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「……ぁぶな」
モニターに映る、胸部装甲が真っ赤に染まった機体モデルにぞっとする。四桁近い耐久値が残り二桁まで擦り減っていた。
あと少しアサルトライフルの装弾数が多ければ、グレネードで仕留め損なっていたら、動力部を撃ち抜かれて格納庫送りになっていた。
無人機を吹き飛ばしたグレネードだが、マニピュレーターの兵装を持ち替える必要のない、頭部側面に懸架したラックから射出されるタイプのものだ。両手が塞がっていても使用可能と補助兵装としての利便性が向上しており、直撃なら生半可な装甲のGHを大破させるその火力も相俟って、序盤では特に重宝される。……しかし射出した後に僅かな遅延を置いて爆発する特性上、ゲームスピードが跳ね上がり、縦横無尽に戦場を駆け巡る中盤以降の戦闘ではほとんど無力だ。
とはいえ売価は小型の消耗品としては意外と悪くない。終盤まで残っていた場合は無理に使わず、他の資材と一緒に売り払うことも選択肢に入る程度には、拾っておいて損のない兵器といえた。
(ライフルは……まあ無理か。見事にバラバラだよ)
耐久が減った状態から派手に爆風に巻き込まれた無人機は、残念ながら四脚が千切れ飛んでスクラップと化していた。当然搭載していた等級の高そうなアサルトライフルも破損しており、モニターに表示された品質評価も完全破損のジャンク品扱いで使えそうにない。過剰な火力で火器の鹵獲が難しくなるのも〈ルインズプラネット〉特有のグレネードのデメリットといえる。
このゲームは敵を倒せば終わりではない。物資を得て無事に帰還し、金を稼ぐ。その繰り返しだ。撃破した敵から奪い取れる物資の価値も下げてしまう範囲攻撃は、戦闘面で頼りになるが故に多用すると、むしろ得られる利益が減じるのだ。
とはいえ、そのことを事前に知っていたからこそ一機目は上手い具合に火器を残して撃破することができた。予想外に動きの良かった新型無人機はやむなく撃破を優先したが、消耗した装甲と弾薬の収支でいえば悪くない戦果の筈。
今回の戦闘における一番の戦利品だが、ーー回転式弾倉のSRセミオートショットガン〈NNR-ストライカーズ〉。
ショットガンといえば短射程・広範囲という印象を持たれがちだが、〈ストライカーズ〉は極めて狭い範囲に無数の小球を叩き込み、その箇所を破砕する調整を施された散弾銃だ。集弾率の高さに比例して射程も長く、癖はあるが極めて強力な特性を有したSR等級の兵器といえる。βテスト時代の経験から、胸部装甲に甚大な損害を負った上で尚、お釣りがくると思っている程度には強かった。
その〈ストライカー〉とハンドガンを持ち替えておく。二機撃破の戦果を上げ、意外と頼りになったハンドガンだが、ここを離れ、都市圏で使用するには流石に火力不足が目立つ。サブウェポンとしてもここまでが限界だろう。ジャンク品故に売却値も安く、火器携行枠を埋める
胸の内で感謝を捧げ、ジャンクハンドガンをこの場で投棄。改めて目的地の基地中心部を目指し、機体を進める。
「……まだいるな」
程なくして到達した基地中心部は、物資を満載にしたGHサイズのコンテナが立ち並ぶ集積地だった。このコンテナ一つ一つを検分して火器装甲その他諸々を揃えれば、都市圏での戦闘にも耐えられる性能のGHが用意できる。ただ、敷地内に侵入するのと同時にレーダーが捕捉した四つの光点への対処が先だ。
(直前までレーダーに反応はなかった。ラインを踏むと起動するタイプか)
無人機は、先のように定められたルートを巡回する徘徊型に加えて、拠点内に侵入、もしくは物資の収奪に反応して起動する防衛型も存在する。多くは固定されて移動しないタイプのセントリーガンだが、今回は例外だった。
三次元レーダーの光点が、ゆっくり上空へと浮かび上がっていく。
「ドローンか……」
円盤状の本体に銃器を吊り下げ、低空を浮遊するドローンガンポッド。UAVとも呼ばれる無人航空機が4、赤いセンサーアイを忙しなく動かして侵入者を探している。……地上を這う無人機も定義上はドローンだったか? まあ細かい分類なんて気にする必要もないが。
すかさず〈ストライカーズ〉に積み替えておいた低倍率スコープを手近な一機に合わせ、トリガーを引く。
命中。センサーと動力部を内蔵した円盤の過半が無数の小球によって消し飛び、黒煙を上げて墜落する。戦果の確認は後回しに、俄かに動きの良くなったドローンにも散弾を叩き込んで撃ち落としていく。
飛行型の無人機は重量を抑えて少ない部品で浮遊する関係上、耐久性が非常に低い。ビルが林立するエリアの上空で飛び回られると鬱陶しいことこの上ないが、開けた場所で、あの高度と速度なら鴨撃ちの標的にしかならない。
程なくして4機全ての排除を終えた。呆気ない気もするが本来無人機……つまりNPCの戦闘能力なんてこんなものだ。都市深層部の例外を除けば雑魚、プレイヤーに武器を貢ぐ都合の良い賑やかし。新型の車輪式四脚に高等級アサルトライフルを積んでいたアレが例外なだけである。……その筈だ。
スクラップと化した無人機がドロップしたのはJUNK品の無反動滑腔砲とその弾薬。使い途もないし、一旦ドローンポッドで資材を回収する予定だったので、これも纏めてドロップシップに送る。小遣い程度の稼ぎになるから無駄にはならない。
さて、正式サービス初のボーナスチェストだ。宝ーーランダムに物資が詰め込まれたコンテナの数は10個。予めドローンポッドを要請し、機体をコンテナに寄せて中身のデータをスキャンする。
……〈鉄鉱石コンテナ〉
……〈錫鉱石コンテナ〉
……〈銅鉱石コンテナ〉
……〈錫鉱石コンテナ〉
……〈鉄鉱石コンテナ〉
……〈鉄鉱石コンテナ〉
……〈銅鉱石コンテナ〉
……〈錫鉱石コンテナ〉
……〈鉄鉱石コンテナ〉
……《兵装コンテナ》
「……きた」
クズ運を発揮して換金用の未製錬鉱石ばかりドロップしたが、辛うじて最後のコンテナで当たりが出た。いや、軍事基地は銃器・弾薬の獲得が容易とはなんだったのか。
兎も角中身は……よし、欲しかった背部スラスターが出た。等級こそRだが、これで都市中枢に移動する為の足が手に入った。後は基地内部を捜索して適当に兵装を見繕ってこの集積所ともお別れだ。