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 旧軍事基地と廃墟の都市との間に広がる荒野だが、フィールドとして見ると本当に何もない、真っ平らな大地(戦場)だ。

 砂漠・丘陵のようなGH(ギアーズヘッド)の巨体を隠せる起伏が存在せず、光学系兵器の威力を減衰、視認性を悪化させる天候不順も極端に少ない。戦闘に影響を及ぼすギミックがほぼ存在しないバニラなフィールドである。唯一の注意点として地中掘削型の中型無人機が地下から湧く。ただその兆候も奇襲とは程遠く、油断さえしなければ迎撃は難しくない。


 一見すると機体性能とリターナーの実力以外は介在しない無慈悲な戦場だが、如何せん見晴らしが良過ぎ、更には郊外から都市に向かう最短ルートなこともあり、ーー乱入・横槍が非常に多い。

 都市内部のエリアより目立つ場所で、郊外の拠点で兵装を充足したプレイヤー達による偶発的な遭遇戦では戦闘を回避する意思が働きにくく、また消耗した敵集団を見て漁夫の利を狙うプレイヤーも立て続けに乱入して酷い乱戦と化す。βだとしょっちゅう化した。


 撃破数稼ぎとしてみると悪くない……のだが、全方位から無作為に飛び交う砲弾・光弾の雨あられや、ミサイル・榴弾の無慈悲な範囲攻撃による安置のない戦場で最後まで生き残るのは流石に厳しいものがある。そうして生き残って得られるのは、損耗した火器と中途半端に耐久値の減った装甲。

 消耗した機体で本命の都市攻略に挑戦するのは無謀だ。本来なら荒野での交戦は非合理的だが、それでも戦闘は起きる時は起きる。もし巻き込まれた場合は即座に切り上げ離脱するのが吉、なのだが……まあ難しい。その時はその時だ。




 GHを駆り、障害物の一つさえ存在しない荒野を進む最中にも、時折背部フライトユニットを用いた短時間のブーストダッシュを繰り返して使い勝手を確かめる。R(レア)等級とはいえフライトユニットを搭載する機体の最高速は10倍近くまで跳ね上がっている。今のうちにゲームスピードに目を慣らしておく準備であるのと、全力移動による轟音を利用した、このフィールドに潜む獲物に対する釣り餌だ。


 熱源接近アラート。しかし三次元レーダーが映すマップに敵機を示す光点は表示されない。

 それもその筈。前述した通り、荒野に湧く無人機の出現位置はーー地下だ。


 一旦GHを着地させ、出現タイミングを計る。機体越しに伝わる規則的な地響きに神経を研ぎ澄まし、ーー推力全開、機体を急速前進、即座の急旋回で「捕食行動」を正面に捉えつつ距離を取る。


(相変わらずデカい。……そしてキモい)


 機体前方の先程までいた地点が捲れ吹き飛び、ビルと見紛うサイズの「中型」無人機がその姿を顕にした。いわゆる中ボス相当の無人機で正式名称不明、通称は『ムカデ』。脚は無く地上では蛇のように移動するが、片側15門の格納式砲塔が規則正しくリターナーをつけ狙う様は、蠢く足のように見えることからそう呼ばれている。


 その最大の特徴は頭、いや「口腔」だ。


 自身の巨体をビルの如く直立させていた無人機が鎌首を擡げ、こちらを見据えた。顔はなく、ただ挟むための一対の鉤爪(クロー)と、獲物をすり潰す平べったい掘削機(ドリル)で構成された頭部。

 普段は地中に潜み、何らかの手段でGHの反応を検知すると直下から強襲、クローで捕らえてドリルですり潰す。これはどれほどGHの装甲の質が良かろうと問答無用で撃破判定まで持っていく厄介な初見殺しだ。


 ただ、サイズと即死攻撃は一見脅威だが、討伐推奨人数は1〜4。単騎でも十分に撃破可能なエネミーとして設定されている。理由は貧弱な正面火力と低い機動力、その初見殺しも地上では剥き出しの弱点にしかならないためだ。


 鼻っ面にショットガン、ENライフル、肩部迫撃砲の全砲門を突きつけ、斉射。ムカデの武器であり弱点でもある頭部に着弾した迫撃砲弾が派手な爆炎を齎し、耐久値の減った正面装甲を熱線が貫徹、開いた痕から無数の小球(ペレット)が巨体の内部機構を散々に傷付ける。続けて装填、排熱を終えた火器から順に立て続けに叩き込み、着実にダメージを与えていく。


 自慢の捕食腔を破壊されたムカデはまるで生き物のようにのたうち回り側面を晒すが、その動作で横一列に並ぶ砲塔15門の照準全てがこちらに揃い、一斉に火を噴いた。


 スラスター出力最大。機体を8時方向、斜め後方への全速後退で回避。狙いが一点に絞られ、むしろ避けやすい全ての砲弾が右側面後方に着弾するのを尻目に、機体のつま先が地面に掠りかねない超低空を飛翔してムカデの頭部目掛け回り込む。

 ひたすら砲塔の死角となる正面ポジションを占有し、常に彼我の距離を維持して攻めるのがムカデ討伐戦での定石だ。敵の火線の数を最小側に抑えつつ、常に弱点を捉えて耐久値を削る。時折巨体を武器に用いた突進攻撃で轢殺を狙ってくるが、モーションの兆候だけ見逃さなければ無駄な足掻きだ。

 このペースならそう時間も掛からず撃破に至り、弾薬も十分に残せる筈だったが、残念ながら〈ルインズプラネット〉の戦場において、タイマンで決着がつく場面はあまり多くない。


 レーダーアラート。予測通りに、かなりの速度で接近するGHの存在をレーダーが捉えた。これだけ派手に暴れていれば捕捉されるのも当然だが、それにしても間が悪いことこの上ないタイミングで来たな。面倒なことにならなきゃ良いが。

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