慮なくかぶり続けます」

私に施されたメイド教育をあまり甘く見ないでいただきたいものです。かぶれと言われればそれこそ一生猫をかぶるのもやぶさかではありません……というか猫をかぶらない姿のほうが負担だという事実にお嬢様は気づかれておられるのでしょうか。

「わかった。じゃあ入学まで、もちろん入学後も、猫をかぶり続けなさい。それでぼろが出るようなら何か考えてあげるから」

まるでぼろを出せと言わんばかりの命令ですが、かぶり続けろと言われた以上はかぶり続けます。そうしたいのが本音ですし。


結局入学の日まで、お嬢様は私を見て深いため息をつくことが増えただけでした。何がしたかったのやら。


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