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それから間もなく、GHの頭部レーダーが複数の熱源を捕捉した。
数は2。ホログラムマップ上に表示された光点の動きの鈍さから判断して、予想通り無人機とみて間違いないだろう。こちらは無人機が搭載するレーダーに捕捉されておらず、通常の巡回パターンに則って施設周辺を徘徊中だ。
無人機が持つレーダーの性能は、基本的にジャンク製の頭部レーダー以下の性能しか有していない。だから余程無用心な前進や、周辺警戒を怠って不意の遭遇でも起きない限りは彼らに奇襲を受けることはまずない。その一方で、無人機は「反撃してくる資源」としての位置付けから、等級の高い兵装を装備した機体が多い。時によっては高性能な火砲をCPU特有の精度で弾丸をばら撒くため、正面からの撃ち合いだとシンプルに手強くなる。
装備が足りてない時期に戦う場合、先制攻撃というアドバンテージ一つで渡り合う必要があり、意外と神経を使う標的といえる。まあ奇襲なら連中が振り向いて反撃に移る前に耐久値を削り切れてしまうし、なんならEMPグレネードを使えば長時間の行動不能を起こし、無防備と化すので鴨撃ちも容易だ。要は事前の準備さえ済ませれば、本当に「歩く資源」でしかないというわけだ。
(なによりドロップ品が美味い、と)
ライトマシンガンのキルレンジまで距離を詰め、マップ上の光点が建物の陰から出てくるタイミングを待つ。
暫くして角から姿を見せたのは、四脚にランク3相当のショットガンを据える、ごく一般的なセントリーガンタイプの無人機。予想通り未だにこちらに気付いていないその無防備な側面に照準を合わせ、トリガーを引く。
重厚な銃声と強烈なマズルフラッシュがモニター下部右側面から発生し、可視化された銃弾が無人機の脆い脚部に命中、火花を散らして装甲が弾け飛ぶ。不意の襲撃を受けた無人機は感情が介在しないNPCらしく即座に旋回を試みるが、それよりも早くライトマシンガンから吐き出された徹甲弾がその耐久値を削り切り、無人機は崩れ落ちた。見た目相応に脆い点も変わってないな。一応四脚と銃座を繋ぐ基部が弱点とされているが、全体的に装甲が薄いからどこを狙っても撃破に掛かる時間に大した差はない。
確殺ラインの火力を叩き込んだと確信し、即座に次のターゲットの挙動に神経を研ぎ澄ます。が、煙を上げる残骸の背後から火砲を閃かせて飛び出したもう一機の姿に、若干面食らうこととなった。
(ホイール駆動に……、アサルトライフル? 微妙なとこに修正入れたな!)
脚部は同じ四脚だが、その末端に球状のホイールが付いている。それが地面を滑るような走行を可能とし、歩行型とは比べ物にならない速度と滑らかさで彼我の距離が縮み始めた。
βテストでは見かけなかった高機動タイプの無人機だ。加えて搭載する火器は長射程、高火力のアサルトライフル。ショットガンやサブマシンガン等の短射程武装しか持たなかった歩行型とは脅威度が雲泥の差だ。
無人機を観察する間もライトマシンガンの残弾をばら撒きつつ後退し、近場の建物の陰に隠れようと試みるが……駄目だ、あのホイール型四脚の機動力だと、遮蔽から狙い撃ちにするよりも早く回り込まれる。さらにあろうことか、左右に機体を振って弾幕から逃れるように回避機動を取り始めた。
それでも並以上の集弾性能があれば耐久値を削り切るだけの弾を命中させられた自信はあるが、もともとイマイチな集弾率を誇るライトマシンガンのジャンク品での移動撃ちが災いし、ほとんど命中していない。
「初めての被撃墜がNPCは洒落にならない!」
思わず口を突いて出た本音に若干戸惑いつつも、そのお陰で覚悟を決められた。鋼鉄の巨人の膂力を以ってしてもブレる銃口を抑えつつ、今の自機が持てる全火力を叩き込む為、左腕のハンドガンも正面に据えてトリガーを引く。
やられる前に殺る。後退を止め、ライトマシンガンをフルオート射撃に設定。自分はハンドガンでの精密射撃と、最大火力の兵装を叩きつけるタイミングを窺い集中する。
NPCは武器や脚部を狙ったりせず、ただ真っ直ぐ、最も装甲が厚い機体の胴体の中心目掛けて撃ってくる。その胴体は、Cだが重い代わりに相応の防御力を誇るGGW社製の装甲で、SR等級のアサルトライフルが相手でも幾らかは耐える。装甲を貫徹される前に倒せばこちらの勝ちだ。
「──っ!」
モニター下部、──頭部センサーの下から激しい火花が散り、同時に強い衝撃がコックピットにいる自身を揺らす。
初被弾。アタッチメントの反応装甲が、本来胸部装甲が受けるべきダメージの数%を肩代わりして全損。柔くも堅くもない緑色の分厚い装甲に弾痕が穿たれる。
動悸で逸る心音を煩わしく思いつつも、ハンドガンの照準だけは無人機を捉えて離さず、1発、2発とトリガーを引き続ける。
(……耐えた!)
耐久値の低い無人機を沈めるよりも早く、高レートを誇るアサルトライフルが装甲を破砕するよりも先に、互いの弾倉が空となって火線が途絶える。同時にリロード作業で生じた僅かな静寂は、──放物線を描いて足元まで転がったグレネードが無人機諸共吹き飛ばした。